第39話:ボルトン攻略戦8
もう一人の自分って奴を意識するようになったのはアレハンドロ・ディアスと名乗った騎士を斬った時だったと思う。
人を真っ二つに叩き斬った感触にもっと動揺するかと思っていた。けれど。
(なんだ、こんなものか)
そう思った自分と。
(………)
特に何も感じない自分がいた。
きっと互いに互いを意識し、重なり合ったのはあの瞬間だったと今、思い返しても思う。
さりげなく話を振ってみたが、他の連中は俺ほどには重なりあい、意識していないようだった。それは直接斬ったはったをしたからとかじゃない。きっと、あいつら、常葉とカノンがモンスター種族だからだ。別に見下すとかではなく、視点が違う。
『違いすぎて、同調しきれていない』
言ってみりゃそういう事だ。
当然だろうな。誰が数千年、下手すりゃ数万年の年経た植物の生を、大空を舞い続ける鳥の王の生を人が理解しきれるとは思えない。
そうした意味じゃ四人娘の中のモンスター種族、ユウナの方が同調が深い。
確かに獣の感覚じゃあるが、ユウナのそれは地上を往く動物だからな。植物や鳥よりはまだ人の感覚でも理解出来る。ま、他三人よりは劣るがな……。
だから、だろう。
常葉とカノンは俺達の中で一番もう一人の自分との同調が弱い。あくまで、「そういう記憶がある」「だからある程度、人を殺す事にも耐性がある」って所ぐらいか。いや、後者に関しては種族が違いすぎて、同じ種族と認識出来ていない可能性が高い。
まあ、早い話何が言いたいかと言えば。
「ふん!!」
ザシュッ!ベギッ!
「ぎゃあっ!!」
「がっ!?」
「いてえ、いてえよおおお!!」
と、立ちはだかる人を斬っても、何とか防いだものの武器が持ちこたえられずに、色々と拙いとこまでへし折られて痛みにもがいていても、たいして何も思わねえ訳だな。だからこそ。
ドシュッ!
「げぶっ」
こうやってトドメを刺すのにも躊躇しないでいられるってもんだ。
……これでも優しさなんだぜ?へし折ったのは剣や腕だけじゃなく、肋骨やその奥にある内臓もだ。助からないなら、楽にしてやるのが慈悲ってもんだ。
「んで」
ギロリ、と奥を睨みつける。虎の顔だから迫力は満点だと自分でも思うぜ?
自分が元は人だったから分かる。例え、人に慣れていたとしても虎の顔って奴は怖い。ましてやそれが夜の闇の中、敵意を示し、返り血に体のあちこちを染めて、となれば尚更だ。事実、対峙している連中の足がじりっ、と下がった。それでも一歩で下げ止まったのはさすがと言っていい。……意味はないがな。
ぐっ、と体を落とすと相手も警戒する。
……ふん、更に後方から鎧の音、増援か。そりゃそうだな。敵の真っ只中でガチャガチャ音立ててりゃ、気付かれない方が不思議ってもんだろう。
体の中から興奮が沸き上がって来る。
殺せ、潰せ、覇を唱えよ。
そうだな、そうしよう。
湧き上がる衝動を咆哮に変えたい気持ちに駆られるが、さすがに自重する。その分を力に乗せて放つ。
【斬波(ザンバー)】
簡単に言えば割かしどのゲームでもありがちな飛ぶ斬撃。
だが、斬撃だけに使い手次第で威力は異なる。
そして、俺が使い、ここの騎士連中クラスなら……おっ?
ギンッ!!
「へえ……どいつもこいつも歯応えねえんで、雑魚ばかりかと思っちまったぜ」
最初の二人ばかりはこっちの予想通り防げず、ハラワタをぶちまけたんだがな。
二人を斬って、多少弱ってたとはいえ俺の【斬波】を防ぎやがった。しかも……。
「いやあ、おっさんにはきついんだけどねえ。これも仕事なのよ」
見た目はどこにでもいる無精ひげを生やしたおっさんと来た。
もっとも、庇われた連中の向ける視線には安堵と歓喜、そして確かな信頼がある。
「副団長……!」
「助かった!!」
ほう?
「お前さんが副団長なのか」
「まあねえ。ここボルトンの辺境伯様お付きのボルトン辺境騎士団副団長なんてもんやらしてもらってる、ゴットフリートってもんだ」
そう俺の問いへの答えを聞いて。
事前に調べて知った辺境騎士団最強と言われる男を前にニヤリと笑みが浮かんだ。
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