初恋の手紙

霧島 菜月

出会い1

 花袋 桜


 私立明野学園高校に入学して二度目の春、次の居場所を知らせてくれたのは大きなクラス発表の紙に書かれた私自身の名前だった。

 この学校はとても校風が良く、規律もしっかりしている。更には自然豊かで今はピンクの服を身に纏っている木々たち。付近の学校と比べると、自然に恵まれた学校だ。都会付近に建てられた学校で自然に見守られる環境は珍しいらしく、周囲の学校や地域の方々からも話題に上がることは多いらしい。

 まあ、田舎の方の学校に比べれば相当乏しいだろうけど、こういう時に温かい色で迎えられていると考えるとちょっと羨ましい。

 物難し気な表情をしていると、横から聞きなれた声が近づいてきた。

「やったね桜!今年も同じクラスだよ!!」

 そう言いながら声の持ち主は私に勢いよく抱きついてきた。その勢いに思わず倒れ込んでしまいそうになり、急いで重心を変えて倒れないようにと堪える。

「…怜奈、重いよ」

「あ!ごめん!!」

 怜奈は咄嗟に私の身体から手を放す。大丈夫だよ、と言いながら落ち着いて体勢を戻す。

 彼女は七瀬怜奈。中学の頃からいつでも私を一番側で支えてくれた親友だ。私と同じくらい、女子高生としては平均ほどの身長。肩に軽くかかった髪は一本一本が別々の糸のように綺麗で、風に吹かれればとても優雅に踊っている。目は丸く人形のようで、更には整った顔。誰が見ても美少女と絶賛の声を上げるだろう。そのため私は幾度となく怜奈の恋愛話を散々と聞かされてきた。告白された話からデートのこと、その先の今の私ではちょっと大人な話までを楽しそうに。

 たまに理解できない点はあったが、何より話している時の怜奈の柔らかい笑顔が誰よりも好きだった。

「それよりも怜奈?年頃の女の子に重い、だなんて失礼だよ?」

 少し不貞腐れたように怜奈は私から視線を逸らせた。それを見て思わず笑みが零れる。

「ごめんってば。で、さっき何て言ってたの?」

「聞こえてなかったの?まあ、このお祭り騒ぎじゃ仕方ないか」

 辺りを改めて見渡すと、喜んでいる人から、クラスの人が気に食わなかったのか早速愚痴を漏らしている人まで、多くの生徒が校庭の看板前で話している。

 別に近くで見ないと見つけられないわけではないので、私は少し離れた場所から自分の名前を探していた。ちょっと考え事をしていたので反応できなかったのだが、ここは話を合わせておくのが妥当だろう。

「ごめんね」

「別にいいよ、桜」

「それで何の話?」

「私たち、今年も同じクラスなんだよ!すごくない!?これで三年連続だよ!?」

 改めてクラス発表の紙に目を通すと、確かに私の名前が書かれた列の真ん中あたりに怜奈の名前が堂々と書かれていた。

 それに気づいた途端に嬉しさが心の底からこみあげてきて、思わず怜奈の手を握りしめた。

「本当だ!また今年もよろしくね!!」

 いくら学校生活に慣れたといえ、新しいクラスとなるとどうしても不安になってしまう。だけどそれも怜奈が一緒というだけで歓喜に変わってしまう。

 私はなんて単純なのだろうか。それだけで世界が明るく色を変えたような錯覚に陥る。これを幸せと呼ぶのだろうか。少なくともこの時の私は単純ながらもとても幸せだった。完全に心の靄が晴れたと言えば嘘になるが、多少ばかりはマシになったと言えるだろう。

「ちなみに担任の先生は誰だろうね?」

「あー、体育教師以外なら誰でもいいかな。暑苦しいし五月蝿いし」

 怜奈の零した文句に私は苦笑いをする。あまりこういう類の話は得意ではない、というよりもまず話さないので、このような反応しか出来ないでいる。

 昔からそういうような性格をしていなかったので、割と苦労していた面がある。 例えば忙しい時に担任に頼まれごとをされた時。怜奈のような性格だったらちゃんと断ることが出来たのだろうけど、私はと言えば、仮に断ったとしてその後何を思われるかわからない、何を言われるかわからないと、考えすぎだと言われそうなことばかり考えてしまい、気づけば首を縦に振ってしまっている。こういう時ほど、怜奈の性格が羨ましくなることはない。

「桜?どした??」

「ううん、何でもないよ!行こっ!!」

そう言って人口密度の高い地帯を抜け出し、教室に向かうために靴箱へと向かった。



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