第1部 第7話「初回クエストは大騒ぎ・後編」【改稿済】

 「さあ、クエスト開始よ。」

 希里花が言うと同時に、その場にコインが地面へ衝突したことによる金属音が響き渡り、その音に釣られ、暗闇の空間から足音が聞こえて来た。

「グアアアアア!」

 雑魚モンスターたちの襲来だ。

「ガルルルルルル…」

 続いてガルディアが、地響きの如く咆哮を上げて、地下の暗い空間から顔を出した。

 想像以上に数が多い雑魚モンスターに焦ったイリシアは希里花に対し叫ぶ。

「こんなの無理です!数が多すぎます!」

 希里花はそんなイリシアの言葉に戸惑い、攻撃を続けつつも仕方なく勇一に向けて頼み込む。

「ああ、もう! 予定変更よ! 加賀谷くん! イリシアちゃんをアシストお願い!」

 どうやら希里花も、この数は予想もしていなかったようだ。

「で、でも希里花さん、それじゃあ……!」

 あくまでも勇一はレベル1の冒険者である。

 いくら高ランクの職業に就いていたとて、所詮レベル1はレベル1。

 怯むのも当たり前である。

「大丈夫よ加賀谷くん。私がガルディアを倒しておくし、大変そうだったらあとから手伝うから。」

 言われてすぐ行動できたらどんなにいいものか。

 見かねた希里花が勇一の前へ入り、攻撃を援護し始める。

「ほら! さっさとイリシアちゃんのアシスト!」

 このまま希里花にここを任せるのも気が引ける。

 なるべく彼女に負担を掛けないように、早く雑魚モンスター達を掃討して、戻らねば。

 そう思った勇一は焦りつつも後退しながら言う。

「あ、ああ! 分かった!」

「さあ、ガルディアちゃん。覚悟しなさい!」

 そして希里花は再び、ガルディアに杖を向けた。

黒煙纏いし炎風ダークフレイム・ヴィントストーム!」

 希里花が魔法を放ったのと共に、勇一は剣を振り下ろした。

 すると、剣先から何故か炎風が巻き起こった。

 そしてモンスターが炎に包まれた。

 もちろん勇一は何も対策していなかった。

 が、故に。

「アチチチチチ! 火が! 火が!」

 火が勇一の指に燃え移った。

 焦った勇一は応急処置として、燃える指先を口に入れた。

 火が涎で消えた。

 そうだ、このキャプチャーソードという剣は、周囲の魔法をコピーして、先に向けて拡散する仕様があったのだった。

 そして今度はイリシアも。

「アチチチ! 髪が! 火に髪が! アチチチ! 髪に火が! 誰か!」

 イリシアが慌てすぎて言葉の順序がおかしくなっているのはさておき、戦闘しながら彼女の火をどうやって消せばいいものかと焦る勇一。

「あー! もう! 仕方ないわね!」

 見かねた希里花が、ガルディアの一瞬の隙をついてそんな彼らに向け魔法を放つ。

雨乞いフェウ・レイグン・ビーテンド!」

 すると慌てふためく勇一たちの頭上に、雨が振り始めた。

「ほら! 今の内に剣を……、もう少し遠い所で振って! 刃が当たると危ないから!」

「あ、ああ。」

 勇一が剣を振ると、雲が何故かイリシアに飛んで行き……、

「ビチャビチャビチャビチャッ!」

 という音を立てて、水がイリシアに降り注いで、彼女の髪の火が消えた。

 あまりに落ちたときの圧力が凄かったのか、イリシアは少し顔をしかめていた。



*******



 戦闘が開始してから早10分程度が経過し、雑魚モンスターは、気づけば残り10体ほどに減っていた。

「それにしても、流石小ボス……、『ボス』ってだけあるわね。私がほとんどのマナを使って技を放ったのに、半分しか減ってないわ。」

 もうすぐ終わりとは言ったものの、そろそろパーティーのメンバー全員に疲れも見え始めてきた。


 ――希里花のマナは残り27。魔法のグレードを上げれない状態で、ダークフレイムなんとかは、消費マナ20。

「見たところ、残り一発しか打てないな。」

 希里花のステータスを確認した勇一が最後の雑魚モンスターを斬り捨てながら言う。

「ええ。……希望はないわ。」

「とりあえず、雑魚いなくなったから加勢するわ。それで、いい案があるんだ。」


「何? いい案って?」

「あの、希里花さん、昔から運が良かったですよね? ならこの作戦は行けると思います。」

 勇一は言うと、防戦し続ける希里花に話し始めた。

「まず希里花さんが風の魔法をガルディアに向かって放ちますよね。その後、僕がその風に乗ったら、魔法のダークなんとか」

「ダークフレイム・ヴィントストームだってば。」

「そうそう。その、ダークフレイム・ヴィントストーブとかいうやつに変えるんですよ。そうすれば……。ね? 名案でしょ?」

「え? そんなことしたら、加賀谷くん死んじゃうよ。」

「まあ、たしかにその可能性もあるでしょうが……、まあ大丈夫だと。あ、イリシアは下がってろ。」

「はーい。」


 4


「加賀谷くん、じゃあいくよ。」

 希里花が呼びかけると、勇一は頷く。

 そんな彼の様子を確認すると、彼女は風の魔法を放った。

風起こしカウンセッド・ウィンド!」

 放たれた風に、勇一が飛び乗った。

「よっ、と。今です! 希里花さん!」

「うん! ……黒煙纏いし炎風ダークフレイム・ウィンドストーム!」

 そして勇一はガルディアまで後30センチと迫ったところで、剣を振って、横に翔んだ。

 そして剣のダメージも相まって、傷に炎が当たり、ガルディアは文字で表せないような声を出して、灰と化した。

____________________________________________________________


 ※良い子の皆は建物の中で炎の魔法を使わないでね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る