第18話 四天王・夢使いのスイレン

「ふわぁ~、よく寝た~」


 昨日はいきなり街中に現れた四天王の一人グレンって人に無理矢理連れさらわれて、戦う羽目になって、とにかく大変だった。

 その後、パパとイブリスがすぐに助けに来てくれたからよかったけど、下手したら死んでいたかもしれない。


 まあ、その後、グレンも私が魔王であるパパの娘だと分かって、急に態度を改めて、今後はもう二度とこのようなことはしないと誓ってくれたので一安心。

 ちなみに、その後のグレンの様子がちょっと変だったけど、あまり気にしないようにした。


 そんなこんなで、その日は色々と疲れて日が暮れる前に眠ってしまった。

 体は結構熟睡出来たみたいで、スッキリした気分で目が覚めた。

 私はそのまま朝の光を浴びようと窓を開けるが、そこに見えたのは――壁であった。


「へ?」


 なんで窓の向こう側が壁なの? と思う暇もなく、部屋の雰囲気がなんだか暗かった。

 思わず私は急ぎ、部屋の扉を開くと、そこに見えたのはいつも見る宿屋の廊下の景色ではなく、石造りの通路、ダンジョンの姿であった。


 えっと……なにこれ?

 朝、目覚めて部屋を出たら扉の向こう側がダンジョンになっていた件について。


 困惑する私の頭に何者かの声が聞こえてくる。


『……は、初めまして……』


 それは小さい女の子の声であった。


 恐る恐る話しかけてきた様子であり、声の雰囲気から内気なイメージを思い浮かべた。

 しかし、続くその少女のセリフに私は思わず耳を疑った。


『わ、私は……し、四天王の一人……夢魔のスイレン……』


 はい? 今、四天王って言った?

 思わぬ自己紹介に困惑する私に対し、しかしスイレンと名乗った少女は更に衝撃的なセリフを告げた。


『あ、あなたに言いたいことがあります…………バカー!! あ、あなたなんてこの迷宮で、し、死んじゃえー!!』


 ブツンッと通信が途切れる音がすると共に、それっきり少女の声が聞こえてくることはなくなった。


 え、ええと、ど、どういうこと?


 さっきのセリフから察するにスイレンと名乗った四天王の少女が私をここに閉じ込めたってことよね?

 しかも、なぜだか分からないけれど、その子は私のことを嫌っていて、このままこの迷宮で殺そうとしていると。


 な、なんという続く災難なんだ……。

 連続で四天王に狙われるとか冗談じゃないぞ……。

 というか、異世界に転生してからこっち休まる日々がない……。


 なんで私ばかりこんな目に……こ、これも全てパパと私を無理矢理転生させたあの堕天使のせいだ……!

 などと『Orz』状態で凹んでいたところ、私のスマホにメールの着信する音がする。

 見ると、先程私が呟いた元凶のうちの一人、イブリスからのメールであった。


『件名:イぶリンですヽ(・@‘( 内容:ナあミさあへ、どうやらナあミ様は四天応の一人、スイレンの悪夢の迷宮に囚われたようです。そこはいわゆる夢のなあの迷宮で、そこでのダメージはそのまま現実の憎体に返ってきます。なので、そこで死ぬとナあみ様も死ぬのでご注意くらさい。現在、こちらでも名球に入れるよう試行錯誤していあすので、今しあらくおあちを。 追伸:顔文字楽しいれすヾ(;$’)ノ』


 相変わらずところどころ誤字ってるし、意味不明な顔文字を使っていた。


 しかし、とりあえず肝心な部分は理解できたので、私はそのまま思わずため息をつく。

 どうやらまだ私は目を覚ましたわけではなく、夢の中で目を覚ましてこの迷宮に囚われたようだ。

 幸いと言うべきか、またパパやイブリス達がなんとかしてくれるので救援を待つしかないか。

 そう思い大人しく部屋に戻って休もうと思っていたら、今度はパパからのメールが着信する。


『件名:パパだよ(^^) 内容:七海へ、今イブリスと一緒に迷宮に入ろうとしているんだけど、予想よりもスイレンの結界が強力で中に入れないみたい(つд⊂) 七海ちゃんには無理させちゃうかもだけど、よければスイレンのいる部屋まで向かってくれないかな?(;_;) なんとかスイレンを説得して結界を解いてもらうか、解放してもらいたいんだ(>人<;) あの子は普段はこんなことするような子じゃないから、七海が説得してくれれば多分話も聞いてくれると思うからお願いするね(;_;) 追伸:ところで七海は彼氏とかいるの?いないよね?いらないよね?そんなのパパだけで十分だよね。パパ勿論知ってるよ(^-^)』


 最後の戯言は無視するとして、どうにも厄介なことになってきたようだ。

 さすがは四天王の一人というべきか、あのパパやイブリスでもこの中には簡単に入れないようだ。

 このまま籠城作戦に出ようかとも思ったけれど、ずっと眠りっぱなしということは現実世界の私は下手すると栄養失調でよろしくない展開になるかもしれない。


 仕方がなく私は目の前に広がる迷宮の通路をため息と共に歩き出すのだった。

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