煮詰まる

 社内の安全週間に向け、安全をテーマにしたポスターが募集される。一応、自由参加ということになってはいるが、各部署ごとに一枚は参加しろという圧力が掛かり、それは新入社員へと向かう。


 提出期限まで、あと一週間。課長の田中は、新入社員である佐々木に確認をする。

「佐々木くん、ポスターは出来そう?」

「ちょうど煮詰まってまして……」

「そうか。それならもうすぐだね。頑張って」

 田中は佐々木の返答を受け、大丈夫そうだと自席へと戻っていく。

 一方、佐々木はせっかく課長が声を掛けてくれたのに、相談できるどころか、逆にもうすぐ完成だと期待をされて戸惑っていた。


 佐々木の正面の席では、その様子を見ていた浅井が笑いをこらえている。

「佐々木さん、煮詰まっているんじゃなくて、行き詰まっているんですよね」

「はい」

 勢いで答えてから、佐々木は浅井に確認をする。

「あの、煮詰まると行き詰まるって違うんですか?」

「煮詰まるだと、完成間近という意味ですよ。あんことかジャムとか、煮詰めていって、作るでしょう」

「なるほど」

 それならば、先ほどの課長の態度に納得がいく。


「業務ということで、これ見よがしにここで描いていていいからね。みんな知っているし」

「はい、ありがとうございます」

 とは言っても、さすがに道具を並べてどうしようか悩んでいる様子を見せるわけにはいかない。どのような構図にするかまでは、事前に決めておく必要があった。


 結局、佐々木が書いたポスターは、緑十字のヘルメットを着用した顔と、「安全第一」という文字を入れた、よくあるものだった。

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