第2話終わりの歯車
アルは逃げ隠れていた。
騎士や竜に見つからないように。
おそらく発見されたら周りみたいに殺されるだろう。
自宅の屋根裏部屋に隠れると息を殺し板と板の隙間から中に入ってくる騎士を確認した。
今にも嘔吐しそうな程怯えていた。
心臓の音がきこえるんじゃないかと言うくらいアルの心臓は鼓動が大きくなっていく。
騎士は気づく素振りもなく何事も無かったかに見えた。
しかし、この家は古くだいぶ木も腐ってきていた。
足音を立てぬようそっと移動したつもりが、
「ミシッ 」という大きな音を出してしまった。
これには騎士も気づき上を見上げた。
何かがいると感じた騎士は槍を持ち屋根のど真ん中を思い切り衝いた。
アルは部屋の隅に隠れていた為に無傷だった。
大きな穴が空いて中を覗こうとする騎士に緊張感が一気に高まる。
もう21歳になるが今にも尿を漏らしそうだった。
騎士がアルのいる方向を見ようとしたその時、他の騎士から呼び出され外へ出ていった。
足が震え力が入らなく体もうまく起き上がることが出来なかった。
体の自由が効いたのはそれからしばらく経ってから。
一息ついて呼吸を整えたアルは外へ出て周りを見て回った。
村は壊滅していた。
人気が無く家も大半は崩れ商店街にいつも並ぶ果実も地面に落ちグシャグシャに潰れていた。
これを見て怒りが込み上げてくるも、恐怖が勝り何も考えることが出来ない。
そんな時影から何人かの女性と子供が出てきた。
アルは村一番に行動力があると言われるだけあってそこにいた人全員から「助けて 」と訴えられた。
何も出来なかった。騎士を目の前にして足がすくんだだけで、反撃する勇気も出なかった。
内心思った。
「なんで僕なんだ、もっと頼れる人間が他にもいるだろう。
なんでじっと見つめるんだ、僕は今何もしてやれないのに。」
それでも彼は口にしてしまった。
「僕があれ(騎士)を倒します!だから安心してください!」と。
口だけでしか言えないこんな重みのない言葉でも人の心に少しでも希望を与えた。
村の襲撃から一夜明けた。
アルは大きなリュックを背負い沢山の村人に手を振り出ていった。
彼は村人達に別れを告げ大都市「オーマトラン帝国」に行くことを決心した。
そこには騎士に対抗する大勢の男がまとめられた部隊があると聞いた。
食料が数少なくなった今、歩いているアルを襲う人間もいた。
アルは走って逃げたが後ろから鉄のパイプらしき硬いもので打たれ倒れた。
視界が霞み意識が遠くなっていき、遂にそこに倒れ気を失った。
しばらくして目が覚めると辺りは暗く夜になっていた。
「気がついたかい?」
若い男が転がっているアルに声を掛けた。
その男は帝国へ行く途中で、目の前で山賊に襲われる彼がいた。
男は鋭く素早い斬撃を放ち山賊を一掃した。
そしてアルは命を救われた。
守ってくれたと言う男に礼を言い名前を尋ねた。
男の名は「リーム・クリサルト」。
アルはリームに今起きている事を聞いた。
この世界の柱である永久樹木が騎士達の手により切り落とされそうになっていると。
別にそこら辺の木を切り落としただけじゃ何にもならない。
でもこの世界は違う。
リームが言うに世界の地盤、プレートとプレートを繋げているのが永久樹木の根であり、木に何らかの一定量のダメージを与えると不思議な程に目にも止まらぬ凄い速さで枯れていくのだ。
枯れるとプレートは崩れ、地下にあるマグマが吹き出したり地震が起こり大陸が崩壊する可能性もある。
一本の木が枯れる事で世界が終わるとはこの事だったのかと、アルは本当の理由を知った気がした。
そしてもう一つ、リームは真実を口にした。
「この世界はもう枯れ始めている。」
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