8 はじめての戦闘 ~開始~

 首狩り兎ヴォーパルバニー。または殺人兎キラーラビット


 可愛らしい外見に騙されて近寄ってきた人間の喉笛に喰らいつき、その首をスッパリ切り落としてしまう凶悪極まりない魔物モンスター

 私が初めてみたのは、上のお兄ぃがやっていたダンジョンRPGで見たのが最初だったと思う。

 けっこう序盤に出てきたんで強くは無い方だったけど、即死攻撃クリティカル持ちでしかも『くびをはねられた』なんてアナウンスするもんだから、その筋ではトラウマ製造機として名高いとか。

 ちなみに、上のお兄ぃはしばらく学校のウサギ小屋が怖くて近寄りたくなかったと語る程度のトラウマが作られていた。

 ゲームによってはボス的な扱いもあって、そこだと首狩り兎ヴォーパルバニーが食べたらしい人間の骨の山が背景や戦闘フィールドにたーくさん描かれていた。

 私的にはこっちの方がトラウマだったりする。

 数ある兎系の魔物モンスターの中で、一番出会いたくない魔物モンスターの一匹じゃないかな。


 まぁ、ソレが目の前に何匹もいるんですがねー…………


 本当マジに勘弁してほしい。

 なまじ見た目が可愛い分狂気じみていて、SAN値がゴリゴリ削られるみたいで怖すぎる。

 それが見える範囲で4匹。

 さっき噛みついてきた白兎……というか返り血のせいで赤斑点兎になってるけど……茶色、灰色に黒兎。

 崖を挟んで見事に逃げ道をふさいでくれやがっている。

 いや、兎自体は小さいからスキマを抜けて逃げれられそうに見えるけれど、兎達の背後でガサガサ花畑の中を蠢く音と、獣っぽい臭いがぷんぷんする……あと最低4匹ぐらいは後ろに隠れているっぽい。

 万が一抜けれたとしてもそいつらに襲われる。

 妙に鋭くなってしまった感覚が妬ましい。

 まぁ、私のハイハイスキルじゃ抜けることもままならないと思うけど。

 つまりどうすればいい?

 

 戦って勝つしかないっ!


 覚悟を決めて兎達を睨みつける。

 私の殺気を感じてか4匹も毛を逆立て甲高い鳴き声を上げて……再び白兎が突撃を慣行。

 物凄い速度で真っ直ぐ跳んでくる姿は、生前世連れて行ってもらったバッティングセンターの白球の如く。


 って、やっぱ無理だってばよ!?


 慌てて身を屈める。

 頭の上を紙一重で過ぎ去る白兎。

 続けざまに他の3匹も突撃をかましてくるのが見えた。

 慌ててゴロゴロ横に転がってギリギリ回避。

 けどそこへ、素早く体勢を立て直した白兎が再び襲い掛かってくるし!?

 ちょっ!? 次は私のターンじゃないのかよ!?

 ずっと俺のターンは卑怯だぞ!!?

 反射的に腕で顔を覆う。

 腕に硬いものがぶちあたる衝撃! 今度は腕を噛み千切られた!?

 このあと襲ってくるだろう痛みをこらえるように目をぎゅっと瞑る!


 ッ!!!…?…あれ?


 痛みが無い?

 というか、なんか弾き返したような音がしたけど……

 そっと目をあけて腕を確認すると……うぉ!? 無傷!?

 どうやら自前の『うろこのよろい』が兎の牙に勝ったらしい。

 悔しそうに奇声を上げる白兎、やーいザマーミ……ろごっ!!?

 頭頂部にぶつかる衝撃! と同時にぐいぐい引っ張られる感覚……って痛い痛い痛いぬけるぬけるぬけるーー!!?

 追撃してきた黒兎が頭のトサカに噛みついたらしい。

 幸い鱗と同じく硬いのでトサカ自体にダメージはないけれど、引っ張られて頭皮が痛い!

 捕まえようと頭に両手を伸ばすが黒兎は素早く逃げた模様。

 そこへガラ空きになったお腹や喉元に茶兎と灰兎ががぶり!! 


 ぎゃああああああああああああ! そこはらめえええええええええええええ!!


 ゴロゴロ転がって二匹を振りほどき、痛みに悶えて噛まれた部分をさする。

 おおわれてない部分は普通に痛い! すぐ自己再生はしてくれるけど痛いもんは痛い!

 乙女の柔肌に傷がのこったらどーすんのさ!?

 

 キィー! キィー! とどこぞの戦闘員みたいな声を出しながら殺意を緩めない兎たち。

 とりあえず、鱗はあいつらの牙じゃ通らないことはわかった。

 ならばやることはひとぉーつ!!


 一斉にとびかかってくる兎達。

 だけど、遅いっ!! 秘技! カリスマガーーード!


 身をなるべく丸く縮こめて、頭はしっかり腕でガード。

 本来はかぶってる帽子をひっぱって頭部をまもるんだけど、無いからかわりにトサカを掴んで頭を引っ込める。

 そして最後に うーっ☆ と鳴けば鉄壁のディフェンスの完成だ。

 当然兎達の攻撃が通るわけもなく、腕や背中にぶつかる感覚はするものの痛みはない。

 

 完全無欠の絶対防御カリスマガード

 だけど……欠点もある。

 こっちから攻撃する手段が無いんです!


 絶対防御カリスマガードといえど永遠に続けられるわけじゃない。

 ジリ貧にしか見えないように思えるけど、じつは勝算が無いわけじゃない。

 向こうだって生き物だ。

 何度も何度も攻撃してればそのうち疲れるはず。

 疲労で攻撃回数が鈍くなったところで逃げるなりなんなりすればいい。

 じっとするのは得意中の得意だ。


 これで……勝つる!!


 と、思った時期が私にもありました。


 一向に衰える気配のない攻撃。

 チラリと腕のスキマから兎達の様子を見て見ると……


 あれ? 色? なんかちがくね?


 白、黒、灰、茶だった兎が、黄、水色、紫、薄緑とカラーヒヨコみたいになってる気がする……

 最初に攻撃してた兎達は……なんか後方でじっと座ってるし……


 きゅ、休憩してんじゃねーよ!?


 どうやら4、4で分かれてローテーション攻撃をしてるらしい。

 死にたくはないので絶対防御カリスマガードを解くのは無理。

 けどこんな戦法を取られたらもはや喰われるのは時間の問題になるだけだ。


 うーっ☆ 捕食されて死ぬとか嫌すぎるうううう!!


 残酷な野生のテーゼ、モン娘は神話になんてならないーーー! などと目を閉じてアホな現実逃避をしていると……


 ぴぎぃ…っ!!


 今のは兎の鳴き声? なんか潰れたみたいな声だったけど……

 そっと目を開け腕のスキマから様子をうかがう。

 地面に転がっているのは水色兎。

 胴体を太い枝のようなもので貫かれて、己の流した血だまりに沈んでいる。

 ピクリとも動かないってことは即死だよね……ってかこれで生きてたらホラーすぎる。

 そういえば、いつのまにか攻撃も止んでいた。

 私はおそるおそる絶対防御カリスマガードを緩めて見上げると…


 うわっ!?


 突如現れた大きな影に尻もち。

 目の前を塞ぐのはひらひらとした布?

 よく見ればところどころボロボロで薄汚れていて……てかなんかちょっと匂うし。

 思わず顔をしかめながら少し後ずさり。

 そのおかげ、目の前の布の正体が判明……これって衣服?


 ローブ的な何かだろうか?

 フードをすっぽりとかぶった人? が水色兎を倒したみたいだ。


 これは……まさかの救いの神!?


 期待に胸をときめかせながらローブの人物を見上げる。

 それに気づいたのか、はたまた水色兎を倒した武器を拾うためか、身をかがめてこちらを見下ろすように顔が近づいてくる。

 そしてローブの中の救いの神のご尊顔は…………


 真っ白。

 窪んだ両目は大きな穴が開いていて真っ黒。

 鼻の部分も穴が開いて黒く。

 笑っているかのような口は歯がむき出し。

 つまりどういう事かというと……


 死神だあああああああああああああああああああああああああ!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る