どすこいベンチャー物語

『おかしいです

 今週の頭から

 取引先の契約解除が相次いでいます』

汗だくで報告するのは

ベンチャー企業『八戸部屋』の営業部長の春の富士




『やっぱりそうでした

 暗黒サービスが裏で動いてるようです

 巨大資本を背景に妨害工作を行っています』

そう言って部屋に入ってきたのは

同じくベンチャー企業『八戸部屋』の技術部長の豪快道




『狙いは、我々の開発したアプリのサービスの停止

 その後に、会社とアプリのシステムを乗っ取る気だ

 困った……』

そう言うのは

『八戸部屋』の代表の月の海




彼ら『八戸部屋』が開発したアプリ『今日のちゃんこ』

に必要な野菜などの食材

季節の旬と市場価格から

その日の食材を提案してくれるサービス

最寄りのスーパーまで紹介する仕組みで

アプリストアの番付を駆け上がった



そんな金星をあげた彼らの会社に異変が起こっていた

スーパー、市場との提携解除の連絡が相次いでいる

裏で、暗黒サービスが動いているからだ



『『今日のちゃんこ』ユーザーからクレームが来ています

 会社の株価も下がり始めました

 最悪です

 暗黒サービスは『八戸部屋』の株を買い集めています』

春の富士が報告する



『事態の展開が早過ぎる

 あらかじめ準備されていたようだ

 周到に仕組まれた八百長だ』

豪快道が話す



『申し訳ない

 力不足だ

 会社もアプリも売ってしまおう』

月の海が肩を落とした




『なに言っているんですか

 この開発を始めた時言ってたじゃないですか

 この小さな部屋から世の中を驚かすような

 イノベーションを起こすんだって』

『今、それが始まったところなんです

 何とか方法はあるはずです

 頑張りましょう』

2人が月の海を励ます

相撲をやめて、新しい事業を始めた時から

支えてくれた2人の言葉は月の海に強く響いた




『そうだ……

 まだ終わっていない

 買収を阻止しよう

 今作っている新しいアプリさえ完成すれば

 会社の株を売ろうなんて言う人はいなくなるはずだ』




『そうです、やりましょう』

『その意気です』

2人も力強く賛同した




『そうだ、諦めるもんか』




一度やると決めた時

その団結力と行動力で

幾度となく3人は大きな力を発揮してきた





『夜食を買いに行ってきます』

春の富士が部屋を出た





『寒い

 初場所は雪かもしれないな』

夜道を急ぐ春の富士



『ドロボー

 ひったくりだー』

夜空に声が響いた



いつの時代、どの世界でも

ひったくりは現れる



原付に乗ったひったくり

向かってくる、その前で春の富士はゆっくり腰を落とした

そして、一閃、『ガツン』と言う音が響く

立ち合い原付としっかりぶつかり、そのまま動きを止めた

勝負は短く、

春の富士はそのまま簡単にひったくりの原付もろとも寄り倒した


原付前かごの盗られたカバンを

おじいさんに返す



白髪のおじいさんが話す

『助かりました

 本当にありがとうございます』


お礼がしたいと言うのでおじいさんに連絡先を伝えた

『そこで『八戸部屋』っていうベンチャー企業をやっています』

春の富士が答える





春の富士が戻ってきた


インスタントちゃんこと力水を食べながら

再び3人で黙々とPCへ向う


春の富士も何事もなかったかのように

ただ、昔の力をいい事に使えた事に清々しさを感じていた





部屋に朝日が差し込み始めた頃

『よし、いける……』

そう月の海は一言つぶやき

2人の寝る傍で、自分もそのまま倒れるように眠った

『ZZZZ・・・・』






次の日


月の海が力強く話す

『株主の皆さん

 今日は狭い部屋にお集まりいただき

 ありがとうございます』


『本日は大事な報告があります

 新しいアプリが完成しました』


『ご覧ください

 これが新アプリ『けい子部屋』です』


『男女のマッチングアプリ

 過去の検索履歴や視聴動画履歴の情報から

 AIがゆるやかにマッチングしてくれます

 利用者はサイトが勧めるショッピングモールに行ってみると

 どういう訳か好みの異性がいる場合が多いという

 文字通り相撲部屋の女将さんのような

 おせっかいを焼いてくれるアプリです』



株主たちは頷いた

『これは斬新だ』

『絶対に流行る』



そこに割って入る一人の男がいた

『暗黒サービス』の縦谷と名乗る男だ

『月の海さんでしたね

 報告ご苦労様です』


『しかし残念な事にあなたは今日で解任されます』


『今朝、あなたの会社『八戸部屋』の株式の

 51%は我々暗黒サービスが取得しました』



『そ、そんな』

春の富士が俯いた



『それと先に言ってきますが

 同じようなツールをわが社で開発していまして

 そちらで事業は引き継がれます』



『こ、これは、私たちが作ったアプリと全く一緒じゃないか

 いったいどういう事だ』

これには、月の海もうろたえた



『彼が開発を引き継ぎます

 豪快道くん』



『ごめんなさい

 飼っている犬が病気になりまして』

豪快道が申し訳そうに話す



『何言ってるんだよ、意味わかんねーよ

 寝返ったな』

春の富士は語気を強めた




『そういう訳です

 株主の皆様

 本日はお集まりありがとうございました』

 今後、『八戸部屋』は縦谷が代表を兼任し運営していきます』



ちょうど縦谷が話を終わろうとしたところだった



『ちょっとまちなさい』

終わろうとした会議に

物言いが入った




そこに立っていたのは、

先日、春の富士がひったくりから助けたおじさん

『おじいさん……今はまずいです…‥お礼なんてまた今度でいいですから

 会議中です…

 大事な話をしているところなんです』

春の富士が慌てて駆け寄る




『話は全て聞かせていただきました』

老人は力強く話す




『あ、あなたは会長

 どうしてこんなところに』

うろたえる縦谷

向正面むこうしょうめんに威風堂々と立つ老人は

暗黒サービスの親会社でもある

通信大手のモンゴルグループの

陳儀数会長

春の富士はとんでもない老人を助けていた



『暗黒サービスの縦谷社長

 道理を曲げて事を進めては、万人の幸せは叶いませんよ

 あなたの立ち回り横綱相撲から大きくかけ離れています

 後で納得いく説明が必要です』


『株主の皆様、『八戸部屋』の皆さま、

 お騒がせして申し訳ありませんでした

 この会社・アプリはこのまま

 月の海さん、あなたに任せます

 あなたが思うようなアプリをこれからも作ってください』


『この勝星はゆずったんじゃない

 土俵際のあなたの頑張りに

 我々が負けたんですよ』




升席の株主からは拍手喝采

豪快道、春の富士も駆け寄り涙を流す

『しょーがないな

 3人でこれからも頑張ろうな』




座布団が飛び交うなか

新製品の発表会は終わった




とうとう千秋楽に角番脱出を果たした八戸部屋

スーパー、市場との提携解消の話は立ちどころに無くなった




その後、波乱万丈、付与曲折を重ね

グルメアプリの世界、出会い系アプリの世界

『八戸部屋』は各界の大横綱になっていったそうな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る