2ページ

 こんな天気の中で、マリオ君は満面の笑みで街行く人々にビラを配っていた。少しも汚れのない微笑みで。

 小さな小さな劇団、スタジオトライトットは年に四回ほど小劇場で公演をする。御世辞にも大人気劇団とは言えない客入りだが、俺個人の感想としては、面白い舞台をする劇団、だ。

 脚本は完全オリジナルで予想のつかない展開が面白いし、弱小劇団だからなのかそれとも狙ってなのか分からないが、舞台装置はシンプルなものが多く、それらは一つで何役もこなすものばかりだ。さっきまでただのテーブルだったのに、檻になったり壁になったりイスになったり。やかん、皿、花瓶、傘、ぬいぐるみ、本。何だっていろんなものに変化させる。

 見る度に驚かされる、そんな舞台をみせてくれる劇団が、俺は好きだ。

 それが大多数の人に支持されないものだとしても。

『僕達の舞台は良い舞台のはずなのに、どうして評価されないんでしょう』

 その時の舞台はSFものだった。マリオ君は火星人の役で、触角を付けていてもイケメンだったのを良く覚えている。その時の舞台の評価はボロボロだったそうだ。

『すごくすごく面白いのに』

 はらはらと流す涙に、俺はハンカチを渡すことしか出来なかった。

『すごく面白かったですよ』

 慰めでも何でもなく、零れたのは本当に率直な感想だった。

『次の舞台も楽しみにしていますね』

 マリオ君は目の周りを真っ赤にして強く頷いた。

『はい』


 人に評価されなくても、自分が楽しければいいじゃないか、なんて簡単に言えることじゃない。心ではそう思っていても、人に評価されなければ舞台は続けられないのだから。  

それでも、マリオ君は素敵な舞台を劇団の皆と作り続けている。いつか、評価されるべき素晴らしい未来へ向かって。

「お」

 厚い雲の隙間から一筋の光が差した。神々しい天使の階段だ。

 どうか劇団に、マリオ君に一筋の光が差さんことを願って。そして人気劇団となってもチケットが取れんことも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る