ひとくちディストピア
@pokkero
#1 困った時の破滅スイッチ
stsp[7, 23]
私の仕事はディストピアを作ることだ。
より厳密に言えば、ディストピアのデザインで、実際にそのような社会を作るわけではない。
どのような条件でディストピアが成立し、あるいはどのような条件でディストピアが成立しないのかを検討する。
さまざまな人々、さまざまな環境が与えられた時、どのような社会を設計すればディストピアとなり得るのか。
そういったことを平日の日中はずっと考えている。
stsp[31, 2]
ディストピアカフェ。
最近流行している形態のカフェで、ディストピア気分が味わえるという。
金属製のテーブルや壁面が硬質な印象を与え、座席は等間隔に並ぶ。
注文は手元の端末で行われる。
各座席に取り付けられたディスプレイには、客が入店してからこれまでに注文したものの糖分やカフェインの量が数値および図で表示される。
注文品を運んでくる店員はなぜか白い防護服に身を包み、無言で座席に置く。
決してリラックスできる雰囲気ではないが、徹底してそのような空間を作っていることがこのカフェの売りである。
「ところでさ、ディストピアってどういう状況を指すんだろう」
テーブルを挟んで向かい合った少女の片方が話し始める。
「管理社会のことじゃない?」
もう片方の少女が返答する。
「それなら、今の社会も十分ディストピアと呼べるんじゃないかしら。少なくとも都市部では、個人IDが記録された電子身分証が無いとろくに店にも入れないし。かつて都市を特徴づけていた匿名性は皆無。同様に、個人IDに紐づいた電子通貨の使用によって貨幣の匿名性も消失している」
「でも、それと引き換えにしてありあまる利便性を私たちは享受しているわけじゃない」
「それもそうね。じゃあ、そのような社会システムから得られる利便性の量に正の値を、そのために受け容れなければならない抑圧の量に負の値を振るとどうかしら。足して正になるか負になるかは人それぞれだけれど、全人口の総和が正ならディストピアとはいわず、負ならディストピアであるというのはどう?この線でいくと、ここに来ている人はこのカフェを楽しんでいるわけだから、ここはディストピアでないということ」
「うーん、それはちょっとシンプルに過ぎるかなぁ。例えば、ごく一部の人が膨大な利便性を得ていて、その他大勢は利便性なしにほんの少しだけ抑圧されている場合は?人々は表面的には小さな抑圧を我慢しているだけなんだけど、それに釣り合う利便性をほとんど享受できていないの」
「なるほどねぇ。人数による補正をかける、というのもなぁ……。何か良いモデルが作れたら、部分を色々といじってみて様々なディストピアが観察できるんだけど」
やがて彼女たちのテーブルに合成コーヒーが運ばれてくる。
ブラックで飲んだ合成コーヒーの味は少しだけ苦かった。
彼女たちの世代で、いわゆる天然のコーヒーを口にした者はほとんどいないだろう。
かつてコーヒーは原料となるコーヒー豆から作られていた。
しかし、コーヒー豆の生産者は立場が弱く、コーヒーから得られる利益を考えると十分でない価格でコーヒー豆は買い叩かれた。
それは不公正な取引とされ、社会的に問題視されていたが、ある技術がそれを解消した。
コーヒー豆から作られる飲料を安価に合成することができるようになったのだ。
合成コーヒーは瞬く間に広まり、それまでコーヒーと呼ばれた飲料を駆逐した。今では天然のコーヒーはかつての10倍くらいの値段を出さないと飲めなくなった。
コーヒー生産者の大量失業という形で、不公正な取引は無くなった。
職を失った人々が住んでいる地域はさらに貧しくなり、治安が悪化したが、合成コーヒーを嗜む社会の人々はコーヒー豆産地の顛末にまでは関心を向けなかった。
彼ら彼女らはひとつ不公正が無くなったことで安心し、満足感を得た。
決して彼ら彼女らが冷酷なのではない。
人が向けることができる関心の容量には制約があるというだけの話だ。
stsp[null, null]
物語のない物語は可能か。
より正確に言うのなら、物語性の無い物語は可能か。
仮に『物語性』が『物語を物語たらしめる性質』を指し示しているなら、物語性が無いということは物語を物語たらしめる性質が無いということであり、そうである以上それは物語ではない。
すなわち、物語ではない物語は可能であるか、という問いになる。
AでないAが存在するか、という問いは前提の時点で検討が完了している。
stsp[7, 23]
平素は大変お世話になっております。
今回ご提案いたしますディストピアの簡単なスケッチを作成いたしました。
ご査収のほどよろしくお願いいたします。
link stsp[31, 2]
stsp[-1, -1]
<物語性判定メソッド>
stsp[2147483647, 2147483647]
<困ったときの破滅スイッチ>
stsp[17, 53]
read stsp[7, 23], [31, 2]
「いやはや、わけがわからないですよ。やはり人工知性体に物語を創るのは難しいのでは」
モニタを覗き込んだ男が発話する。それに応えて、女が冷たく言い返す。
「これは膨大な試行のうちのひとつに過ぎません。人間だって、物語が創れるとは限らないでしょう。物語が人間のものなどと、思い上がらないことです」
抑揚のない物言いに男はたじろぐ。深く呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、次に何を言ったものか思案する。
「そうは言いましても、にわかには承服しかねます。次を読ませてください」
「そのように」
x = function #y ( result stsp[7, 23 ] )
y = function #x ( result stsp[31, 2] )
create stsp[x, y]
stsp[0, 0]
call stsp[-1, -1] ( read stsp[7, 23], [17, 53], [31, 2] )
生成された物語より物語性が確認されませんでした。
call stsp[2147483647, 2147483647]
stsp[null, null]
かつて物語があった。
現在、物語性は膨大な変数からなる式で定義され、人間が適当な解釈を与えることはできない。
そもそも、式を解釈するという行為自体が人為的なものだ。
かつて解釈され、物語性と呼ばれていたものは局所的な解に過ぎない。
今、人間とは異なる知性体によって物語性そのものへの挑戦がなされている。
そこで得られた性質によって生み出される物語が、人類がかつて物語と呼んでいたものと一致するかどうかは現時点においては不明である。
call stsp[-1, -1] ( read stsp[-1, -1] )
ぬ゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛
call stsp[-1, -1] ( read stsp[2147483647, 2147483647] )
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