第4話

 まず最初に立ち上がった男子生徒に皆の視線が集中する。いや、よく見ると大道寺司だけが何処か俯き気味になっていた。


「武極戦覇王。『氷拳嵐脚』『真空拳王』『氷瀑拳アイスバーン』大道寺流魔拳術師範代並びに55代当主大道寺凱世ダイドウジガイセ。そこの不出来な弟の双子の兄だ。まぁ見せるものも特にないが…こんなものか?」


 名乗り上げた後、深呼吸をした凱世は、ゆっくりとした動きで拳を突き出す。そのはらまま拳が伸びきった直後、甲高い破裂音が教室内に響いた。


「おー、びっくりした。成る程、そう言う事が出来るなら魔拳無しで武極戦勝てる訳か。中々素晴らしい。」


「今のを看破するか。いやはや、流石は元ランカーという訳だ。宜しく頼む。」


 司と凱世、ラディと柳生が頷く中他の生徒達は理解不能な現象に口を開けていた。だが、もう1人理解していたらしく凱世の横からぴょこんっと飛び出してきた小柄な女子生徒が自己紹介する前に同じ動きを行う。


「見様見真似で出来るものでは…。」


 その様子を見た凱世が困惑した表情で女子生徒を見つつ、止めようとした瞬間。


 ズパァァンッッ‼︎


 まるで空気を裂いた様な炸裂音が響く。


「…LoMU-15EAリーグ覇者。『猛虎神速』『魔武両道』『閃光』王虎娘ワンフーニャン。宜しくねっ‼︎」


 呆気に取られる凱世達の傍を抜け席に戻った虎娘に続く形でアリシアが立ち上がる。


「LoMEUリーグ覇者。『断罪者』『暴虐聖女』『使徒』アリシア・セラフィ。先生、ちょっと窓開けて良いかしら。」


「ん、構わないが…?」


 首を傾げるラディを尻目にアリシアはスタスタと窓に近づき開け放つ。そして身を乗り出して見渡し何度か頷いた彼女は離れた場所に見える小高い山を指差し


「あれは施設じゃないものね。

大天使ルシフェルの名を代弁し命ずる。天の威光よ大地を貫き杭となれ‼︎『セラフィレイ』」


 短い詠唱の後にこちらに笑顔で振り返るアリシア。直後天から極大の光が降り注ぎ先程指差した山を遠目で分かる形で粉砕する。


「た、短略詠唱で最上位魔術を使うのは素晴らしいが自然破壊はやめてくれ…。」


 これにはラディも頭を抱える。そして残った環に対し『頼むから大人しめで頼む』と視線で念を押してきたので軽く頷き


「LoMU-12〜U-15JPリーグ9連覇覇者。『人形総帥』『無敗王者』『魔神奏者』『操創主』荒魂環。人形遣ドールマスターいです。後はまぁ見せるものは特にないけど…。」


 困り顔で頬を掻きつつより印象に強いものは何かを考える事数秒。やはりこれしかないかと思いたった環は指を鳴らす。

 すると瞬時に15体の人形が現れラディの開けたスペースを埋め尽くした。


「特殊な魔術刻印へと変化させているから召喚に詠唱は不要な位かな。」


 一同が唖然とする中席へと戻る。詠唱不要の魔術師。その言葉だけでどれだけのアドバンテージだが取れるのか理解している彼らは改めて荒魂環と言う存在が強大なのかを理解した。


「おし、これで全員か。ま、最初のランクなんてほぼ飾りだから皆本当努力は怠るなよ?

さて、次は…っと。今年からLoMのルールが変わる。前から言われてた内容もさながら最も違うのは事だな。」


 ラディの言葉に全員が唖然とする。だが、それを気にせずラディは言葉を続けた。


「今年のLoMは3on3。競技内容は『殲滅』『防衛』『勝ち抜き』この3種類になる。そしてなにより使となっている。君達ならこの意味がわかるだろう?」


「…っ⁈

暗殺術や禁忌呪詛も使用可能という事ですか⁈」


「聡明で結構。つまり、今まで裏稼業で名を上げてきた者たちが名分を持ってLoMへと参入できる。U-18までの試合では今まで殺生になる試合は止められていたが…かの者達が参入した事により本家と大差ない内容となっている。無論蘇生はされるが魔術師は刻印を剥奪されての消失だけは避けろ。助ける術がないからな。」


 ラディの言葉に思い出されるのは先日のLoMで行われた頂上決戦での出来事。魔喰により刻印を剥がされたエレインの身に起きたのは単なる魔力の暴発などではなく、刻印剥奪による契約の強制解除に伴う誓約破棄。その代償として魂ごと肉体を喰われたのである。そもそも、超越存在かれらが人類に力を貸す理由の一つに、魔力を育てさせ死ぬ時に食らう為といった人間を家畜と同等に見ているとの見解がある。真偽はどうであれ与えた刻印が失われると言うのは蘇生魔術程度ではどうしようもない次元での命のやり取りとなる。

 そして暗殺術や禁忌呪詛の類には刻印剥奪や封印を行う為の術がある。ラディの二つ名など可愛く見えてしまう正真正銘の魔術師殺しであった。


「俺も過去に一度刻印を抜かれかけたがあれは2度とごめんだ。おそらく神経を引っ張られたらあんな感じなのだろうな。」


 どちらにせよ経験する事自体が稀有な事柄を述べるラディの言葉に息を飲みつつ配られたLoMのルール改定内容が記された紙に目を配る。箇条書きになった変更点が並ぶ中ふと疑問が浮かんだ。


「そう言えばチームの編成内容は自由なんですか?」


「ああ。魔術師だけで固めるのも武術家だけで固めるのもハイブリッドな型を取るのも可能だ。その代わり有利不利は全て自己責任。明日からチームの出願が始まる。期限は1ヶ月。それと、これを見るんだ。」


 説明をしながらラディは全員に携帯端末を手渡す。そこには自分の学生証が表示されており、画面を触ると様々なメニューが表示された。


「この中に入学試験時の各生徒全ての能力値や得技が記されている。これを元に勧誘を行い自分にとって最適なチームを組め。ちなみに間に合わなかった場合春季のLoMは出場出来ない。積極的に行動するといい。」


 端末についての説明が終わると同時にチャイムが鳴る。それに合わせラディも切り上げ教室を後にした。


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