ヒロイン=ヒーロー
たぷたぷゴマダレ
1-1 魔法少女始めました。
どこかくらい部屋の中で、数個の影があった。ぽうっと部屋を照らす淡い光が、逆に恐ろしく見えてしまう。
「……人間というのは、すばらしい。そう思いませんか?」
一人の少年が口を開けた。丁寧な口調だが、それはどこか冷たさを帯びていて、もし少年と油断して話しかけてしまったら、そのギャップに倒れてしまいそうだ。
その少年の言葉に対して、しばらくして一人の青年が「そうか?」と一言を置いてから口を開ける。
「すぐ壊れるだろ?確かに、最後の歌声はすばらしいんが……俺にはよくわからんね」
「ほっほっ……まぁ、言わんとしてることはわかるがのぉ。けれど、わしらにとっては、ただ欲をぶつける相手じゃからな」
初老の男性のような声が聞こえて、その言葉に対し青年がうんうんと頷く。そんな二人を慈しむような視線を、少年は向けていた。
そんな時、突然ふわぁとした欠伸が聞こえてきた。もぞもぞとしながら、布団から這い出た一人の少女が、じーっと少年の方を見ていた。
「今……なんの話ししてたの……?」
「いえ、ただ人間は素晴らしいという話です」
「そう……ふわぁ……私にはよくわからないかな……」
「まぁ。そうだろうな。お前は、寝ることしか頭にねぇからな」
「……脳みそ筋肉クソ野郎……」
「んだとゴラァ!!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着きなされ……ほら、彼が何か言いたそうですじゃ」
初老の男性がそういうと、二人は少年の方に視線を向けた。彼は、ニコニコとしていたが、視線が来た瞬間、こほんと短く咳払いをして口を開ける。
「みなさん。僕は、素晴らしい人間たちを……支配したい。なので……協力願えますか?」
彼の言葉を聞いた、他の三人は無言でうなずいた。その頷きを見て、少年は満足そうに小さく微笑むのだった。
気づけば暗い部屋から、人影が消えていた。いや、もしかしたらそれは人の影ではなかったのかもしれない。
◇◇◇◇◇
「最近何かと物騒ですね……」
深い青の髪の毛で、それをサイドにまとめている小学校五年生くらいの少女がポツリとつぶやいた。パラリと新聞をめくり、今度はため息をつく。
パーカーに、膝丈のスカートに今はあまり見ないルーズソックス。そして、髪留めには可愛らしい雪だるまが付いていた。しかし、彼女の目はジトッとしていたが。
「首を刈り取られた死体……ですか。まぁ、マッポさんも24時間戦えるわけじゃないですからねぇ。いつか、落ち着いて欲しいですけど」
どことなく古い言葉を使いながら、少女は新聞を閉じる。ふぅっと息を吐くと同時に、家のチャイムが彼女の耳に入ってくる。
少女ははーいと言いながら、家のドアを開けると、そこには袋を片手に持っている男性が立っていた。
「おかえりんこです、あかねさん」
「ただいまん……ただいま、美冬ちゃん」
男性かと思ったが、声を聞くと彼ではなく彼女だった。あかねと呼ばれた少女は、少しだけ頬を赤くしながら、家の中に入る。
彼女は黒い髪の毛を短く切りさらえていて、赤い長袖の上にオレンジのシャツを羽織っていた。そして青いショートパンツに健康そうな肌がのぞき、黒いハイソックスを履いていた。
その少女。あかねは冷蔵庫から麦茶を取り出して、コップに注いだ。まるで自分の家のように振舞ってはいるが、それもそのはず。ここは、あかねの家だ。
ただ、美冬の家には兄しかいなくて、その兄もバイトなどでなかなか家にいない。だから、その間だけでもというわけで、あかねが美冬を預かっているのだ。
今ではまるであかねの家に住んでるかのような美冬だが、夜になると彼の兄。小峠春樹が迎えにくる。それが美冬にとっては実は楽しみだったりする。
「最近暑くなってきたからなぁ。もう6月になりそうだし……冷たい麦茶はうまいな。うん」
「あかねさん、おじんみたいです」
「おじ……?おじさんってことか?美冬ちゃんはたまに難しい言葉を使うよなぁ」
あかねはそう言って思い出したかのように持ってきてきた袋から、クロワッサンを取り出す。その袋には『三月パン』と書かれていた。
クロワッサンを受け取った美冬はトテトテと嬉しそうに机に向かっていき、それをかじり始める。バターの風味が口の中にいっぱい広がっていく。
ニコニコした顔をした美冬を見ながら、あかねの顔も自然にほころんでいく。その時、ちらりとかの新聞が目に入ってきたが、あかねは気にしないようにした。
「……ん?」
「どうしましたあかねさん?窓の方を見て……」
「あー……いや、なんか視線を感じてない……気のせいかな?」
あかねはそう言いながら、窓を開けてみる。空を見上げても、鳥が羽ばたいてるだけで、いつもと変わらない。
その時、何か白い球体が自然の中に入ってきた。月か何かと思っていたが、まだ時刻は昼過ぎ。月が見えるには早すぎる気がするなとは考えていたが、よく見るとそれは動いていた。
ゆっくりと。だが、確実にそれはあかねの方に近づいてきていた。流石に違和感を感じてしまい、あかねは窓を閉めようとするがそれよりも早く白い球体はあかねの頭に激突する。
「あだっ!?」
「あ、あかねさん!?大丈夫ですか!!」
「おう……意外に柔らかいんだなこれ……石?いや、人形かな」
「石でも人形でもない」
何処かから、男の声が聞こえてきた。あかねは美冬の方を見るが、彼女は勢いよく首を横に何度も振った。だとすると……
「せめてもう少し優しく持て。潰すように持つな」
「な、え、な……」
「シャベッターーーーー!?」
美冬の叫び声があかねの部屋に響く。その声を聞いた人形(?)は鬱陶しそうに目を細めたのであった。
◇◇◇◇◇
「……で、貴方は……?」
なぜか正座をしながら、あかねと美冬は目の前にある球体に話しかける。よく見ると、それには黒い点のようなものと顔文字とかでよく使われる口があるのに気づいた。
「人に名前を聞くときは、自分から言うのが筋じゃないか?」
なんでこんなに高圧的なのだろうか。そんなことを思ってちらりとあかねは美冬を見る。彼女も同じことを考えていたらしく、困ったような顔をしていた。
「えっと……あたしは、西園寺あかねっていいます。んで、こっちが——」
「ボクは、小峠美冬です」
「ふむぅ……成る程な。俺の名前は……まぁ、天使くんとでも呼んでくれ」
そう言って天使くんと名乗ったそれは、ふわりと浮かんだ。羽はないのかとあかねは思いながらそれを見ていたが、その視線に気づいたのか、天使くんは羽をパサリとはやした。
おー。と、感嘆の声を漏らすと天使くんは部屋の中をパタパタと飛び回る。しばらく飛んだ後、彼(?)は思い出したかのように、美冬の目の前で止まる。
「えっと、美冬。だよな」
「えぇ……はい。なんでしょうか、天使くんさん」
「……単刀直入に言う。美冬……魔法少女にならないか?」
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