第39話 第二ラウンド
「ここからが本番だカエル野郎」
シロは両手に握る銃に力を加えながらそう言い放った。顔には不敵な笑みを浮かべている。
何となく彼がやったことが分かったユキであったがフィーリアが状況に追いついていないので訊いてみる。
「シロ君、大丈夫?」
「おう、あと数秒遅かったら死んでいたな」
「で? 何したの?」
ユキの問いに大きく頷くフィーリア。それが訊きたかったと言わんばかりの動きである。もう隠すことが難しくなったため、素直にシロは答えた。
「とにかく、あの状態から脱出したかったから【
先ほど、アサシンフロッグの肩から出て来た青い線は
その説明を聞いてユキは「なるほど」と簡単に納得。説明を聞いてもまだ理解が出来ていないフィーリアであったがとにかく頷いてみる。
「さて、話は終わりだ。こっからが正念場だぞ」
二人に告げると真剣な顔に戻るシロ。それを見て自然と二人も表情を変えた。
シロの視線の先を見てみると飛ばされたアサシンフロッグが体を起こす場面が見られた。
「ユキ、また支援頼めるか」
視線を前に向けたままシロはユキにそう言った。一瞬、ユキは呆然とした表情を浮かべたが次には嬉しそうに笑みを浮かべた。これまで、シロがユキに何かを頼ると言う場面は彼女の記憶にある限り、モンスターをトレインした時だけだ。それだけに今、重要な時にシロに頼られると言うのがユキは嬉しかったのだ。
「もちろん!!」
威勢よく頷くユキを見てシロは頷き返した。一方でフィーリアの方に顔を向ける。
「フィーリアにも頼みたいことがあるけどいい?」
「は、はい! 何ですか!?」
シロの言葉にびっくりしながらもフィーリアは前のめりで訊く。この中で一番レベルが低い自分が頼られることがある事実がフィーリアのやる気を各段と上げた。
「____」
「えっ、わ、私にそんなこと……」
シロの言った内容にフィーリアは先ほどのやる気はどこへやら途端に自信なさげに縮こまらせた。
「出来る」
だが、シロが一言だけそう言うと後はフィーリアの目だけを見つめる。その真っすぐな瞳に見つめられるフィーリアは恥ずかしさや自信のなさが消え、催眠術にかかったかのように何故か自分ならとやる気が胸の奥底から湧き上がった。
「……はい、やります」
「よし来た」
シロはフィーリアの答えを聞くと安心したかのように微笑んだ。
「GEROOOOOO!!」
やがて、体を完全に起こしたアサシンフロッグがシロたちに向かって雄たけびとは呼べないが十分に自身の存在を示せる鳴き声を上げる。
「チェンジ、両手剣」
シロは一度、【
「【
杖から放たれた【支援魔法】はシロの体を各色で包む。準備が出来たシロは足腰に力を加え、いつでも飛び出せる体勢をとる。
アサシンフロッグのHPは残り半分、一方でシロのHPも残り半分だ。しかし、シロは一撃でも喰らえば負け、対してアサシンフロッグはあと何度攻撃を当てれば削り切れるか分からない。傍から見ればシロのほうが圧倒的に不利な状況だ。
だが、何故かシロは負ける気がしなかった。
睨みあう両者。静寂する戦場。
そして、どちらが合図したわけでもなくほぼ同時に地面を蹴った。
最初に仕掛けたのはアサシンフロッグのほうだった。走りながら口を開け、毒を放つ。シロも走りながらそれを避け、斬り、避け、と走るスピードを落とすことなく突き進む。一気に間合いを詰めたシロは横一線で斬りかかる。
アサシンフロッグはそれを難なく太刀で防ぐが続けざまにシロは蹴りを放つ。バックステップで避けられたがシロは休むことなく両手剣で連撃を放った。
太刀と両手剣の金属音が鳴り響く。
全ての斬撃を防がれ苛々するだろう状況でもシロは冷静に相手を観察しつつ攻撃の手を止めなかった。
だが、瞬間目の前でアサシンフロッグの姿が消えた。否、消えたように見えただけでシロの【危険回避】のアラームが脳内で鳴り響く。
刹那、背中に風を感じた。
ほとんど条件反射でシロは体を後ろに向け、剣をかざす。すると、刃に重みが増し必死にそれを受け止めた。苦い顔を浮かべながら見るとアサシンフロッグが逆さに持っていた太刀を持ちなおして両手で柄を握っていた。視線が交わる両者、シロは滑らせるように太刀を受け流す。
「チェンジ、【
再び現れた【
「まだまだ……」
振り下ろされる太刀を横に避け、両手剣を装備する。両手で握られる剣がアサシンフロッグを取り逃がさないと追撃をかける。が、相手も単純にはいかず自慢の高速移動を見せ、シロと距離をとる。 HPが残りわずかとなっているアサシンフロッグはシロの周囲をグルグルと回るように高速移動する。残像が残るほどのスピードで動き回られ狙いが定まらない。
「ちっ、パターンが変わったか」
ボスモンスターなどで見られるHP残量などで行動パターンが変わる仕様がなされている。ということは、アサシンフロッグは通常のモンスターではないということだが戦闘に集中しているシロはそこまで考えが至っていなかった。
とにかく、相手の動きを止めるにはどうすればいいのか、それだけに意識を集中させていた。途端、【危険回避】のアラームがまた鳴り響く。【察知】とのコンボでどこから来るのかが大まかに分かるため、ギリギリというところでアサシンフロッグの太刀を防ぐ。しかし、相手の攻撃が二回、三回と連続で来る。あまりの速さに【危険回避】でも遅れが生じて、間一髪というところで回避している状況であった。
「くっ、そが……」
忙しく止む気配を見せない相手の攻撃を防いでいるシロであったがその間にも自身のHPは徐々になくなっていく。どうにかこの状況を打破したいところであったが逃げようにも逃げ道がないため脱出が出来ない。
「いや、あるか」
シロはそう言うと一瞬だけ視線を上にさせた。そして、腰を下げ太もも辺りに力を加えるとそれを足元に伝える。
勢いよく垂直に地面を蹴り上げるとシロは高々とジャンプ。攻撃を仕掛けたアサシンフロッグの太刀は空振りと終わる。だが、アサシンフロッグもシロを追いかけるように見事な跳躍力を見せる。 軽々とシロと同じ高さに上がったアサシンフロッグは口を開く。空中で身動きが取れないシロがそこから出て来るだろう毒を避ける術はなかった。だが、シロはアサシンフロッグが口を開けたのを見た途端、叫んでいた。
「ユキ!!」
「【ウォーターボール】!」
白い短杖から放たれた水弾は空中で口を開けているアサシンフロッグ目がけて飛んだ。
「!?」
毒を吐こうとした瞬間、アサシンフロッグの顎に何かが直撃した。直撃した拍子に口が閉じ、シロ目がけて飛んだであろう毒の弾は自身の口でその形を崩し、無理やり閉ざされた口のわずかな隙間から漏れる結果となった。
「おらよ!!」
すかさず両手剣を振り上げ、力を加えられた剣はアサシンフロッグの脳天に襲い掛かった。両手剣は何の障害もなく脳天に到達、そのまま体を真っ二つ……には出来なかった。元々、モンスターからドロップした武器で長く使用していたこともあり刃はかけ、切れ味が悪くなっていたのだ。
だからか、両手剣はアサシンフロッグの頭の頂で止まったままとなる。しかし、勢いよく振り下ろされた武器は相手を空中から地面に叩きつけるのには十分であった。
「GERO!」
地面に叩きつけられたアサシンフロッグは背中から衝撃を受け、HPを減らした。残りHPは三割、いけるとシロはやっと見えた勝利の兆しに届きそうであった。
しかし、相手は叩きつけられたことをものとはせず素早く体勢を変え太刀を握り直す。遅れて着地したシロ。アサシンフロッグはその着地直後の無防備な瞬間を狙った。
大きく振り上げられた太刀をシロは奥歯を噛みしめて見た。それはまさに絶対絶命、ピンチと呼ばれるシチュエーションである。
が、シロの口角がずり上がる。その目はまだ火を宿していた。
「フィーリア!!」
顔を相手に向けながらシロは叫んだ。その間にもアサシンフロッグは振り上げた太刀で彼を斬ろうとしている。
「【パワーショット】!!」
シロの後方からスキルを発動させる声がした。そして、光を帯びた一本の矢が彼の後ろから迫る。
アサシンフロッグの武器が振り下ろされようとした瞬間、光を帯びた矢がアサシンフロッグの刀に直撃した。矢を放った張本人、フィーリアがそれを真剣な目で目視していた。
三人のなかで一番レベルの低いフィーリアが放った攻撃はアサシンフロッグにとっては微々たるもの、ヘイトする稼げない。
しかし、相手の攻撃を逸らすには十分の威力があった。
予想外の攻撃にアサシンフロッグの太刀は予定していた軌道から大きく外れ、シロの横を通過する。
(予定通り!!)
シロは外された太刀をすり抜け、相手の懐に飛び込んだ。
そして、満を持して呟く。
「【
光がシロを包み、体が軽く、力強くなるを感じる。
シロは握りしめた両手剣をとにかく相手にぶつけた。縦、横、斜めとあらゆる角度から放たれる剣技、今までとは段違いの速度で来る剣にアサシンフロッグは反応が遅れる。
みるみるうちに相手のHPは減る。【
やがて、短くも長い一分がやってこようとしていた。残りHPは一割、あと少しで全て削れる。シロは考えを捨て、とにかく相手に攻撃を与える事だけに集中した。
とうとう、シロは自分の体から力が向ける感覚に陥った。スキルの効果が切れたようだ。
シロは動かない相手を見る。顔は見えないがHPは何とか見ることが出来た。果たして、全て削れたのか……。
「くそが!」
相手のHPを見て、思わず悪態をつく。HPはほんのわずか、1cmにも満たないくらいに残っていた。
シロの攻撃の手が止まったことでアサシンフロッグは距離をとろうとする。距離をとられれば今度こそ自分たちは負けだ。誰しもが諦めような状況であったがシロはまだ戦う意志を見せる。
「まだだ!」
バックステップで後ろに下がろうとするアサシンフロッグを追うシロ。だが、すでに後退の姿勢を見せている相手に触れることは難しい。
だが、触れずに攻撃することは出来る。
「チェンジ、【
白銀と漆黒の銃を握る。逃げる相手に銃口を向け、今持っている力を全て注ぐイメージを銃に送る。
景色がスローモーションのように流れる感覚に陥った。ゆっくりと後ろに下がる敵。これを外せば完全にシロたちの負けだ。シロはあらん限りの力で引き金は引いた。
途端、今まで青い線だったのが図太い線となった。アサシンフロッグの視界には自分に襲い掛かる蒼き光の幕が広がる。避けようにも後ろに体重を乗せている体勢では不可能だ。
やがて、幕はアサシンフロッグを飲み込むように真っすぐと進む。その光景はさながら大津波のようであった。
次の瞬間、アサシンフロッグの体は弾幕に飲み込まれる。
やがて、光は収まりを見せた。シロたちはごくり、と固唾を飲んで敵の姿を探すため目の前へ視線を向ける。そして、そこにあったのは__
HPをゼロとし遥か前方に倒れているアサシンフロッグの姿だけだった。
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