サウダーデ・インフィニティ
西園ヒソカ
くちづけ(大幅な加筆修正あり)
――――いいかい
―サウダーデ・インフィニティ―
その昔、僕の先祖に当たる人物は神を殺した。
実際に命をうばったわけではない。本来なら不死である神の命を限りあるものにしたのである。祖先は呪術をなりわいとしていた。善良であった祖先がなぜそのようなことをしたのかはわからない。しかし仕出かしてしまったことはあまりに大きく、その罪は死をもってつぐなわれた。そして神は、破滅をおそれた同職の者によって封ぜられた。千年も前の話だ。
今でも僕は彼に代わって罪をつぐないつづけている。
その日、僕は食べ物をいっさい口にしてはいけない。最低限の水分だけを摂り、宵に備える。空にするのは胃だけでない。
すべての工程が済んだら神殿へと向かう。このとき衣服は身に着けてはならない約束だ。
神と対峙する瞬間、僕はどうしてもみじめな気持ちになってしまう。神は上等なシルクを身を包み、千年の時を感じさせない、まさに神々しい姿でそこに横たわっている。それに比べ僕は何もまとっていない。ただただ白いだけの肌を持て余し、神の側へと近寄る。――よいかをりがする。
僕はその陶器のような肌に、ふれるだけのくちづけをした。
こうすることによって、僕の寿命のいくらかが彼へうつるといわれている。僕の家系は何代も幾夜も、この方法で不老不死の再生をこころみてきたのだ。
そしてこの技は
1週間に1度の任務だが、僕はこのために生きていると言っても過言ではない。しかし、前の代――僕の父は若くして死んだ。32歳だった。大きな病気をしたわけではない。――ただの寿命だ。
「……考えるのは、やめよう」
僕はまだ、祖先の罪を被ることを許容できていない。
「……お腹空いた」
思えばいつもこうだ。行為のあとは
今日は一段と足元がふらつく気がする。
(なんだ、これ、)
ふらつく理由はほかにあった。
――ゆれているのだ。地面が。
「地震だ!」
気づいたと同時に行動していた。皮肉なことに、僕の体は自分を犠牲にしてまでも神を護ろうとした。馬乗りになり、落下物から彼の身を守る。
しかし。
上から落ちてきたのは触りごこちゆたかな、ただの布であった。
(え、)
その布は僕の頭上に落ちた。しっかりとした厚みのあるそれは、意外にも重量があり、あらがうことはできなかった。
――そして、ふわり、と。
僕のくちびると、神のくちびるがかさなったのだ。
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