第3話:開始初日、そして

 本日、四人娘が『ワールドネイション』にログインしてくる。

 何とか俺、守森常盤(かみもりときわ)の愛すべき妹である翡翠(ひすい)もアバターの作成が間に合った。最終的にあいつが選んだクラスはレンジャー。

 レンジャー?と思うかもしれない。だが。

 

 『上級クラスになったらガンカタ出来るぞ』

 『やる!!』


 即答だった。

 まあ、あれ見栄えはいいもんな。元がある映画の演出って事を考えれば当たり前だが。 

 そんな四人を俺、笠斗、そして今回協力してくれる猫子猫さんの三人で待っていた。


 「お、来たな」


 笠斗が真っ先に気づいた。

 ログイン時の合図である門が出現し、開く。一つ、また一つと合計四つの扉が現れ開き、四人が『ワールドネイション』の世界へとログインを果たした。


 「やあ、お兄ちゃん達ご苦労様、って、えっ?あれっ?」

 「どうした?」

 「えっ、香香(きょうか)ちゃんとか、お兄ちゃんとか笠斗さんとかその姿って」


 ああ……。

 さては説明したのに聞いてなかったな?


 「はあ、モンスターには人化モードがあるって説明しただろうが」

 「じ、人化モード?」

 「そう、モンスターってレベル高い種族になると巨大なのが増えるからな。それが原因で通常のダンジョンとか潜れないと不公平だから、ってんでこういうのがあるんだよ」

 「私はサイズはまだ小さいけど、これモンスター共通スキルだからねー」


 俺の外見は頭部に角のような植物の枝が生えて着物を来た人型。

 笠斗は直立した鳥人間がタキシードを着てる。 

 香香ちゃんはベルセルクっていうのかな?熊の皮を被った女の子という外見だ。

 香香ちゃんは自分で言った通り、モンスターとしての姿もそこまで大きくないが、俺や笠斗は超巨大だからなあ。かといって俺らサイズのダンジョンなんか作ってたら今度は人サイズのアバターが冒険なんか出来たもんじゃないし。 

 

 「ふーん、まあ、いっか!それじゃゲーム始めよう!!」

 「いや、待て待て」


 何のために俺達が集まってると思ってるんだ。

 始めたばかりのプレイヤーの装備やアイテムは弱い。もちろん、一から装備を集めていくのもゲームの醍醐味じゃあるんだが、今回はスタートダッシュとして俺らがある程度装備やアイテムを提供しようって訳だ。


 「という事を言ってたはずだが?」

 「忘れてた!」


 まったくこいつは……。

 溜息をつきながら、事前に用意していたアイテムを渡していく。猫子猫さんや知り合いの伝手も使わせてもらった。何せ、俺も笠斗も武器や防具使えないからそっち方面の伝手ってなかったんだよなあ。評判のいいプレイヤー生産職の国(実質会社)に作成を依頼するにしても、あっちも昔から付き合いあって今後も色々お付き合いのあるプレイヤーさんと、単発で飛び込みのプレイヤーからの依頼じゃどちらを優先するかは分かりきってるし。

 いや、ある程度の性能の武器防具アイテムに関しては普通に商取引があるんだ。

 けど、そこまでして作成お願いしたのは……。


 「ええと、お兄さん、これは……」


 お、陽奈(ひな)ちゃんは気づいたか。生産職というべきドワーフを選んだからかな?

 

 「うん、今は装備出来ないだろうけど何時かはこれを装備出来るようになって活躍して欲しいと思ってさ」

 「香香ちゃんと陽奈ちゃんは俺から!翡翠ちゃんと摩莉夜(まりや)ちゃんは常葉っちからのプレゼントだぜ!」

 

 喜んでくれてるみたいだ。

 しかし、笠斗からは摩莉夜ちゃんは俺からプレゼントするべきと主張されたが何でだろうな?エルフの杖って樹木系素材がいいからだろうか?


 (笠斗さん、摩莉夜へのプレゼント役を常盤さんにするとはぐっじょぶですわ!)

 (だろ、陽奈っち!)


 なんか笠斗と陽奈ちゃんが話してるな。

 仲良さそうだなー……こっちは摩莉夜ちゃん顔逸らして隠れちゃったのに……。

 さて、それじゃ。アイテムも渡したし、そろそろ行くか。  

 とはいえ。


 「あっさり終わった」


 まあ、こうなるよな。

 

 「仕方ない。下位のクラスは他のゲームのチュートリアル相当だからな」

 「納得」

 

 そう、この『ワールドネイション』は国を造ってからが本番だから、下位クラスの職業ってのは実質チュートリアルみたいなものだ。だから俺達ベテラン組のサポートつきで少しパワーレベリングも混ぜれば、割とあっさり上級職になれる下位職のレベル上限に達してしまう。

 

 「とりあえず、こんなもんだろ」

 「そうだね。この後しばらくは各自のエリアで個別クエスト進めないと」


 そんな事を話しつつ、ちょいと『戦争』なんかも見せ、ちょうど会えた顔見知りに紹介もして。

 さて、帰るかとポータルルームへ移動したんだが……。


 「なんだ、あれは」

 「なんでしょう?」

 「なんだろうな」


 思わず口々に言ってしまったよ。

 ポータルルームはログアウトや各自の国へと移動する時に使う広間だ。

 この移動時にも自動的という訳にはいかない。誰かの国へと招待される事もあるからだ。

 そこで対象を選択して入力する訳だが、この際にパスワードが必要とされるので、覗き込むようなマナーの悪い事をするような奴はどこにでもいる事から「知り合い同士なら入れる」仕様になっている。

 つまり、そこには知らない奴は入れないはずなのだが……今、そこに奇妙な光景が展開していた。


 「腕だね」

 「腕だな」

 「なんで腕が空中から生えてるの!?」


 そう、空中からいきなりにょっきりと腕が生えて、何かを探すように動かしているという光景が展開されていた。


 「何かのイベントでしょうか?」

 「いや、さすがにこれでイベントはねえだろ」

 「そもそもポータルルームは運営からの通知以外は一切なしだ」


 さすがに引く光景だったが、変化は突然だった。

 

 「え?」


 がしっと。

 突如として移動した腕が常盤の腕を掴んだ。

 ぐん、と引っ張られる動きを感じて、思わず声が洩れる。


 「え、ちょ、うわ」

 「お兄ちゃん!?」

 「常盤!?」

 「大丈夫か!?」

 

 思わず、といった風情で他の皆が手を伸ばして常盤を掴み。

 次の瞬間、彼らは全員その場から姿を消していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る