第2話
「だから俺は普通に生きたいんだよ」
「なんでだよー!そんなつまんない人生でいいのか?」
「それはお前の見解だろ。俺は普通に生きることこそ最も難しく、最も人生を楽しむ方法だと思うよ」
「つまんねーの」
そう言って俺の前の席で頬を膨らませるのは俺のこと、俺の生き方を唯一知っている俺の腐れ縁の友人(?)の水髪みずかみ 涼りょうだ。
「ところでさ、今度一緒にバイト初めね?」
「部活あるし、無理だな」
「そんなこと言わないでさー。いいじゃん一週間に一回ぐらいだろうし。」
「いまこの学校でバイトを週一でしている人は何人ぐらいいると思う?」
「なんだよ急に。多分百人いたら多い方かな。」
「俺のモットーは知っているな?」
俺が少し声を低くして言うと
「もちろん。【行き過ぎないように、活きすぎないように生きる】だろ?」
「それを知っているのにこの話を持ってくるお前の将来が心配だよ。
いいか?この学校の全校生徒は何人だ?」
「千人弱だ。」
「つまりこの学校で週一でバイトをしているものは多く見積もっても10%強だ。
お前はこの数字を見てもまだ俺がバイトに行くと思うか?」
「わかったよ。それはお前のモットーに反するんだろ?つまり普通じゃないからやらないんだろ?」
「当たり前だ。今までの俺の苦労を少しは考えてこれから死ぬまで生きろ」
そう俺はここまで本当に苦労して生きてきたのだ。中学校では良くも悪くも目立たないように常にテストで平均的な点数になるように調整していたし、適度に忘れ物もしたし、適度に運動もできるようにしていたのだ。
そしてそれは高校入学して半年たった今も続いている。ちなみに今の成績は学年三二二人中、一六一位だ。
ちなみに部活に入ったのもそのためだ。
この学校はなぜか部活に入る人が全体の八十%超え多種多様な部活動に、それぞれがいそしんでいる。
「でもさ、別に俺と同じジャズ部に入んなくても良かったんじゃないの?」
そう。俺はジャズ部に入った。
ただ友達がいるから。それだけの理由で。
別に楽器を弾くことは苦でない。
しかしそれ以上にジャズ部の部員たちは個性が強すぎる。そのせいか学校の端に追いやられた古い部室で活動しているし、周りからも少し変な目で見られている気がしないわけではない。
それは俺のモットーに反する。
では辞めればいいではないか。という者がいるだろう。愚問だな。
やめたらもっと目立ってしまうだろう!?
そんなやつ明らかに「普通」じゃないだろ!?だって個性爆発してる部活の中でも受け入れられなくてハブられたやつだぞ!?
俺だったら絶対、生涯で一度も関わらないで生きようと誓約書に署名するレベルだ。
そういう訳で俺は部活を辞めません。いや辞められません! はいQ.E.D.!!
という言い訳のような証明を頭の中で済ませたあと
「というわけだよ。」と返答する。
「そーかー。そーだよなー。」
こんな会話が成立する相手はおそらく世界広しといえどこいつだけだろう。
「今のでわかるとはさすがですね」
「とゆうか今のじゃ全然わからない」
突然左右から同じような声が聞こえくる。
さて、高校の教室で、
左右から同じような声。
感じる二方向からの目線。
ましてやこれは暇つぶしの小説。
書き手はもろ青春恋愛ラノベマニア。
この状況から推測できる二つの声のぬし。
さぁこの二人はなんのキャラでしょーか?
簡単すぎるだろうか?そう答えは
――――双子キャラだ。―――――
これは少しテンプレすぎる気もするがやはりテンプレ、「普通」とは最も重要なことなのである。
「人の話を盗み聞きしといて会話の内容にまで口を挟むな」
「あら失礼」
「どこが悪いのかわからない」
双子の姉の神崎かみざき 芽亜めあが謝るのに対して妹の神崎夢亜むあは頭にハテナを浮かべている。
先に言っておこう。
俺はこの二人が心底、いや俺には心というものがわからないので今までの知識を全て活用して考えた結果、
――――――とても苦手だ。
なぜかはまぁわかるだろう。
この二人(特に妹)は人の話、人の考えにすぐに入ってきてはめちゃくちゃにしてしまうからだ!
俺がこの半年間で「普通」でいられたのはこいつらが俺のモットーを知っているからに他ならない。
この二人が俺に初めて会った時に言った言葉は
今でも忘れられない。
「人に合わせて生きるってとてもすごいことだと思いますが、少し控えた方がよろしいですよ」
「作り笑いとても上手、今度おしえて」
こう言ったのだ。
――――バカだろ。
本当、バカだろ。なんで!?本人の前でそんなこ言う 普通!?言わないよね!?
ねぇ!?俺間違ってないよね!?こいつら「普通じゃない」よね!?俺のその時の顔表現してあげたいよ!あれがおそらく辞書で引いた時に出てくる「絶望」を体現したものだったから!
そんなわけで俺はこの二人がまた同じことを起こさないように俺のモットーを教えて、念押しした。
「そうやって人の話にすぐ入り込んできちゃうところだ。夢亜はもっと人間関係について勉強しなさい!」
「妹になんてことを言うの。いいじゃない可愛くて」
「はい、勉強したいので今度デート行こ?」
――――またこれだ。
夢亜は会話のたびに俺をこうやってからかってくる。
「なんでそうなるんだ。あとそれ絶対他の人に言うなよ。俺じゃなかったら惚れる」
「妹にセクハラしないでいいだけますか」
「わかったよー」
そう、一つ言い忘れていた。
まぁ言うまでもないだろうが敢えて言う。
………この二人は可愛い。
普通の女子高生としてはトップレベルに。
まぁ小説内で出てくる双子キャラが可愛くないわけないのだが。
芽亜は膝まで届きそうな長い髪を大きなリボンで結んでいるし、その間から覗く小さな顔はとても整っていてモデルのようである。
夢亜は芽亜とは違って髪が短い。
目が小動物のように愛らしく身長は俺より少し低いぐらいだ。芽亜よりも少し小柄な夢亜はだがまぁでるところは芽亜よりも出ているとだけ言っておこう。
まぁつまりこの二人はルックスは満点なのだ。
ついでに二人揃うともうある程度の数の男子生徒がざわめくほどいろいろな意味でも有名なのだ。こんなのがリアルでお目にかかれるだろうか。
――――否だ!
ではなぜそんな夢亜に俺は惚れないのか。
それは言うまでもなく彼女、いや彼女たちと関わっているだけで目立ってしまうからだ!
俺はモットーに反するものはどんなに可愛い女子高生でも、まじで夢のような可愛い幼馴染展開でも受け付けない!と決めた。
だから俺は半年間「普通」を守り続けられた。
全世界の男子高校生にはこのすごさがわかるだろう!わからないとは言わせないぞ!
「で、お前らは何の用もなく俺らの話を盗み聞きしてたのか?」
「あいにく私もそこまで暇じゃないのよ」
「部活のお話だよー」
「部活?お前ら部活入ってたっけ?」
この二人はなんの部活もやっていなかったはずだ。きっと、おそらく、たぶん。
「やってないわ。だからよ」
芽亜の言葉から何か察したように水髪が聞く。
「まさか、、、ジャズ部に入るってこと!?」
「大正解だよーコバンザメくん」
「だからその呼び方やめてー」
涙目で水髪が言う横で俺はかつてないほどに、いや一回あったな。あの時だ。
小学二年生の時、余ったデザートのじゃんけんに出て勝ちが続いて、周りから
「なにあいつ。空気読めや。」みたいな感じで見られるようになっていったとき。
その時ぐらいに今後の学校生活に不安を感じた。
まぁそれはまた後のお話だ。
二人が職員室に入部届けをもらいに行っている間に俺は足早に家に帰った。幸運なことに今日は部活がなかったからだ。
明日からあの二人に部室でも振り回されると考えるともう一生学校へ行きたくなくなるが、それは「普通」の生徒の行動ではないので、また明日も俺は学校に行く、いや行かなければならない。
そう憂鬱な気分になりながら寝た。
今思えば俺の「普通」のような「普通じゃない」完璧な高校生活が変わっていったのはこのせいだったかもしれない。
まぁつまりあれだ。
青春ラノベにちゃんと出てくるような俺の「普通」の青春が幕を開けてしまったのだ……
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