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「第一はあのシルエットね」

「シルエット」

「華奢だけれど細いだけじゃないって感じがいいわね。あとヒップがプリンッて感じでいい」

 それも女の子特有では?

「次は顔ね」

「顔」

「すっぴんなのに可愛いのよ! 眼鏡を掛けているけど睫は長いし、少し切れ長な瞳も色気があっていいわ」

「色気って」

「彼はまだ若いし、そんなにすぐってわけじゃないけど」

 ウインクするな。大体向こうは俺等よりグンと若いのに。

「歳なんて関係ないわよ。好きだと思ったら好きなんだから。一回り違っても別に変じゃないでしょ」

「いや、一回りじゃきかないだろ」

「えー、きっと二十代前半よ。逮捕されないわよ」

「俺には高校生くらいに見えたけど」

「見る目無いわね。それでもバーテンダーなの?」

 その言葉でふと、不安になる。

 十年以上バーテンとして働いて来て、それなりに人間観察も上手くなったと思っていたが、それは自信過剰だったのかも?

 だって俺にはイツキ君が女の子に見えるから。

 ミケはオネェスナックのママをしていて、女の子に見える男の子をいつも見えているわけで。そのミケが“男の子”だと言うならやっぱりイツキ君は男の子なのかもしれない、なんて自信が持てなくなってくる。

「なぁ、イツキ君って女の子じゃないのか」

 だから訊いてみた。

「はぁ?」

「違う?」

「違うに決まってるでしょ! どう見たって男の子よ! あんたの目は節穴なの?」

 めっちゃ小馬鹿にしたように言われた。

 えー、やっぱり男の子なのか?

「俺には女の子に見えるだけど」

「確かに女の子みたいに可愛いけどね。あの子は男の子よ。あたしが言うんだから間違いない」

 ミケは自信満々だ。ちなみにイツキ君に性別を問うたりしていない。昨日も普通に接客してもらっただけだ。

「じゃぁさ、もしね」

「うん」

「イツキ君が女の子だったらどうする?」

「女の子だったら?」

 フン、っと鼻息大目にミケは答えた。

「女の子だとしてもイツキ君と付き合いたいわよ。それくらい可愛くて好きってこと」

「へー」

「まぁ、そんなわけないんだけど」

 じゃぁね、と言いたいだけ言ってミケは自分の店へ帰って行った。開店まであと二十分。

 今度ムギローブへ行ったら、男の子なのかと訊いてみることにしようと決めて、制服のボタンを留めた。

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