一年
なむ
冬
「僕の名前は雪瀬杜都です」
彼女はこちらをじっと見ていたが、ふっと口を開いた。
「私の名前は高橋香江です」
僕は彼女をじっと見ていた。
何度も聞いた声、何度も見た顔、何度も話した相手。
初めて彼女の名前を知って聞く
その声は、その顔は、その君は。
なんだかとても新鮮で、見知った人物なのに知らない人物のような
とても不思議で恥ずかしくて落ち着かない気持ちがした。
僕よりも少し背の高い彼女は今どう思っているのだろう。
僕を見て、僕の顔を見て、僕の声を聞いて。
長い長い沈黙だった。こんな沈黙今までで初めてかも知れない。
沈黙していた彼女が口を開いた。
「なんだか、恥ずかしいね」
彼女も僕と同じことを考えていたんだと思うとひどく安心した。
彼女が彼女で無いような心地だったので、ここにやっと彼女が戻ってきたかのようなそんな気持ちになった。
「なんだか、恥ずかしいです」
言葉が見つからなくてオウム返しのようになる。
でもこれから何かが始まっていくような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます