九、鷹と蛇と猫
緊急会議の席で、ローセウス将軍は自分の水晶玉に文書をかざし、ルフス将軍とフラウム将軍は顔を近づけて読んだ。
アイルーミヤ調査官はローセウス将軍の隣に座っていたが、二将軍とも何も言わなかった。
「読みにくいでしょうが、内容の重大さを考え、写しは取りません。これを知る者は陛下と我々のみに留めたい」
ローセウス将軍がそう言うと、二人は読みながら頷いた。
読み終わった時の反応はアイルーミヤと同じだった。
「これは僧侶がよく使う遠回しな言い様だろう。締め上げたらどうだ?」
「隠喩と言うんですよ、ルフス将軍。あなたは変わりませんね。拷問は僧には通じませんよ。説得してこちらに転向させなければ自殺するだけです」
ローセウス将軍はあきれたような口調で言った。ルフス将軍は面白くなさそうな顔をしている。
「しかし、この怪文書が何の目的で書かれたにせよ、情報を知ってそうな高位の僧が転向しますか」
フラウム将軍が皮肉っぽく口を挟む。アイルーミヤは最近の戦闘を思い出した。
ここにいる四人とも、「陛下に問おう」とは言わない。あまりにも大胆すぎる。無礼とさえ言える。
それに、水晶玉を使ったからには、もう陛下の知る所になっているはずだ。何か言う必要があるのなら陛下からお言葉があるだろうと思っていた。
「仮に書いてあるままが真実だとすると、陛下はどんなふうに申し込んだんでしょう?」
アイルーミヤはローセウス将軍の肩がかすかに揺れたのを横目で見た。フラウム将軍は賭けに出た。闇の王に直接聞けないなら、お言葉を釣り出そうとしている。
「それはお前、そうした事は人間とさほど変わらないだろう」
ルフス将軍が乗った。まるで戦場で斬り合いをしているかのように、ぎりぎりの線を楽しんでいる。
「話がそれてきたな。あまり結論を急がないほうが良かろう。とにかく、僧を転向させて事情聴取し、他の寺院や遺跡を調査して、この事実を補強、あるいは否定するような別の証拠がないか調べようではないか」
ローセウス将軍はアイルーミヤの方を見ながら二将軍をなだめた。抑えるような手振りを小さく加えている。
「調査はおまかせを。ここが終わりましたらお二人の所へも参ります」
アイルーミヤはローセウス将軍に乗ったが、胸がどきどきしていた。本当ならフラウム将軍に合わせてみたかったが、何かが彼女を引き留めた。五百年の年月だろうか。
二将軍は不満げに同意した。今回はローセウス将軍の顔を立ててくれた形だった。彼女は会議を終了すると、大きく伸びをした。
「彼奴ら、変わったのは表面だけか。危ない橋を渡ろうとしおって」
「しかし、楽しそうでした」
ローセウス将軍は驚いたようにアイルーミヤを見、大声で笑った。
「お前もそうか。アイルーミヤ。まあ、踏みとどまったとは言え、私もそうだ。結局、我らは心に鷹と蛇を飼っているのだろうな」
『にゃあ』
いつの間にか、クツシタが窓枠の縁に乗ってこちらを見ていた。ローセウス将軍は舌を鳴らして呼んだ。
「それと、猫か」
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