一年

なむ

「僕の名前は雪瀬杜都です」

彼女はこちらをじっと見ていたが、ふっと口を開いた。

「私の名前は高橋香江です」

僕は彼女をじっと見ていた。

何度も聞いた声、何度も見た顔、何度も話した相手。

初めて彼女の名前を知って聞く

その声は、その顔は、その君は。

なんだかとても新鮮で、見知った人物なのに知らない人物のような

とても不思議で恥ずかしくて落ち着かない気持ちがした。

僕よりも少し背の高い彼女は今どう思っているのだろう。

僕を見て、僕の顔を見て、僕の声を聞いて。

長い長い沈黙だった。こんな沈黙今までで初めてかも知れない。

沈黙していた彼女が口を開いた。

「なんだか、恥ずかしいね」

彼女も僕と同じことを考えていたんだと思うとひどく安心した。

彼女が彼女で無いような心地だったので、ここにやっと彼女が戻ってきたかのようなそんな気持ちになった。

「なんだか、恥ずかしいです」

言葉が見つからなくてオウム返しのようになる。

でもこれから何かが始まっていくような気がした。


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