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ルカさんの指示でスツールに座り向かい合う。透き通って真っ白な肌は、男の俺でも羨ましい。さすが美容男子。
「お肌整えますね」
シュッシュッ、とコットンに何かを吹きかけてそれを俺の肌に滑らせた。ちょっと冷たい。
「ごめんなさい、冷たいですよね」
「いえ、大丈夫です」
ザ・男って感じのほぼスキンケアなんてしていない肌を、まじまじと見られているのが恥ずかしくなってくる。しかも前髪はクリップで止められて顔の隅々を見られている。去年も一昨年も見られているとしても、やっぱり恥ずかしい。
もう少しちゃんとしておけば良かった、なんて。これでも昨日はパックをして寝たんだ。
ちなみに一昨年は吸血鬼で、去年の仮装はフランケンシュタインだった。意外にもお客様には好評だった。
「・・・」
テキパキと手を動かして俺の顔を塗って行くルカさん。その顔は店で見せる穏やかな顔ではなく、真剣な、職人の顔だった。
あまりにジィッと見られているので、ドギマギする。つい視線を外したり目を瞑ってしまう。
早く終わってくれと思っているのに、どうしてかその手つきが心地いい。エステとかもこんな感じならちょっと行ってみたいかも、なんて。言ったらミケに笑われてしまうか。
「ルカさんは今年、何をされるんですか?」
「僕ですか? 僕は一応ゾンビらしいです」
「らしい?」
「友達が特殊メイクを練習中で。僕はそれのモデルって感じです。今のマスターと同じですね」
「へぇ、特殊メイクならかなり本格的なものになりそうですね。今度みせてくださいね」
「もちろん。マスターには協力していただいていますし。こういう時でしか練習できませんから」
いろんな方にメイク出来るのも楽しいし、とルカさんは続けた。ちなみに俺の前にミケの店でメイクをして来たらしい。後でミケと一緒に写真を撮らせてほしいとお願いされた。
「ちょっと写真は恥ずかしいですけどね」
「大丈夫です、マスター格好いいですから」
「え?」
「ちゃんとお店の宣伝もさせてもらいますので、よろしくお願いします」
その写真は担当雑誌の公式SNSに載せるものらしい。ルカさんは美容雑誌の編集者だ。
勉強とは言え、無料でメイクしてもらっているし、投稿を見て来客が増える可能性もある。写真を撮られるのがちょっと恥ずかしいだけだ。
「はい、出来ましたよ」
ちゃっかり髪のセットまでしてもらってルカさんの手鏡に姿を映した。
「おわっ」
「どうですか? 格好いいでしょ?」
小さな鏡の中にいたのはバーテン服に身を包んだ狼男。髪のセットで狼の耳が表現されている。
「すごい」
鏡越しにルカさんを見ると満足そうに微笑んでいた。
「素材がいいから格好いい狼男になりました」
その後先にメイクを終わらせたミケとルカさんのカメラでバックバーを背景に写真を撮った。この為に超本格的な一眼レフカメラを持って来ているルカさんはやっぱりプロだなぁと実感する。
「ハッピーハロウィン!」
ルカさんはそう残して去って行った。
「あんたやっぱりそう言うの似合うわね」
「ミケはそっちの方がいい」
「どういう意味よ」
「そう言う意味だろ」
少ししてからSNSに新しい投稿があった。バーテンの狼男とゴツイ身体にドレスを纏った化け猫(比喩じゃなくて本当に化け猫メイク)がバーで格好つけた写真だ。
来店されたお客様の反応は上々。なんだかんだ言って仮装するのはまんざらでもない。
たまにはこんなイベントもいいもんだ。ルカさんもお客様も俺自身も、楽しければすべてよし。
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