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こんな天気の中で、マリオ君は満面の笑みで街行く人々にビラを配っていた。少しも汚れのない微笑みで。
小さな小さな劇団、スタジオトライトットは年に四回ほど小劇場で公演をする。御世辞にも大人気劇団とは言えない客入りだが、俺個人の感想としては、面白い舞台をする劇団、だ。
脚本は完全オリジナルで予想のつかない展開が面白いし、弱小劇団だからなのかそれとも狙ってなのか分からないが、舞台装置はシンプルなものが多く、それらは一つで何役もこなすものばかりだ。さっきまでただのテーブルだったのに、檻になったり壁になったりイスになったり。やかん、皿、花瓶、傘、ぬいぐるみ、本。何だっていろんなものに変化させる。
見る度に驚かされる、そんな舞台をみせてくれる劇団が、俺は好きだ。
それが大多数の人に支持されないものだとしても。
『僕達の舞台は良い舞台のはずなのに、どうして評価されないんでしょう』
その時の舞台はSFものだった。マリオ君は火星人の役で、触角を付けていてもイケメンだったのを良く覚えている。その時の舞台の評価はボロボロだったそうだ。
『すごくすごく面白いのに』
はらはらと流す涙に、俺はハンカチを渡すことしか出来なかった。
『すごく面白かったですよ』
慰めでも何でもなく、零れたのは本当に率直な感想だった。
『次の舞台も楽しみにしていますね』
マリオ君は目の周りを真っ赤にして強く頷いた。
『はい』
人に評価されなくても、自分が楽しければいいじゃないか、なんて簡単に言えることじゃない。心ではそう思っていても、人に評価されなければ舞台は続けられないのだから。
それでも、マリオ君は素敵な舞台を劇団の皆と作り続けている。いつか、評価されるべき素晴らしい未来へ向かって。
「お」
厚い雲の隙間から一筋の光が差した。神々しい天使の階段だ。
どうか劇団に、マリオ君に一筋の光が差さんことを願って。そして人気劇団となってもチケットが取れんことも。
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