第1部 第8話「宿屋での出来事」【改稿済、再稿可能性あり】


「こちらが今回のクエストから国民所得税を引いた分の報酬です。」

 この世界に転移してきた時とは違うギルドの職員にそう言われ、袋を手渡される。

 『国民所得税を引いた分』という部分にツッコミを入れたいところでもあったが、勇一はこの世界でも当たり前のことなのだと見切りをつけて、渡された袋を開く。

 そこに入っていた金額はなんと8万クロム。

(たったあれだけで約8万クロム? ……なんか怖いわ)

 ……何か裏があるのでは?

 思わず、そう疑ってしまう勇一。

 そんなことを考えていると、ギルド職員が質問してきた。

「あ、そうだ、今回のクエスト、ガルディア討伐ですよね?」

「え? あ、ああ。そうだが?」

 話が終わったかと思いきや、終わっていなかったようだ。

 予想だにしなかった話の続き方に勇一は驚きのあまり、おかしな語尾を付けてしまった。

 だが、そんな勇一の口調にギルドの職員は一笑も返すことはなく、再び話を続けた。

「こちら、ガルディア討伐ついでに雑魚モンスターも倒してくれたということで」

 彼女はこれまた大きな袋を勇一に手渡すと、続けた。

「こちら国王からの礼金(から修理費などを抜いた費用)だそうです。」

 早速手渡された袋の中身に興味を示し、開けた勇一はその中身を見るや否や驚いた。

 なんと袋の中に入っていたのは10万クロム程の金貨。

 8万+10万。

 つまり合計で18万クロムはもらった計算になる。

「い、良いんですか? こんなに貰って。」

 あまりの金額の多さに、なにか裏があるのではないかと疑ってしまう勇一。

「いいんですよ。一応礼金ですし。」

 しかし淡々とした彼女の返しに、“裏”の片鱗などといったものは一切感じられず。

 勇一は急な収入に怯えつつ、その袋を渋々と受け取るのだった。



*******




「あ! 来た来た。加賀谷くん。8万クロム貰った?」

 ギルドから出てきた勇一を見つけ、希里花がそう彼に問いかける。

 そんな彼女の問いかけに、勇一は懐から袋を取り出して答える。

「いや、プラス国王から礼金も貰った。」

「ええっ!?」

 驚いて声を上げた希里花に続き、イリシアが勇一に問いかける。

「合計何クロムですか?」

 続いて、そうイリシアが質問をしてきた。

「えーと、合計18万クロムだ。」

「え!?」

「え!? えええええっ!?」

 希里花さんとイリシアが、驚きの声を上げた。

「本当に!?」

 変わらず驚いた様子で希里花が勇一に再び問いかける。

「本当だよ。」

「つまり、礼金は10万……まあ、あのモンスター達もかなりいたもんね……」

 振り返りながら話す希里花を横目に、勇一は空を見上げる。

 夕焼けに、少しずつ黒みがかって来たのを感じ、勇一は初日の悪辣な睡眠環境を思い出しつつも、己の空腹と疲労に気づいて、彼女たちに話しかける。

「……まあ、今日は暗くなってきたし、宿屋にでも泊まろう。」

「そ、そうだねっ!」

 イリシアが先程の金額の話によるウハウハからか、少し声を上擦らせながらそう答える。

 ……宿に泊まる、とは言ったものの、この世界の地理を知らない勇一は、宿屋の場所が分からない。

「希里花さんって僕より早くこの世界に来てますよね?宿屋の場所って知りませんか?」

 問いかける勇一に希里花は困り顔で答える。

「私ここまで、基本的に野宿だったからあまりわからないのよね……」

 なるほど。

 まあ……やはりわからないなら、通行人などに聞く以外方法は無い、ということだろう。

 そう思った勇一は、暗闇の中を照らす一本の街灯に身を預ける形で格好つけながら(あまり格好ついてはいないが)本を読んでいた老人に聞いた。

「すみません。ちょっとお訪ねしますが、宿屋ってどこに在りますか?」

 老人は勇一に気付くと本を読むのを止めて、その問いかけに答える。

「宿屋? それなら、あそこの角を左に曲がって、真っ直ぐ進んでれば茶店があるはずだから、そこを右に曲がって進んで行けばあるぞ。」

「有り難うございます。希里花さん、イリシア、行きましょう。」

「うん。」

「はい。」

一行はお辞儀をしてその場を後にした。




*******




「すごーい!いい感じの宿屋だー!」

 はしゃぐイリシア。

 正直ボロボロで、そこまでいいようには思えない見た目をしていたが、イリシアはどういう生活をしていたのか分かるくらいに大はしゃぎしていた。

 すると希里花さんが、イリシアに聞こえないように話してきた。

「……なんかボロっちくない?」

「……そうだな。かなりボロっちいな。」

「?」

 ともあれ、辿り着いた宿屋。

 すでに疲れ切っている勇一達は歩く気力など殆どないので、文句は言わずにここに泊まることにした。




*******




「宿泊します。何クロムですか? あ、全員個室でお願いします。」

 宿屋の店員に勇一はそう問いかけた。

「お一人100クロムとなります。なので、300クロム頂戴します。」

「分かりました。……はい。」

 そう言い、僕は300クロムを渡した。

「ありがとうございます。こちらがお部屋の鍵です。」

 そう言って、宿の受付の人は3つ鍵を渡してきた。

「えっと。324、325、326号室の鍵か。じゃあ、僕は324号室で。希里花さんは――」

 そこまで言い掛けると、希里花さんがこう言ってきた。

「わっ、私は326号室で。」

「じゃあ、イリシアが325号室な。」

「はいっ。」

 こうして、僕達が泊まる部屋が決まった。

「あ、お食事の時間になりましたらお呼びしますので、それまで、お部屋でお待ち下さい。」

「はい。」




*******




 そして来たる食事の時間。

「こちらが、今日のご夕食となります。」

 そう言って出てきたのは……!

 なんだこれ。

「今日のメニューは、焼き肉の塩スライムあんかけ、生キャベツとマンドラゴラドレッシングでございます。マンドラゴラは職人の手で毒を綺麗さっぱりに抜いておりますので、どうぞごゆっくり、お食べください。」

 そう言って宿の人は部屋から立ち去って行った。

「マンドラゴラは実際にあるから分かるが、塩スライムってなんだ?」

「名前の通り、しょっぱいスライムですよ。毒はないから、食べてもOKですよ。」

「そうか。」

 そう言い、俺はその、なんとか塩スライムを口に含んだ。


 ……なにこれ。旨い!

 肉の旨みとちょっとずつ染み込んでくる塩の味……。

 まるで天国だ。

 ……まあ、希里花さんが今、僕の横で座っている事がまさに天国なんだけど。


 まあ、そんなこんなで食事も終わり、部屋に戻り、イリシアが眠りについたころ――


「そういえば、希里花さん、何で3日であんなに強くなったんだろう。」

 勇一はそんなことが気になり、希里花の部屋へと向かう。

 何を思ったのか、ノックを忘れて彼女の部屋へと飛び込んだ勇一は、衝撃的な物を見てしまう、

「希里花、さん?」

「加賀谷くん……っ!? 見ないでっ!」

 そこにあったのは角と尻尾が生えた希里花の姿だった。

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