第1部 第11話「朝食」
1
翌朝。
「はあ……。」
食事の為に設けられた部屋に着いて早々、ため息を吐きながら気分が落ち込んだ様子を見せる勇一。
あんな夢を見たのだ。
気分が落ち込んでしまうのも当たり前だが。
そんな勇一の様子を見て疑問に思った希里花は、勇一に向けて問いかけた。
「加賀谷くん、どうしたの?」
そんな問いかけに勇一は己の疲れた心身を気遣いつつも語り始める。
「いや、ちょっと嫌な夢見てさ、希里花さんが出てきてさ。それで……。」
答えようとした勇一はふと言葉を止め、考えた。
もしここで「希里花が虐められていた夢」だと答えたら、彼女自身があの日々を思い出して、傷ついてしまうのではないかと。
だがしかし、ここまで説明してしまった以上、どう答えたら良いのだろうか。
考え込む勇一に眉を細めながら、少し残念そうに希里花は問いかける。
「ちょっと待った。つまりその嫌な事は私って事かな?」
的はずれである。
だがその質問は、話題を変えるのには十分だ。
「違うよ!むしろ逆だし……」
否定すると同時に告白のような言葉を紡いでしまった勇一はそのことに気付くと、急いで手で口を塞いだ。
「そう。……最後何か言った?」
生憎最初の方の返答しか聞き取れていなかったらしく、彼女は目を丸くして勇一に再度確認をしてきた。
「な、なんでもないよ……」
勇一は戸惑いつつもそう返答した。
勇一としては今の返答、割とそっけなく返したつもりだったが、どうだろうか……なんとなく、見抜かれている気がしてならない。
安心したのも束の間。
「 ……そういえば、その夢って、どんな夢だったの?」
……答えがたい質問である。
この場合は、どう返答するべきかと思い悩む勇一。
本当のことを言えば、彼女がフラッシュバックを起こしてしまう可能性はある。
だが、ここまで言ってしまったからには言うしかないのだろうか?
「……加賀谷くん?」
希里花が勇一の肩を叩き、彼のステータス画面が表に出る。
どのような言い訳をするべきか、すっかり考え込む勇一。
希里花はそんな勇一の様子に気が付くと、少しだけ諦めた表情で再び、優しく問い掛けた。
「ごめん加賀谷くん……聞かないほうが良かった?」
*******
それから一時間ほどが経ち、寝坊したイリシアが眠目を擦りながら大きな
「うっわあー! 美味しそ~う!」
食事の部屋に入り、美味しそうな料理が机いっぱいに置かれていることに気が付くと、先程の眠そうな表情とは打って変わって、興奮した様子で料理に目を光らせ始めた。
「この料理って、何ですか?」
希里花が聞くと、宿屋の女将が満を持した様子で言った。
「当宿屋自慢の、
ピラニアはともかく……塩スライム。
収穫時のことや、どのようなスライムなのかが気にならないでもないが、問題は味である。
思いながら、勇一は塩スライムのかかった
塩スライム……と見られる液体は黄緑の蛍光色だった。
……モンスターの味しそうなんだが。
そう思いながらも、勇一は
「……!? なんだこれ! めっちゃうまい!」
意外にも味は良かった。
そんな事実に、勇一と希里花が安心した次の瞬間。
ブスッ。
「痛っだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「加賀谷くん!? どうしよう。宿屋の人を呼ばなきゃ!」
……歯くらい、安全のために取っておいてくれよ。
*******
「この度は本当に申し訳ありませんでした!」
廊下まで響き渡る、従業員たち全力の謝罪の言葉。
怪我をした勇一が口元に絆創膏を貼りながら、宿の従業員たちに顔を向ける。
「 今回の私共の不手際に付きましては、こちらから何かお詫びをさせて頂きます!」
「いや、良いですよ。もう治癒もしてもらったし。」
……お詫びよりも今後こういうことが起こらないようにしてくれ。
思いながら勇一は答えた。
「そうですか。ありがとうございます。では、今後この宿を利用するときは無償でというのは……。」
「……ああもう。それでいいですよ!いいから手を離して下さい!」
「これまたご迷惑をおかけしました!何かお詫びを!」
「だから、もう良いですってば~~~っ!」
とんでもなくしつこい詫びの押し付けに勇一は呆れ果てた。
……
今の一瞬で吹き飛んだ疲れがまた戻ってきた気がする……。
ともあれ。
「それじゃ、そろそろクエストに行くか。」
このままここで無駄な時間を浪費しているわけにもいかない。
希里花のこともある。
出来るだけ早めに進んだほうがいいだろう。
「そうね。」
相槌を打つ希里花。
そして勇一達は、出口へと向かった。
チェックアウト時。
「お客様。」
会計の従業員が勇一を呼ぶ。
「はい?」
勇一が答えると、従業員は胸ポケットから徐ろにカードを取り出し、勇一へ向け差し出す。
「こちら、無償で利用する際のカードです。先程は申し訳ありませんでした……。」
今日こんな風に頭を下げてくる光景を見たのは何回目だろう。
現実世界でも、朝からこんな光景などそうそう見ないのではないだろうか。
「あ、いえいえ。別に良いんですよ。……これからも、この宿屋を利用させて頂きますね。」
「ありがとうございます……!良い1日を。」
とまあ、一連のやり取りが終わった後。
勇一がドアを開け、外に出ようとした――
――その時。
扉の向こうから前髪の長い少女が勢いよく走ってぶつかって来て、お互いに後ろに倒れた。
「グハッ! イタタ……。」
彼女が「どこの漫画だよ」と思いそうな声を上げるとともに、またその言葉に続ける。
「すみません……。」
そして彼女は、勇一へ頭を下げると、顔を上げて言った。
「――ってあれ?加賀谷くん?!」
「――え?」
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