第23話 これからの方針について
「これからどうしようか」
思わず私はそう呟いた。
あれから数日、パパ達がいなくなってから、私の周りは平和になったけれど、その代わりすることもなく、暇な一日を過ごしていた。
とは言え、街中から救世主として崇められているのは変わらず、その点については悩ましいところではあった。
「七海様はどうされたいのですか?」
「そうね……。まあ、あえて言えば街の人達から魔王を倒してくれみたいな暗黙のプレッシャーがのしかかっているから、とりあえずフリだけでもまた魔族退治しようかなって……」
「いえ、そうではなく将来的にしたいことなどはないのですか?」
「将来的に?」
「はい。夢とか野望とか、それか目的とかでもいいのですが」
唐突にそんな事を問いかけるイブリスに対し、私は少し考える。
思えば異世界に転生してから、父親が魔王だったり、それをグーパンして救世主に祭り上げられて勇者になったり、周りの重圧に耐えきれず魔族退治に出たりと、更には四天王と対峙したり、それらと仲良くなったりと、とにかく状況に追われて冷静な判断が出来ずにいたが、そう言われてみると、将来を見越した目的とかって……ないかも。いや、待てよ。あえて言うなら――
「元の世界に帰りたい」
そうだよ。元々私があの世界で死んだのは偶然も偶然というか、この世界の勝手な事情だったわけだし、どうせ蘇らせるなら元いた世界にして欲しかった。
思い出せば出すほど、向こうのあれやこれやが懐かしくなる。
いつも帰りに通っていたカフェのコーヒーにケーキ。
たまにコンビニで買い食いしていた鶏揚げ君。ゲームに漫画に小説にネット三昧の休日。
学校はちょっと面倒でたまに行きたくなくなるけど、友達との会話は楽しく、皆に会いたい気持ち生まれてきた。
うん、そういうわけで私は声を大にして言いたい。元の世界に戻る! これを目的にすると。
「それは無理ですので他の目的を考えましょう」
と思ったら速攻イブリスに没にされた。なんでや! と思わず突っ込む。
「確かに異なる異世界に転移する術は存在しますが、どれも禁呪と呼ばれるほど難易度の高いものなのです。魔王様ですら、世界を渡るにはかなりの代償を余儀なくされます。ですので、あまり現実的と言える目的とは言えなので別の目的にしましょう」
って言われても、他に思いつかないんだけど……。
「ここはそうですね。いっそ魔王様と一緒に世界征服するとかどうでしょうか? 七海様がお側におられれば、魔王様もやる気がアップして、きっとすぐに目的を達成できますよ」
そんなんするか――い!!!
結局そっちの方向に持っていこうとするのやめんか!!
「まあ、とは言え、何かしらの目的を見つけるのはいい事です。現に魔王様など七海様のために世界征服をするという明確な目的があるため、日夜頑張っています。七海様もそのようなものを見つけて万進すれば、この街の居た堪れなさなど気にならなくなりますよ」
そう言うとイブリスは突然席を立つ。
見ると、その表情はいつにも増して険しいものであった。
「? どしたの?」
「……いえ、少し所要が出来ました。すぐに戻ってきますが、七海様は出来るだけ外出は控えてください」
「? は、はあ?」
問いかけるものの、イブリスはいつもと変わらぬ無表情なまま返し、そのまま宿から出て行く。
所要ってなんだろうか? もしかして、パパからの命令か何かなのかな、とも思ったがよく分からないため、あまり深く考えるのをやめた。
とりあえず今日はすることもないので、そのまま部屋に戻ろうとしたのだが、その瞬間、宿屋の主人が珍しく私に声をかけてきた。
「あ、七海様。ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
「実はですね……。今晩の料理の材料がまだ届いていなくて問合わせたところ、間違ってギルドに配達したみたいで、よろしければ七海様に取ってきてもらえないでしょうか?」
「え、私ですか?」
思わず確認するものの、主人は申し訳なさそうに私に頼み込む。
「すみません。本来ならこのような用事を救世主様に頼むべきではないのですが、今日は私も外せない用事がありまして……ギルドに面識のある七海様なら受け取りもスムーズかと思いまして」
うーん。そういうことなら力になってあげたいかな。
どうせすることもなかったし、それにこの宿の主人には結構お世話になっていた。
宿代も未だサービスしてもらっているので、こういう雑用なら、むしろさせて欲しかった。
私は主人からの頼みにすぐに応じ、そのままギルドの方へと足を伸ばすのであった。
◇ ◇ ◇
「…………」
宿を出てからしばらく、私は人気のない広場へと向かい、目的の人物が接触してくるのを待っていた。
ここ数日、私と七海様を監視している人物の気配に気がついた。
最初は気のせいか、あるいは偶然かとも思っていたが、いつまで経ってもその気配が消えることはなく、次第に私達を監視する気配が強まり確信に変わっていった。
そして今日、その気配が今までよりも強く感じられた。
それも明確な殺意を持って、私へと向けられていた。
どうやら敵の狙いは私の様であった。
個人的な恨みか、あるいは魔王様の配下である私に用があるのか、いずれにしてもその人物の正体を確かめるべく、私はあえて一人となり、その者が誘いに出るのを待っていた。
少なくともここに来るまでその人物の気配は私を追跡していたため、七海様の身は無事であろう。
だが、あまり離れすぎるのも心配なために、この人物の正体を確かめた後にすぐに帰還するつもりであった。
「そろそろ出てきたらどうですか。こうしたにらみ合いは苦手なので早めに決着をつけましょう」
そう言ってあえて、相手を誘うような事を口にする。
待つことしばし、目的の人物と思える影が私の背後に現れる。
「やれやれ、やはりあなたはせっかちさんのようですね~」
その声に反応するように瞬時にそちらに目を向ける――だが、
「!? あなたは、まさか――!」
その人物の思わぬ正体を見た瞬間、私の思考は一瞬停止した。
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