眼鏡拭き
@takesy8at
第1話
これは恋なんだろうか…。
この気持ちはなんだろう?
初めてではないが、心が痛く切ない。
スイッチが一度入ってしまうと、なかなかその熱を冷ますことはできない。
もうこんな思いはあまりしたくないようにも、したい様にも思っていたが、それはあまりにも突然やってくる。
私は独りで頑張っていたのか。りんは独りこれまでの人生を思い返す。
離婚して6年が経っていた。前の夫とは連絡もたまにするし、子供たちと一緒に数ヶ月に一度は会っている。でも普段の生活はもちろん全く別だった。県外だったし、数百キロ離れていたので、日々のゴタゴタは知らずに、前夫は独身生活を送っている。
「あなたは父親の役目も母親の役目もしている。」と。
りんはこれまで幾度も強がって、そして好きに生きてきた。それが男性らしいということでもないかもしれないが。夫に対し不満を持ち、解決できないと判断したら、自らシンングルマザーの道を選んだ。
また子供のことに関しても、思ったことは口にして、改善したいと思ったら自ら突き進んで行動してきた。
ある時、塾講師である大林はりんにそう言った。
毎日でもお家に行って指導します!
お母さんは独りで頑張っているから、その分一緒に頑張らせてもらいます。
いつでも電話してください。いつでも相談にのります。
お母さんが寂しい時も電話してください、と。
孤独なりんに、時にスキンシップ。勘違いする。してもおかしくないだろう。
ある時は電話で話していたら、直接会ってお話ししましょう。お顔を見てお話ししたいです。夜10時以降なら、一人ですから、と、またまた勘違いする。
勘違いポイント、沢山あった。電話だとわかりづらい事もあるからなのかもしれない。会って話すってことは顔を見て本心で話せるからなのか。顔を見たいのか…なんて。
誰に対しても、少なくとも同じような境遇の人には、そうしてきたのだろうか。
塾を辞めたい、と言っていたから、寂しい心を癒す作戦に出たのだろうか。
だとしたらりんはまんまとはまっていることになる。
やや太り気味、いつも皮脂で汚れた眼鏡をかけている、正直イケメンとは程遠い。
でもよく見ると色白、黒子多め、綺麗な瞳、若いうちから責任者を任されている、そんな感じでグイグイこられたら惹かれてしまう。
実際のところ、本人のことはそれほど分からない。
出身大学とか、家族の事とか。聞いてもはぐらかされる。
A型で、奥さんはりんと同い年、子供がいる、本当かどうか。
本人は大阪出身で、長男で姉が一人いる、これは本当のようだ。
個人情報はそのくらい。
大した情報ではない。
その気にさせておいて、と言いたくなる。
お母さんと話していると、僕も楽しいんで。
言わずとも分かってください。人生どう転ぶかなんて分からないと。
なんだ?なんだ?
そりゃ、りんが自由だからといって、他の家庭を壊すなんて権利もない。
けど、寂しい女性に、そんな風に声をかけ、スキンシップして、好意があるような言葉を並べられたら勘違いするだろう。
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