夏といえば
「よう」
「こんにちは」
「ひーくん、いーちゃん。いらっしゃい」
期末テストも終わり夏休みに入ってしばらくが経った。
夏期講習があって学校に行ったりはしているが夏休みに入っても変わらずほぼ毎日、維織と一緒に胡桃の病室を訪れている。
「勉強捗ってるか?」
「うん、頑張ってるよ」
胡桃が眼を覚ましてからもう二ヶ月が経ち、身体の状態もリハビリのお陰で元の状態に戻りつつあるようだ。
編入試験の勉強も順調に進み、学校復帰に向けて頑張っている。
「二人はお家では何してるの?」
「俺は夏休みの宿題かな。休みの終わりにまとめてやろうと思ってたのに維織が早く終わらせとけって言ってきてな・・・」
「当たり前でしょ。昔からそう言ってぎりぎりになって適当に済まそうとするじゃない」
「そ、そんなことはないと思うけど・・・」
何回も維織から言われたお陰で宿題ももう少しで終わる。
「いーちゃんはお話ししに学校に行ってるんでしょ?」
「ええ。先生と話し合って学校を辞めた後について話してるのよ」
「話し合いの調子はどうなんだ?」
「担任の先生と学年主任の先生と話し合ってやっと納得してもらえたから。あとは退学届を提出するだけよ」
「よくあんな理由でよく納得させられたな」
「これくらい朝飯前よ」
維織の得意げな顔を呆れながら見る。
維織の説得に学年主任や校長まで参加したらしいが止めることはできなかったらしい。
『学年トップがいなくなるなんて学校も可哀そうだな・・・』
考えている間に二人の会話は進んでいる。
「でも、毎日勉強ばっかりだから疲れてきちゃって。外に出たのいーちゃんに会いに行った時だけだし。・・・どっか行きたいな」
「確かにそうね。どこか行きたい場所はあるの?」
「海!!」
「行っても泳げないだろ。それに絵を描いたりして気分転換はしてるじゃないか。試験まであと少しなんだから今は勉強に集中しとけ」
すると胡桃はむくれて言う。
「してるよ!!それに絵は夢中になっちゃうから最近は抑えるようにしてるもん。だから何か他の気分転換しないと頭爆発しそう」
胡桃は唸りながら髪をくしゃくしゃにする。
そこまで言われると無視するわけにもできないので祐子さんに聞きに行く。
「というわけなんですけど」
「う~ん。まあリハビリも順調に進んでるし、確かにずっと病院に籠っているのはストレスたまるだろうからね。あんまり遠くには行っちゃ駄目だけど近くならいいよ」
「・・・分かりました。ありがとうございます。相談してみます」
病室に戻り二人に話す。
「やった!!どこ行く?」
「あんまり疲れない所がいいだろ。買い物とかはどうだ?」
「え~!!せっかくだから夏っぽいことしようよ」
『夏っぽいってなんだよ』
「夏っぽいことと言えば、、、海、山、お祭り、、、くらいかしら」
「少ないな・・・」
「う、うるさいわね」
「とにかく山なんて体力使うところは駄目だし、海なんて行っても誰も泳げないじゃないか。祭りは、、、この辺りで祭りやってるところなんてあるか?」
「そうね・・・。ああ、確かそろそろ桐谷神社でお祭りがあるんじゃなかったかしら」
桐谷神社はこの辺りでは有名な神社で俺達も昔は祭りや元旦の初詣に行っていた。
「桐谷神社のお祭りって昔みんなで行ったところだよね。またみんなで行こうよ!!」
「ああ、あそこか。あそこなら近いし大丈夫かな。あの祭りっていつから始まるんだっけ」
「・・・確か今週からじゃなかったかしら。もう何年も行っていないからあまり正確には覚えていないけど」
「俺もまったく覚えてないな。でもそれなら今週は人が多いだろうからとりあえずその祭りは来週にでも行こうか。だからそれまで勉強頑張れ」
「分かった。約束だよ?」
そう言って胡桃は小指を俺に向けてくる。
「はいはい。約束だ」
俺は胡桃の小指に自分の小指を絡ませ、軽く振る。
「じゃあ頑張れ。俺も宿題頑張るからさ」
「うん!!」
その後は胡桃の質問に答えたり少し雑談をしてから病室を出る。
すると廊下を歩いてきた祐子さんと鉢合わせる。
「帰るの?どこ行くか決まった?」
「はい。桐谷神社のお祭りに行くことにしました」
「ああ、あそこのお祭りね。私も昔は薫ちゃんと一緒に行ったな~。最近は私も薫ちゃんも忙しいから全然行ってないけど」
「俺達も全然行ってませんよ。前行ったのは確か・・・」
「中二の時じゃないかしら。次の年は・・・」
そこで維織が黙り込む。
祭りには胡桃が事故に遭った年から行っていない。
「そう思うと行ったの結構前だな」
空気を察してわざと明るい声で言う。
「・・・ええ、そうね」
「維織ちゃんは浴衣とか持ってないの?せっかくだから着て行ったらいいじゃない」
「そういえば昔は着てたな。中二の時は着てなかったけど」
「もう入らないわよ。小さい頃に買ったものだから小さいわ」
「確かに身長も伸びてるもんな」
「お祭りにはいつ行くの?」
「来週です。今週から始まるっぽいんですけど初日は人が多そうですから止めとこうってことになって」
「そうなんだ。胡桃ちゃんも楽しみだろうね」
「そうですね。凄く喜んでました。じゃあまた明日来ます」
「二人共気を付けて帰ってね」
「はい、それじゃあまた」
「祐子さん、さようなら」
「またね~」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
二人を見送った後、受付に戻り仕事の続きをする前に薫ちゃんにメールを送る。
さっきの会話でとあることを思い出したので薫ちゃんにも協力を頼んだのだ。
「久しぶりの三人でのお祭りなんだからこのくらいしてあげなくちゃね」
そう言いながら微笑む。
しばらくして薫ちゃんから一言「了解」と返信が来た。
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