体育祭(前半戦)
《宣誓!!僕達・私達は》
白の服に青色のズボンを履いた全校生徒700人が選手宣誓している各団団長を見つめる。
《スポーツマンシップにのっとり》
空は雲一つない快晴。
夏の暑さも少なくなってきた九月中旬。
《正々堂々と戦うことを誓います!!》
京峰高校の体育祭が開催された。
その後の校長先生の話を聞き、準備体操をするために手を広げて広がる。
気合を入れて袖を捲っている人や、やる気なさそうに欠伸をしている人など体育祭に対する態度は人それぞれだ。
「博人」
俺もどちらかと言うとやる気がある方ではないが、今回は頑張らなくてはならない。
なぜなら……。
「こっちをずっと見てるわよ」
「……そうだな。羨ましそうに恨めしそうにな」
そう言いながら遠くの方でのビニールシートに一人不貞腐れながら座っている俺達の幼馴染を見つめる。
「楽しみにしていたものね」
「だからってどうこうなる話じゃないからなあ」
「そうよね……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「私も体育祭出たい~!!」
時々出る胡桃の駄々こねを俺と維織で抑える。
「馬鹿なこと言うな。普段の体育だって見学してるのに体育祭なんて出来る訳ないだろ」
「大丈夫だもん。できるもん」
「駄目よ。そもそもお医者さんに止められているのだから議論の余地もないわ」
胡桃は駄々はこねるがそのうち大人しくなるのでゆっくりと諭す。
「走ったりしても大丈夫だよ。何もないよ」
「駄目だ。学校にもそういう風に言ってるんだから無理だよ」
「む~!!」
「む~って言っても無理なもんは無理だ」
頭をポンポンと撫でる。
「応援しててくれよ。胡桃に応援してもらえれば俺達も頑張れるからさ」
「そうよ。胡桃に応援してもらえるのが一番嬉しいわ」
そう言ってなだめると胡桃は小さく頷く。
「……分かった。その代わり二人共頑張ってね」
「ああ。頑張るよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ああ言ったからには頑張らないとなあ」
「そうね」
しっかりと準備体操をすまし、全員自分達のブルーシートの場所に移動する。
各団は学年ごとに3クラスごとで構成されており、順番にビニールシートに座っていく。
俺達のクラスと胡桃のクラスは同じ赤組だったので、三人で固まって座る。
「準備体操の時、こっち見過ぎだよ」
「だって暇なんだもん」
「まあ確かにそうよね。気持ちは分かるわ」
プログラムを取り出し見ていると胡桃も覗き込んでくる。
「ひーくんといーちゃんはどの競技出るんだっけ?」
「え~と、俺は100m走と二人三脚、借り物競争だな」
「私は50m走と二人三脚よ」
「いーちゃんは二種目だけなの?」
「別に私から言い出した訳じゃないわ。競技は全部くじで決めたから」
「そうなの?」
「ああ、中々決まらなかったから先生がくじにしようって言い出してな。二つの人と三つの人がいるんだよ」
俺は何でもよかったのでくじでさっさと決まるのはどちらかと言えばありがたかった。
競技が三つになってしまったのは残念だったが。
「二人共二人三脚するんだね」
「維織とはペアだからな」
「そうなの?」
「ええ。博人以外にやりたい人がいなかったら」
「別にペアは同じ組なら誰とでも組んでいいらしいから」
話しているとアナウンスがかかり、50m走の競技者たちは指定された集合場所に集まる。
「じゃあ行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
競技者達が集まり、始まる。
「みんな速いなあ」
「運動部の人はみんな鍛えてるからな」
「私も一度でいいから思いっ切り走ってみたいなあ」
ボソッと胡桃が呟く。
「ん~。少し難しいな」
「みんなが当たり前にできることができないなんておかしいよね」
「おかしいというかはしょうがないからな。わざわざ自分の身を危険にさらす必要なんてないんだよ」
「うん……」
やりたいと思うこともすべて病気のせいでできなくなる。
昔からずっとだが慣れはしてもその状況に納得できる訳じゃない。
それを背負って胡桃は一生、生きていかなくてはいけないのだ。
「もう維織の番だ。応援しよう」
「うん。私ができることをやらなきゃね」
胡桃はスタートした維織に懸命の声援を送る。
俺もそれを見ながら同じように応援する。
結果は五人中四位という微妙な結果だった。
「お疲れ様」
「お疲れさん」
「全然駄目ね。普段から何もしていないから……」
「俺もそうなるよ」
100m走の集合がかかる。
「じゃあ行ってくる」
「頑張って!!」
「頑張りなさい」
手を振って集合場所に向かう。
場所を探していると外部の人が座る応援席から声を掛けられる。
「博人君」
「祐子さん。来てたんですね」
「今日は休みでね。来てみたんだ。今から走るの?」
「そうです」
「頑張ってね!!」
「ありがとうございます」
順番が回ってきてスタートラインに立つ。
向こうから胡桃の声援が聞こえてくる。
『結構恥ずかしいな』
そう思いながら頬を掻く。
『これだけ応援されてるんだから頑張らなくちゃな』
軽く袖を捲り、スタートの合図と同時に力強く踏み出した。
・
・
・
「はあ、はあ、はあ……。勝てねえ」
「あなたも運動しなさいよ」
「だな。体力が全然なくなってるよ」
見事に惨敗し座り込む。
「ひーくん速かったけど」
「サッカー部には勝てないな……」
その後、どんどん進行していき俺達の二つ目の競技二人三脚の集合がかかる。
胡桃に手を振って集合場所に向かう。
「じゃあ行くか」
「やるからには勝つわよ」
「体力のない俺達でいけるかな?」
「二人でやればいけるわよ」
維織は俺と自分の足をひもでしっかり結ぶ。
「いける?」
「おう。いち、に、いち、に……」
維織と肩を組む。
こちらをチラッと見てきたが維織も肩を組んでくる。
その状態で少し周りを歩いてみる。
「大丈夫そうだな」
「よし。頑張りましょう」
「そうだな」
スタート地点に向かう。
「位置について……よ~いスタート!!」
パンッ!!
「いち、に、いち、に……」
こけないように慎重に走る。
維織も少し息が上がっているようだがなんとかついてきているようだ。
『このままいけば一位いける……』
「うわっ!!」
急に体勢が前のめりになり地面に衝突する。
「痛~」
「っつ……」
《赤組転倒してしまいました!!》
実況をしているやつの声がグラウンドに響く。
「う、うるせえな……。維織大丈夫か」
「だ、大丈夫よ」
「嘘つくな。膝から血出てるじゃないか。歩けるか?」
「……分からないわ」
二人の足を結んでいたひもをほどき、抱え上げる。
「ちょ!!博人、どこ行くのよ!!」
「怪我の治療。二人三脚は途中棄権だ」
《おおっと。転倒した二人はコースを外れていきます!!棄権でしょうか!!》
「なんでいちいちうるさいんだ……」
「と、とにかく行くなら早く行って頂戴!!」
「急かすなって。疲れてるんだからそんな早く走れないよ」
「は、恥ずかしいのよ!!」
顔を真っ赤にして俯く。
そりゃそうだ。
男子に抱えられているところを色んな人に注目されているんだから。
俺も意識するとちょっと恥ずかしくなってきたので出来る限り急ぐ。
保健室に連れて行き、とりあえず俺だけ戻る。
「いーちゃん大丈夫だった?」
「ああ。膝擦りむいただけだよ」
「ひーくんは?」
「俺?大丈夫、大丈夫」
《これをもって体育祭、前半の部を終了します。この後昼食の時間になりますので自分の教室に帰り食事をとってください》
「もうそんな時間か」
「早いね。あっ、いーちゃんだ」
維織が少し足を気にしながら歩いてくる。
「いーちゃん大丈夫?」
「ええ。どうってことないわ。それにもう後半は何も出ないし」
「もう昼食の時間なんだって」
「そうなの?じゃあお弁当持ってきたから。取りに行きましょう」
「うん!!あっ、祐子さんだ!!」
元気が有り余っている胡桃は見つけた祐子さんのところまで歩いていく。
「ごめんなさい……」
「えっ?」
「足元を変に気にしすぎてつまずいてしまって」
「良いんだよそんなこと。それよりお腹減ったな。今日のお弁当の中身はなんだ?」
維織は小さく微笑む。
「色々よ。でも博人が好きなものを多めに入れてみたわ」
「それは楽しみだな」
戻ってきた胡桃と教室に向かう。
昼休みの後に体育祭の後半戦が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます