光芒
カゲトモ
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雨が去ると次に襲い掛かって来たのは強風だ。空はカラッと晴れることもせず、どんよりと厚い。
「あ、マスター!」
出勤途中に誰かに呼び止められた。振り向くと同時にブワッと風で髪が掻き上げられた。
「お久しぶりです」
「あぁマリオ君。お久しぶりです」
深々と頭を下げてくれたのは長身のイケメン、マリオ君だ。
「最近お店に顔を出せていなくてすみません」
「とんでもない。お忙しくされているんですね」
「へへ」
照れくさそうに肩を上げるマリオ君は身長に似合わず、可愛らしい顔つきだ。睫が長く、少し垂れ目の瞳も大きい。性格は穏やかで透き通った声をしていて、バイトの斉藤君とはタイプの違うイケメンだ。
「実は稽古が忙しくて」
忙しいと言う割にはその顔は楽しそうだ。
「もうすぐ舞台があるんですか?」
「はい。今週末から二週間、四丁目の小劇場で」
そう言う彼は舞台俳優だ。
「今度はマリオ君が主役ですか?」
「え、ふふ、まさかそんな。僕はまだまだですよ」
でも名前のある役です、とマリオ君は続ける。
「今回はちょっといつもと違う役柄なので、稽古に沢山時間を割いていて、マスターの所に飲みに行けないんです」
「そうでしたか。それは楽しみですね」
「え?」
「一枚頂けますか?」
右手を差し出すと、マリオ君の顔がパァっと輝いた。もう本当に漫画みたいに。俳優さんだけにオーバーリアクションなのかもしれないけど、悪い気はしないのでいい。
「また見に来て下さるんですか!?」
「もちろんですとも。マリオ君の劇団はいつも面白い作品を観させて下さいますし。次も楽しみです」
「わぁ~ありがとうございます」
マリオ君から水曜午後六時からのチケットを受け取ってその場を後にした。
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