第9話 ところで堕天使って魔族の一種なの?
「おはようございます。朝だと言うのに随分お疲れのご様子ですね?」
朝、部屋から起きて下に降りると、そこには宿の食堂でご飯を食べている堕天使の姿があった。
「……そりゃ疲れもするわよ。こんな呪われたアイテム渡されて、しかも次々と迷惑メールが届くんだから……」
ちなみに現在も進行形でパパからのメールがしつこく送信されている。
マナーモードにして完全無視を決め込んだが。
「それほど魔王様が七海様のことを気にかけていらっしゃるのですよ。その証拠に私という護衛も送っているのですから」
「あっ、それで思い出した。そのあたりのこと一体どういうことなの? アンタがパパの使いだとか、アタシの転生に関与してるって」
昨日はすっかり聞くのを忘れていたが、一日経って落ち着いたこの状況なら聞いてもいいだろうと改めて問いかける。
すると堕天使は食べていた料理を一通り口に入れてから、口の中をモゴモゴさせながら話し出す。
「では、まず魔王様の元々の目的は覚えておいででしょうか?」
「この世界を征服して、それを私にくれるんでしょう」
と言うかそれで私の小さい頃の夢を叶えようとしている。相当に親馬鹿な目的だ。
それに対し頷く堕天使。
「その通りです。つまり、遅かれ早かれ魔王様はあなた様をこの世界に呼び寄せるつもりだったのです。そのため、異なる世界から人間を連れ出す能力を持つ天使あるいは女神を魔王様は配下に加えようとしていました。とは言っても連中はそうした闇の眷族や魔王とは真逆の存在なので、当然部下に加わるはずもありません。あいつらは魔王の手先になるくらいならその場で首に噛み付きながら自爆するような連中ですから」
へ、へぇー、そうなんだと。話の続きを促す。
「そこで魔王様のお眼鏡に叶ったのが堕天使であるこの私です。当時、私はある理由から天界を脱走し、この世界に逃げ延びておりました。そのままでは私は天界の裏切り者として殺されるはずでしたが、そこをあのお方に救ってくださったのです」
その瞬間、堕天使はこれまでの業務的な口調とは異なり、どこか感謝を込めるように呟く。
「私は天界から追放された堕天使ではありますが、それでも元は天使。ですので異なる世界の扉を開いて移動したり、異なる世界の人間を転移・転生させる力があるのです」
「それで私を転生させたわけ?」
「その通りです」
頷く堕天使。確かに辻褄は合うけれど、どうしても引っかかることがある。
「なら、なんで今転生させたの? パパの目的が私を世界一のお姫様にすることなら、この世界を支配してから私を呼び寄せるんじゃないの?」
そこが一番の疑問点であったが、それに対して堕天使はすかさず答えてくれた。
「それは最初に会った時に申し上げた通り、七海様が不慮の事故でなくなったためです」
「あっ」
そういえばそうだった。確か、異世界の魔王と勇者の攻防の際に流れた攻撃がアタシのいる場所を直撃して……って、
「それやったのパパでしょう!!」
思わずその場に立ち上がり叫んでしまう私。
それに対し堕天使は冷静な態度のままアッサリと頷く。
「はい、その通りですが、一応誤解なきように言っておきますと魔王様にそうした意図は全くありませんでした。むしろ、勇者の側が無作為に空間を切り裂く攻撃を繰り出して、その内の一つがたまたま次元を飛び越えて七海様を直撃したのです。ですので、この場合、七海様を殺したのは魔王様と戦っていた勇者になりますかね」
「はた迷惑な勇者もいたものね……」
「全くですね。ちなみにその勇者は七海様と同じ証明証を持った勇者でした。序列は確か第四位だとか。まあ、最も魔王様の前では児戯に等しく、結局その後魔王様の手によって殺されております」
一応私の仇(?)は取ったってことなんだ……。お礼を言うべきなのかどうなのかよくわからない。
「ともかく、その後、魔王様は勇者が放った攻撃のいくつかが次元を飛び越えていたことに気づき、その先の世界が七海様のいる地球だと知ったのです。更にはその攻撃の直撃を七海様が受けて死んだことを知り、魔王様は急ぎ天使や女神達に七海様の魂を回収されないよう私を派遣したのです」
「そこもよくわかんないんだけど、天使や女神様に回収されちゃダメなの?」
「ダメです」
なぜかそこはノータイムでハッキリと断言した。
「もしも、そのようなことになれば七海様の魂は天国へと向かわれるか、魔王様のいる世界とは別の世界に転生され幸せに過ごすこととなります。そうなると私や魔王様では七海様がどこへ転生したのか掴むのは一切不可能となります。魔王様の夢を実現させるためにも七海様をあの場でこの世界に転生させるしか手はなかったのです」
な、なるほど……。分かったようなよく分からないような……。
というか、それって私からしたら、むしろいい迷惑なんじゃ……?
むしろ、そのまま天使や女神様達の力で天国やよその世界に転生していた方が絶対に幸せに暮らせたんじゃ……という想いが頭に隅に残りまくった。
◇ ◇ ◇
「そういえば、アンタの名前聞いてなかったんだけど」
「私ですか?」
ふと街中を歩いていて気づいた。
思えば私は隣を歩いているこの堕天使メイドの名前を知らなかった。
「うん、一応アンタ、パパからの言いつけで私の周囲を今後も付け回すんでしょう」
「まあ、そうなりますね。七海様が何らかの危険に巻き込まれないよう監視、護衛をするのが私の任務です。あとそれから必要があれば掃除洗濯炊事となんでもお任せください」
昨日も聞いたセリフをご丁寧にまた説明してくれた。
「それはいいから名前教えてよ。今後も長い付き合いになるだろうし、名前知っておいた方が便利でしょう」
「確かにそうですね。ではイブリスと呼びください」
「イブリスね。分かったわ、よろしく」
イブリスと名乗った堕天使に対し、私は改めて握手を求めた。
するとイブリスは少し驚いたような顔を向けた。
「えっと、こちらは……?」
「よろしくの握手よ。な、なに、もしかしてダメだったの?」
「い、いえ、そんなことはないのですが……その、よろしいのでしょうか?」
「え、何が?」
「その、あなた様をこのような状況に巻き込み、無理やり転生させたのは私ですから……そんな私にこのような挨拶をしていただいても……」
そう言って最後の方は小声で申し訳なさそうにションボリする。
あっ、一応気にはしてたんだ。その事が分かっただけでも、私はほんの少しだけど、この堕天使に対する印象が変わった。
「まあ、そりゃ最初は混乱してキレまくったけど、一日経って少しは落ち着いたしね。それに改めて事情を聞けば、一応アンタは死んだ私を蘇らせてくれた恩人? ってことになるだろうし。まあ、その件についてはもういいわよ」
「は、はあ……」
正直、天使や女神様に転生させてもらった方が良かったのかもしれないけれど、そうなると私の今の記憶や意識とかはなくなっていたかもしれないし、私を私のまま転生させてくれた点においては感謝してなくもないかも。
そんなことを思っているとイブリスは少し頬を赤らめながら、咳払いをし、緊張した様子で私が差し出した手を握り締める。
「そ、それではふつつか者ですが、これから何卒よろしくお願い致します。七海様」
「う、うん。よろしく」
まるでお嫁に来るみたいな態度とセリフに何故だか私の方まで赤くなってしまった。
今まではツンケンした態度が目立っていたけれど、こうして照れたりする表情を見ると普段とは全く印象が変わってきて、むしろ可愛いと思ってしまった。
そんなこちらの思考を気づいたのか気づいていないのか、イブリスは慌てて手を話しながら、顔を赤らめたまま宣言する。
「それでは参りましょうか」
そう言って歩き出すイブリスだが、その歩き方は緊張したロボットのようで私は思わずクスリと笑みを零すのだった。
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