第4話:幕間

 『さあ、本日のメインイベントの開始だあっ!!』


 ああ、間に合った。

 

 「うわあ、これが『ワールドネイション』の戦争なんだ」

 「どっちかと言えば試合観戦の気分」


 否定はしないよ。

 カメラワークも行われるし、解説もつくからね。

 「戦争」と銘打ってはいるが、実態は「試合」に他ならない。もっとも、現実の戦争なんて悲惨極まりない事になるのが分かりきっているんだから、そういうのをやりたいならそういうのが売りの未成年お断りな海外のゲームをやるしかないだろうけどね。

 本日の「戦争」、そのメインイベントは竜対近代兵器の軍隊。

 スクリーン状の画面に映し出された双方の国王。

 仁王立ちになるは七大国の一角、竜剛帝国の女帝。

 無造作に酒瓶を煽るは同じく七大国の一角、鉄血地底城の王。


 「恰好いい名前だね」

 「さすがにこのレベルで、国の名前までおちゃらけた名前つけてる奴は少ないからな」


 香香ちゃんの声に答える。一つには国の名前は変更可能だという事もある。

 そりゃそうだよな。村サイズの時に「大帝国」なんて名前つけても虚しいだけだし。一番多いのは最初は「~の村」から始まり、次第に「~の街」「都市国家~」といった感じで国名を変えていくパターンだ。こうした変更が出来なかったらぱっといい名前が決まらなくて、プレイ出来ないなんて可能性もあるからな。


 「だから、建国時はそこまで深く考えなくていいんだ」

 「へー」


 まあ、そのせいで適当に設定した名前のまま、何か気に入ったとか、変えるの忘れてたとかで妙な名前の国もあるけどな……。

 例えば、「ああああああああああ」なんて国とか……。

 さて、竜剛帝国のプレイヤーの種族はその国の名が示す通り竜。

 それも「アームドモンスター」というモンスターが武器防具を装備可能になる進化ツリーへと進んだ姿。

 あれでも女性で、普段は優しい人なんだが「戦争」前、漆黒の鎧に身を包み大剣を突き立てたその姿は威圧感に溢れている。

 一方の鉄血地底城のプレイヤーの種族はドワーフ。

 双方の軍勢が並んだ姿を見ると……。


 「何でしょう、ファンタジーの軍勢対近代軍隊という印象がします……」


 摩莉夜ちゃんの言う通りだな。

 竜剛帝国の軍勢は竜で揃えた軍勢。大小様々な竜が揃う姿は勇壮で、圧倒される反面全体の数は少ない。

 鉄血地底城の軍勢は銃や大砲で武装し、ドワーフだから小柄ではあるもののいかにもな軍!という印象だ。

 

 「武器の形状は割と好き勝手に変えれるんだけど、鉄血地底城のプレイヤーは近代兵器が好きなんだろうね」


 同じ性能なのに見た目最新鋭ライフルと、ラッパみたいに先が開いたマスケットが発射速度も威力も同じだったりする。見た目だけじゃ本当の性能は分からない。七大国の一角、鉄血地底城の装備だから現在の最新鋭装備だとは思うけどね。

 

 「怪獣映画ですね」

 「あははははは……」


 ぼそりと陽奈ちゃんが呟いた言葉に乾いた笑いを浮かべてしまう。

 そう、正に怪獣の軍団に対抗する近代軍隊といった状態になっている。

 こういうものは昔から、現実にはないような超兵器が何故か存在する軍隊が勝つか、怪獣と仲良くなるか、共通の敵が出てくるかだ。稀に怪獣が通常兵器でもやられるぐらい弱い!という展開もあるがそういうのは滅多にない。

 さて、そうした意味で見るならどちらが勝つのか……。


 「竜の方が数が少ないですね?」


 コストの問題だな、と首を傾げた摩莉夜ちゃんに答える。

 誰だって最初から赤字前提で試合やりたくはない。もちろん、戦争の場合、そうも言ってられないとか、感情優先とか色々あるけど試合ならコストというものを考えないといけない。大型の竜は当然コストが高くなるし、それなら少数精鋭でそろえた方がいい。

 ドワーフ側も竜と戦えて、けど弾薬なんかで元々コストが高くなりがちなドワーフ軍だ。どこまで出すかは悩みの種だろう。

 ゲーム的に見るなら、コスト制限なかったら「大国が絶対勝つ」って事になっちゃうというのもあるんだろうな。 


 先制は竜剛帝国側だった。

 空へと舞い上がった竜、比較的小型で数がいる部隊が舞い上がる。

 これに対して、鉄血地底城側の反撃は。


 『さあ、盛大な対空砲火が上がったぞ!!』


 さすがにミサイルまではないが、対空砲火は激しい。

 ただし魔法部隊と違って、撃ちっぱなしで回収不可能だからなあ。これがドワーフは赤字覚悟と言われる所以だな。その分、生産で稼ぎやすくなってるんだが。

 他の種族が赤字が出すぎないよう抑えて戦争するのに対して、日常でたんまり稼いで、戦争でぱーっと使うのがドワーフの戦争のやり方だ。というかそれしかやりようがない。

 最高クラスのドワーフ側の対空砲火にまさか竜剛帝国側が真っ向突っ込んでいくとも思えないが……?


 「あっ」


 誰かの声が漏れた。

 地竜か。

 二体の地竜が地面の中から出現した。それも対空陣地のすぐ傍だ!

 なるほど、これ見よがしに空から攻撃仕掛け続けて、視線が空に集中している間に地竜を潜らせたのか。

 しかし、そこは七大国の一角、鉄血地底城。

 待機していた火力が地竜に向けて攻撃を開始したが……。


 「大火力が発揮出来てないな」


 近距離に潜り込まれたのが痛い。

 大砲では対空陣地にまで被害が出る可能性が高いが、しかし僅かに稼がれた時間を活かして。


 「あ、対空砲の一部を横向きにしましたね」


 うん、対空用の砲を対装甲車両用に用いるのは普通にあるからね。有名な所では88ミリFLAK、通称アハト・アハトか。対空砲として開発されたけど対戦車砲としての有用性が高かったせいで最終的には対空砲として使われる事はほとんどなかったという。空を狙う為に長砲身の砲が多いから高初速になるのが向いてるんだろうな。

 けど、一部が横を向いたせいで、上空への攻撃に空きが出来てしまった。おまけに、地竜を何とか倒したとはいえ損害も出ているし、二度目を仕掛けられる用心の為に一部は上空に向けられない。

 結果、空からの攻撃に被害が発生し、それが更に空からの攻撃に対して空きが出てしまうという悪循環に陥っている。

 しょうがないだろうな、鉄血地底城が苦手とするのが空からの攻撃だ。ファンタジーVS近代軍隊と称したが、より正確に現すなら対地攻撃機部隊VS装甲師団だな。 

 相性が悪いのは理解していた。だから、鉄血地底城側も本気を出していない……。


 「それでいいんですか?」

 「いいんだよ、ゲームなんだから」

 「ゲームだから、ですか……なるほど」


 そう、「戦争」なんて銘打ってても所詮ゲームなんだよ。

 これで自分が命の危機に晒される訳じゃない。領地を取られて、飢える民が出る訳でもないし、裏切り者が内部から出る恐れだってない。

 これが現実の戦争だったらどうだろう?双方だって大国同士、互いに諜報活動で探り合い、寝返りを促し、奇襲夜襲を行えるなら行い、こうして真っ向勝負で決着をつけるかも怪しい。自分も『ワールドネイション』をやるようになってから色々調べてみたけれど、戦争なんてものは一旦起きたら長期間が当り前だ。有名なのは百年戦争だが、基本何ヶ月も戦争は続いた。一戦で片が付くなんてのは早々あるものじゃない。

 戦いだって、血生臭く、兵士だって死にたくないから窮地で死に物狂いで戦った結果、えらい損害が勝った側にも出たとか、逆に窮地になった事で恐怖を抱いた兵士が壊乱したなんて話もゴロゴロと……。

 

 「もちろん、勝った方が美味しいから勝てそうなら勝ちに行くけどね。勝つのが厳しそうなら程々の所、負けを前提に動いた方が美味しい事もあるんだよ」

 「ややこしいですね……」

 

 うん、まあそうなんだけどその駆け引きが大事というか、幾つもの会社が幹部候補にこのゲームさせてるって噂があるのもそこら辺もあると思うんだよね……。

 そんな事を考え、摩莉夜ちゃんと話をしている内に戦争は竜剛帝国の勝利に終わった。でも、鉄血地底城も大きな損害は出てないから上手く負けた、って所だな。

 

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