第21話:傭兵談話
畜生!!こんな仕事引き受けるんじゃなかったぜ……!
あの時はそんな事を考えながら、それでも立ち止まる事が出来なかった。
俺は傭兵だ。
今回は大森林地帯のエルフ討伐、って仕事を引き受けた。
依頼元は俺がいた街の領主である伯爵家。そこの四男坊をトップに据えて、エルフ達の住む大森林地帯へと他の領主達の派遣された部隊と合同で向かう、って事だった。
正直に言うが、当時は美味しい仕事だと思った。
支払いは領主である伯爵家だから問題なし、金額も悪くない。戦闘にしたって何もなければそれでもいい。要は討伐に息子が参加した、という事実があればいいのであって、俺達が、いやその息子がエルフを一体も倒せなかったとしても問題はない。
あと、問題があるとしたら四男坊とやらのお坊ちゃんがどの程度我侭なのか、って話だった。
よくある話だが、可愛がられ、甘やかされて育ったバカ息子とか、貴族らしくってのを勘違いして尊大になった奴ってのはどこにでもいるもんだ。
「よう、お前らが俺の一時的な部下って事になる傭兵さん達かい?短い間だけどよろしく頼むわ」
幸いな事に、良い意味でいい加減な奴だった。
親や兄姉の前では素直な奴を装いながら、結構裏では街に配下と色々理屈つけては抜け出していたらしい。
だから、威張る事もなく、特に問題も起きずに俺や坊ちゃん含めて十五人ほどの小部隊は他の通称「諸侯連合軍」と合流出来た。
拙い、って思ったのは合流した後だった。
なにせ、指揮系統が全く出来ていない。典型的な烏合の衆だ。
「なあ、これ拙くないか?」
なんて雇い主の坊ちゃんが夜の野営時に不安そうに言ってたが、俺達もまったくもって同感だった。
「俺だって実家の兵士達に混じって訓練ぐらいはした事あるし、下町の喧嘩に巻き込まれた事だってあるよ。けど、誰が頭かはっきりしてない集団って拙いだろ?」
「ああ、拙い」
理解してくれてて何よりだわ。
「おまけに俺から見ても、剣持った事あるの?って奴とか、顔は知ってるがボンクラで貴族社会でも有名な奴とか混じってるしさあ……」
おまけにそういう奴ら程金持ちで連れてきてる奴だけは多かったり、家の位が高かったりすんだよな。
そうぼやいていた。
おまけに、現地に到着してみれば森の手前に広大な湿地帯と来たもんだ。
「地面が乾いてる所にテント張りたいんですが、構いやせんか?」
「何か問題があるのかい?」
「陣地が後ろの方、騎士団寄りになっちまうんで」
「むしろそっちのが有難い」
逃げるにはさ。
ぼそりと呟かれた言葉に思わず俺達は全員が頷いた。
そうなんだよなあ。見栄で前に出てる連中には悪いが、前に出ても良い事全然ないんだよな。
けど、その晩の事だった。
俺達のいる場所は諸侯連合軍の中でも最後方に近い辺り、騎士団に近い方だった。
だから、騎士団で起きた騒動にも見張り役がすぐ気づいて、皆を起こしたんだ。だが、最初は少数の集団が騎士団の背後に回り込んで物資を焼き払おうとしたのかと思ったんだよな。戦争やってりゃよくある手だが、真っ向勝負じゃ敵わない連中が敵の物資を焼き払って、撤退に追い込もうとするってのはよくある手だ。誰だって、メシがなくなったら帰らざるをえないしな。
問題は攻撃が次は俺達に向いてきた事だ。
最初は騎士団と俺達の間に飛んできた何かが爆裂して、火が飛び散った。
この時点で、俺達は坊ちゃん含めて、全員身支度整えてたんだが、まさかいきなりそんな所に攻撃が飛んでくるとは思わなかったからな。何せ、そんな所に攻撃が来るって事はどこから撃ってるのか分からねえが、前から撃ってるなら諸侯連合軍を飛び越えて飛んできた事になるし、後ろからなら騎士団を飛び越えて来た事になる。……とんでもな飛距離がある。
それが分かった時、やばい、って思った。
「拙い、これ次はこっちに飛んでくるぞ!?」
「坊ちゃん、前へ行け!後ろは下がれねえ!!」
くそ!って思ったな。騎士団の方へ逃がしたいんだが、騎士団とこっちの間はもう火の海だ。何かしらの油でも混ぜてるのか、火が消えねえ!
……走り抜ける事が出来るかもしれねえが、もし、体に火がついたりしたら面倒だ。
そして、すぐに動けた俺達は幸運だったんだろう、間違いなく!俺達が走り出して間もなく、次の攻撃が来た。おっそろしい事に俺達の天幕に直撃。あと少し遅かったら、俺達は炎の中で死のダンスを踊る事になってただろうよ!
いや、実際、呆然と突っ立ってた奴の中には悲鳴を上げて踊り狂う奴もいた。地面を転げ回り、それでも火が消えないのを見て、ぞっとした。最後は動かなくなって……。
前へ、前へと追い立てるように飛来する攻撃。
寝ていて遅れた時は、寝ていた天幕に直撃を喰らって、悲鳴を上げて燃えながら飛び出してくる奴。周囲を炎に包まれてからやっと気が付いたが、逃げるに逃げれず助けを求めながら炎に飲み込まれていった奴。
そんな中、俺は決意を決めて、仲間に怒鳴った。
「このままじゃ前の湿地帯に追い込まれちまう!奴らがそこにも罠を張ってたらそれこそ死んじまうぞ!!」
「ならどうすんだ!!」
「……戻るしかねえ。何とか、炎を突破して騎士団に合流するんだ!」
結果から言えば、これが生死の分かれ道になった。
この時いたのは俺含めて八人。残りははぐれた。俺の意見に賛成して、戻る事を選んだのは依頼主と俺にあと二人、ちょうど半々に別れた。
戻る中、一人が倒れて来た天幕で炎に分断されて別れ、火傷を負いながら何とか炎を突破して騎士団の所にまで俺達三人は辿り着いたが、残りは遂に騎士団に保護された面々の中に見つかる事はなかった。
……結局、諸侯連合軍で助かった奴は騎士団で保護されたのが三百に満たず、湿地帯入り口付近で動かずじっとしていた事で朝になってから保護された奴が百少々。残りは全員死んだ。
騎士団も無傷じゃあない。ただ、あちらは序盤で早々に水では消えないと判断すると、そうした事に詳しい奴(炎魔法の専門家がいたらしいな)が土系統の魔法で砂をかけて消火。犠牲者は出たが、整然と行動したために諸侯連合軍に比べれば大分少ない被害で済んだみたいだが、それでも物資をやられて後退するしかなかった。
……ひでえ戦いだったなあ。
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