第38話:ポルトン攻略戦7

 内部は予想以上に厳重な警戒ぶりだった。


 (もっと大勢が外周に行っているかと思ったんだが)


 実際はこういう事態は想定済だった、という事だろう。

 当然と言えば当然か。城塞都市において、陥落を避けねばならない場所は大きく分けて二つ。

 一つは街の入り口である大門。

 ここが陥落すれば街の内部に敵が入り込む事になり、幾ら街の構造を利用したゲリラ戦を行うにせよ、街の住人に多大な犠牲は避けられない。

 しかし、それだけでは陥落とはならない。

 城塞都市の中心には城があり、ここを陥落させねば少なからぬ兵力が指揮官健在のまま都市内部に残る事となり、到底放置出来はしない。

 逆に言えば、この二箇所が一番狙われるという事でもある。

 だからこそ、都市警備の兵士らも動員して、その二箇所に集中させたと考えるべきだろう。

 そして、警備の兵士が増えれば、必然的に侵入者が見つかる可能性は増える。既に侵入者がある!と城側には感づかれた様子で、臨戦態勢に突入している状態だ。こうなった場合、エルフの兵士達ではそうそう先へは進めなくなるだろう。

 防御施設というものは幾つか、進みづらく、守りやすい場所がある。

 ここは居住施設も兼ねているが、それら自体は健在で、そうした場所に兵士を集中させられたらなかなか進めたものじゃない。エルフの兵士の特技は弓であり、ゲリラ戦闘であり、真っ向から力ずくで押し通るような真似は苦手だからだ。


 (さて、どうするか)


 無力化するにしても、こんな場所は植物は凄く限られている。

 もちろん、植物魔法を用いればどうにでもなるのだが……はっきり言おう。植物魔法によって生み出される危険植物達はどれもこの世界の住人達に対してはオーバーキルも甚だしい。当然と言えば当然の話で、弱っちい魔法、役立たない魔法なんてものを設定しても使われなくなるのは当り前。

 だが、『ワールドネイション』の魔法というのは使用者の魔力によって威力が左右されるものでもあった。つまり、強くなればなるほど、威力もまた上昇してゆくという事。

 そして、困った事に「手加減」というものは魔法には存在しなかった。結果として、常葉が使ったら、最低レベルの魔法である第一魔法の拘束して低ダメージを与えるような魔法でも、この世界で兵士相手に使えば、強靭な植物が鎧ごと兵士を絞り上げ、ねじ切るような威力になってしまっていた。なぜ、そんな事を知っているかと言えば、一番最初に拘束して、気絶させるつもりが、一瞬でミンチになってしまったからだ。

 こうなると無力化に使える魔法というのはとても種類が限られてしまう。

 

 「しょうがない、麻痺と眠りの第三魔法に絞って使って行こう」


 状態異常魔法は第三魔法からしか存在しないので仕方ない。

 もっとも、そんな考えは僅かな振動と、それが何だったのか現場に到着して知った時に吹き飛ぶ事になる。


 「これは……」


 間違いなく、ここで戦闘があったのだろう。

 そして、それは間違いなく一方的なものだっただろう。

 おそらく城内で、即座に防御設備を構築する為に用意されていたのだろう鋼鉄製と思われる柵の成れの果て。

 そして、盾を持った兵士、その残骸。

 それらが血の海に転がっていた。

    

 「こんな事が出来るのは……」


 エルフ達には無理だ。スラムの住人にも無理だろう。

 敵側の兵士や騎士なら味方にこんな事をして、ましてや死体を放置するはずがない。

 

 「ティグレさん、なのか?」

 

 不安がこみ上げてくる。

 ティグレも元々は日本人のゲーマー。当然、日本人の倫理観を持っているはずだ。なのに、この光景は何か?ティグレなら手加減して、怪我人は仕方ないによ殺さないまま先へと進む事だって出来たはずだ。

 もちろん、冷静な部分は「回復されて後方から追撃を受けたら」とか「後続が進みやすくするため」といった思考が思い浮かぶが……。それでも、自分はここまでしようとは、可能ならば無力化して進もうと考えていたというのに。

 考えられるとすれば……。


 「称号や設定に沿った記憶、それか?」


 植物系魔物として生きて来た記憶があり、精霊王となってからも根本部分としてはただあるがままに生きて来た記憶を持つ自分。

 では、ティグレは?

 獣人として生き、王となった彼は?

 そして、王となるまでに辿った道と、手に入れた王としての称号は?


 「【狂戦士】なんかはヤバいよな。それに……確かティグレさんの王たる称号は」


 【覇王】

 徳ではなく、武力策謀で王となった存在を示す。

 すなわち、ティグレが王となるまでの疑似記憶を得ているとなれば、それは……。

  

 「こうなるとカノンはどうなんだろう……あいつ猛禽類だからどう考えても植物の自分とは違うはずだし」


 急ぎ、先へと進みながら思考の一つはそうした考えに埋め尽くされていた。

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