第六章 決行7

 やがてユンバイさん、タオシェン将軍も揃い、今日の作戦の決行の報告を聞くことになった。

 タオシェン将軍は、先程人一人を斬り伏せたというのに、なんにもなかったかのような顔をしていた。やはり、将軍と呼ばれる人物だけあり、そういった血なまぐさいことには慣れているのだろう。

 しかし、わたしのような庶民には、ああいったことは恐怖でしかない。こんなふうに同じ席に着いているだけで緊張する。


「まず、事後報告になるが、今日あったことについて報告する」


 リーシンがそんなふうに話し始めた。


「今日、おれはリューフォンとの計画通り、偽で雇った大工と会い、そこで適当な契約を結んだ。そしてその費用を修繕費から支払うよう、担当者に言って金庫を持ってこさせた」


 話を聞くと、なんだか無茶苦茶な王様のように聞こえる。がしかし、彼ならやりそうだという先入観があるせいか、それほど違和感を覚えなかった。


「そして、予定どおり、おれがそこに偽貨幣を紛れさせ、大工にも偽貨幣を渡しておいた」


「陛下はご立派に役目を果たされました。普通ならばおかしいと思われるような陛下の行動でしたが、普段からの奇行のお陰でしょう。そのときは、誰も不審に思うようなことはなかったようです」


 リューフォンさんがそう言うと、リーシンは微妙な顔つきになった。さぞ不本意に違いない。


「それからしばらくしたのちに、丞相の手先である大司農に仕える下官が財務官のところを訪れ、残った修繕費を持ち出しに来ました。下官はそして、それをいつものように、国庫へ戻しにいくふりをして、丞相の屋敷へと持っていったようです。その報告を密偵から聞いたあと、先程の大工に再び王宮を訪ねさせました。そして、支払われたお金に偽貨幣が混じっていたことを話させたのです」


 その後の騒ぎは、想像に難くない。国庫から出したお金に偽の貨幣が紛れていたという事実に、財務部は大騒ぎになったに違いない。


「ご想像のとおり、財務部はそのことで大騒ぎになりました。そして、その騒ぎは他の部署にも知れることになり、財務部のほうへ監察官が置かれることになりました。そして、その監視のもと、国庫のお金をすべて調査し、帳簿も見直されることになったのです」


「すべてということは、かなり大がかりなことになりますね。今日は一晩中?」


「ええ。財務部総出で徹夜でしょう。しかも、監察官の目が光っていますから、手を抜くこともできません。彼らにとっては災難でしょうが、きちんと調査してもらえば、どれほどのお金が闇に消えているかはすぐにわかるはずです。そのせいであせったものが、先程のように私に探りを入れてきたのでしょう」


 なるほど、確かに国庫に納められた税金の正しい額は、近々白日の下に晒される。そうすれば、誰かが不正を行っていたことは明らかになってしまう。その前に悪あがきをする連中はたくさんいるはずだ。


「まあ、一番の元凶である丞相が留守の間に決行したのは、やはり間違いではなかったようです。先程の男も、丞相の不正になにか関与していたようでしたが、あの男自身は個人的に動いていたようです。もし丞相がこのことを知れば、もっと大がかりな手を打って、この調査を妨害してくるに違いありません。とにかく今は、一刻も早く調査を終える必要があります。そして不正をあばき、血税で得た国のお金が何者かに横領されていたことをみなに周知させなければなりません」


「そして、その金が丞相の屋敷から見つかれば、やつを追いつめることができる。今日見つかった偽貨幣がやつの屋敷でも発見されれば、それが強い証拠になるはずだ」


 それを聞いて、わたしの胸は高鳴った。

 いよいよ事態は大詰めの局面を迎えている。この作戦が成功すれば、この国は大きな転機を迎えるだろう。悪しき膿が取り除かれ、清い国へと生まれ変わっていくだろう。

 わたしの胸は、期待に大きく膨らんでいた。

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