第7話:名前を決めて先へ
名前決めは紛糾した。
俺は「このままでいい」であっさり決まった。常葉(とこは)、いいじゃないか。本来の名前にも似てるし、植物の精霊王としてなら変な名前でもない。
俺同様、それでいい、という名前を付けていた娘(こ)は良かった。
陽奈(ひな)ちゃんと摩莉夜(まりや)ちゃんだ。それぞれ咲夜とマリア。
一方、他の四人はいずれも紛糾した。
猫子猫さん、笠斗のカモネギは言うまでもない。翡翠は面白がって折角だからと寿限無の落語じゃないが長ったらしく貴族っぽい名前にしてたんだが「ステータス画面が見れないせいで私が忘れた!!」というのが当人の申告だった。
香香ちゃんはわざと漢っぽい名前にしてたので、この際変えるという事らしい。確かに、「マッチョ・ゴンザレス」なんて名前は現実じゃ嫌だよな。
最終的に。
「じゃあ、俺はティグレで」
「僕はカノン・フォーゲルにしとくよ」
「私は紅(くれない)!」
「ユウナで」
翡翠はゲームの名前での反省から自分の名前同様色の名前で、短いものを。
香香ちゃんは熊の魔物な事から、熊の別の呼び方である「ゆう」に一字適当にくっつけたらしい。
「じゃあ、変えてないのは俺、常葉と咲夜、マリア。変えたのが猫子猫さんがティグレ、カモネギがカノン・フォーゲル、名称不明が紅、マッチョ・ゴンザレスがユウナだな?」
翡翠の「名称不明」で皆の顔が一瞬笑いかけ、香香ちゃんのマッチョ・ゴンザレスで一部噴き出してたがこれは仕方ない。
この中では笠斗のみ家名っぽい名前がついてるが、元々の名前の由来がカノ―ネンフォーゲルという愛称を持つ航空機だからだ。
猫子猫さんが自分が虎だからとスペイン語で虎を意味するティグレを選んだ時、笠斗が「鳥は何て言う呼び方なんですか?」と質問したのがきっかけだった。しかし、猫子猫さんも自分が虎の見た目だから虎は覚えてたものの、スペイン語の鳥の呼び方は知らなかったんだが。
『ドイツ語なら知ってんだがなあ、フォーゲルってんだが』
『へえ』
『よくご存じですね』
『いや、たまたまちょいと有名な航空機の名前で知ってただけさ、カノ―ネンフォーゲルって機体なんだが』
『あ、いいじゃないですか!じゃ、自分の名前はカノーネン……いや、カノン・フォーゲルで!』
という事になった訳だ。
当人が気に入ってるんだからいいか。カモネギよりはずっとまともっぽい名前だし。
さて、そうして決まった名前で俺達は今、改めてエルフの人達と話をしている。
「では改めてお話を伺いましょう」
「よろしく」
という訳で、俺達の代表的な立場を務めている猫子猫さん改めティグレさんがあちらの族長さんと握手している。
今日は他にも同じような人達がいるが、どうやら近隣の部族の人達らしい。より奥地に住むエルフの部族は実感が湧かないせいで協力要請しても乗り気になってくれないが、近隣の部族達からすれば「明日は我が身」なのが分かりきってるからな。こうして協力してくれているらしい。とはいえ。
「相手の戦力は万に迫り、こちらの数は精々二百か……」
ティグレさんが唸り声をあげている様子にエルフの族長さん達の顔が少々強張っている。まあ、虎が不機嫌そうに目の前で唸ってたらそれも仕方ないか。
しかし、参ったな。
相手側の戦力はそれなり以上に大きな国が辺境伯という大貴族を援助する形で押し出してきているそうだ。
何故そこまで詳しいかと言えば、降伏要求の使者がそう言ってきたそうだ。
『辺境伯様の軍勢に国軍が加わり、我が方の軍勢は万に迫る。抵抗なぞ考えぬ方が身のためだぞ』
と。
随分と親切にも思えるが、大方こちらの総戦力が不明なのでまともに戦った時どの程度損害が出るか分からない、といった事もあるんだろう。これでこちらの参加戦力が二百だと分かってれば、いやそれでも森の中という大軍を活かしづらい環境なら勧告していた可能性は高いか。
いくら最後は勝つと言っても、死ぬ奴は出るし、森にも損害は出る。
貴重な薬草だのがあるかもしれないし、それらを除いても森の木々というのは材木に出来る。今後開拓村を作る際に材料となるだろうし、森の恵みという奴は開拓の際に大きな力となるんだろう。降伏勧告ぐらいなら大した手間でもないし、楽になる可能性があるならやっておいて損はない、ってとこか。
国同士なら使者にもそれなりの立場の奴が必要なんだろうけど、今回は連中からすれば国じゃないしな。
「うーん、そうなるとある程度こちらで戦力を調達するしかねえか」
「ちょ、調達と言われましてもどうやって?」
本当に腰が低いな。
これは俺達を呼び出したエルフの族長さん達だけじゃなく、他のエルフの人達も同様だ。
エルフというと何というか気位が高いというかそういうイメージがあるんだが、それも後で聞いておいた方が良さそうだなあ。下手に目の前の人達と同じ対応して、他のエルフ達を怒らせるというのも何だし。もっとも最終的には怒らせる事にならざるをえないとは思ってるんだが。
これも夕べ話し合った事だけど、結局はこの森のエルフ達が協力する体制作らないと話にならないんだよな。
俺達は結局は余所から来た奴で、自分の住んでる所を自分で守る、自分達で統治していく。そんな気持ちを持たないとろくな事にはならない。
『どうせ誰かがやってくれるさ』
『俺達には関係ない話』
そんな風に思っている連中が多数を占めるなら、この森の行く末は、エルフ達の未来は暗いと言わざるをえない。
ただし、エルフ達がそう思ってるだけならともかく、それじゃあ俺達まで迷惑を被る事になる。
危機が何時まで経っても去らない、じゃあ意味がない。送還出来る、といっても俺達には儀式のやり方なんて分からないんだから彼らにやってもらわないといけないんだが、ただ追い払っただけで何時また襲撃されるか分からない、そんな状況で帰してくれる訳もないだろう。というか、俺だったら帰さない。
つまり、俺達が無事に帰る為にはこの森に住むエルフ達にちゃんと自覚を持ってもらう必要がある訳だ。少なくとも、呼び出した目の前のエルフ達には「これなら大丈夫」と思ってもらわないとね。
「常葉」
「だろうね」
昨晩はエルフ達が動員可能な戦力が分からなかったから、案の一つに入れるにとどめておいたんだが。
これがせめて千も動員出来るなら、ゲリラ戦で削っていくって事も可能だったと思うんだけどな。
「魔法で動かすゴーレム兵を作ります」
そうエルフ達に告げた。
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