親友を殺した奴を探している

姫神 雛稀

□□□1

 あれは、やたらと冷える冬の朝だった。

 一月五日。

 鴉原市が誇る名峰、都賀ノ山つがのやま

 その麓の、冬季は通行止めになっている登山道の序盤のところで、サイジョーは見つかった。

 間違えて登ってきた登山客が見つけてくれたという。

 警察から連絡を受けた俺たちは、霊安室で親友と再会した。

 雪に埋もれていたというその遺体は透き通るように白く、不謹慎にも美しかった。

 美しいと、思った。

 華凜はサイジョーの顔を見た瞬間からえづくように泣き始め、それを希一郎が連れ出す。

 斎城飛鳥に間違いないかという問いに俺と松馳が頷けば、そうですかと乾いた言葉が返ってきただけだった。

 サイジョーは元々色白だったが、それでもまさかこんなにではない。

 去年の事故で輸血を受けていたときだって、ここまで白くはなかった。

 警察の話では、木にもたれた姿勢で三日程度経過したせいで血が全て腰のあたりに集まり、顔は特に白くなっているらしい。

 遺体に触れてもいいと言われたので、そっと頬を撫でてやった。

 変わらずすべすべな肌が、とても冷たかった。

 いつもと少しだけ髪の分け目が違うのを整えてやれば、今にも起き上がってへらへら笑いそうな気さえした。

 そんなことは、もちろんないのに。

 分かっていても信じられなかった。

 サイジョーには身寄りがない。

 あいつはそれを異様に気にして、幾重にも仕込みをしていた。

 年に一回遺言書を更新し、家賃は一年分前払い。

 解約手続きが必要になるものは極力持たず、固定電話はもちろん携帯もネットもなし、新聞も取らずクレジットカードも作らない。銀行口座は一つだけ。光熱費もいちいちコンビニ払い。

 冷蔵庫には今日と明日食べる分だけ。

 持てる全ての本人確認書類の裏面には緊急連絡先として俺と松馳まつばせの電話番号。

 合鍵は俺と華凛に預け、松馳と希一郎には墓の位置まで教えていた。

 とにかく、いつ死んだとしてもなるべく迷惑をかけないように。

 そんなことをしょっちゅう言う奴だった。

 それにしたって、死後事務委任契約なんてものまで結んでいたのは知らなかった。

 警察が必要書類を用意するのを待つ間、松馳が不意にぼそりと言ったので初めて知った。

「お前、なんでそんなのしたの」

「身元保証人の欄に名前を書いてくれる人間がいるってことが、どれだけありがたいことか知ってるから。……まさかこんなことになるとは思ってなかったけど」

「いつ?」

「去年の入院のときに相談されて、その後あいつの二十歳の誕生日が過ぎてから判ついた」

 サイジョーが交通事故に遭って緊急搬送されたとき、付き添いは松馳だった。

 そもそも二人が一緒に試験を受けた帰りに車にはねられたから、通報もなにもかも松馳がしてくれた。

 輸血や入院の同意書も全部一旦松馳がサインして、後日後見人が上書きしたはずだ。

 退院後、四月三日に二十歳になったサイジョーは、やっと大っぴらに酒が飲めるのに医者に止められていると悔しがっていた。

「なんでお前だったんだろう」

「そういうのに一番詳しそうだったからじゃないの。おれは後見人やってた弁護士にそのまま頼めばって言ったんだけど、まああんまり仲良くなかったらしいな。すごい嫌がってた」

「そっか」

「まあそういうわけでさ、手伝ってよ、梓河あずかわ

 あの日、俺たちの中でまともに泣けたのは華凜だけだった。



 斎城飛鳥の死因は、アルコールを伴う睡眠導入剤の過剰摂取状態で野外に長時間留まっていたことによる凍死だと聞かされた。

つまるところ、自殺。

 一月五日。大学二回生の俺たちは、親友を失った。

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