聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―

愛崎 四葉

第一章 妖刀使いと妖刀の契約

プロローグ 妖を連れ行く旅人

 かつて、聖印一族は、妖の頂点に立つ妖王・天鬼が妖を支配したことによって、激しい戦いを繰り広げていた。

 だが、聖印一族の鳳城柚月と半妖の九十九が、天鬼を討伐し、妖は、彼の支配から解かれる事となり、人々も命を救われた。

 しかし、それ以降、彼らの姿を見たものは、誰一人いない。

 彼らは、行方不明となってしまったのだ。

 死んだのではないかと噂する者達もいた。

 それでも、彼らは、どこかで生きていると信じている者がいた。

 その者の名は、鳳城朧。

 鳳城柚月の弟であり、九十九の親友でもあった。

 天鬼が倒れてから、二年後、朧は、彼らを探しに旅に出た。

 それから、さらに、三年の月日が流れた。



「あの洞窟にいるのか……」


 漆黒の長い髪を頭上で一つにひもで縛った青年が、華押街近くの山にある洞窟にたどり着いた。

 彼こそが、鳳城朧だ。

 五年前は、あんなに低かった彼の背は、急成長と言っても過言ではないほど、伸びており、高くなった。

 おそらく、柚月よりも背は高いだろう。

 幼かった顔つきも、今は、精悍で、鋭い目つきに変わり、印象的だ。

 柚月が、女顔であったのに倒し、朧は、男前の顔と言ったところであろう。

 そんな彼の傍らで、小さな白い虎、赤い鳥、青い海蛇が、朧と共に、洞窟を見ている。

 なんと、彼らは、妖であった。

 朧は、ある人に依頼されて、この洞窟に来ていた。

 その依頼とは、妖が、他の妖達に連れ去られてしまったので、助けてほしいと。

 承諾した朧は、三匹の妖と共に、ここへたどり着いたというわけだ。


「朧!どうしやすか?あっしが脅かしてきやしょうか?」


 勢いよく前に出たのは、あの小さな白い虎の姿をした妖だ。

 その虎の名は、陸丸りくまる

 血の気の盛んな雄の妖である。


「まったく、陸丸は、血の気が盛んじゃのう。つき合ってられんわ」


「なんだとぉ?」


 血の気が盛んな陸丸を見てあきれているのは、あの小さな赤い鳥の姿をした妖だ。

 その鳥の名は、空蘭くうらん

 妖艶な雌の妖である。

 そんな彼女に対して、陸丸は突っかかってくるように、にらんでいた。

 まさに、一触即発の状態だ。


「やめろって、陸丸、空蘭」


 朧が、二人を制止すると、陸丸と空欄は、顔を背け、口をとがらせる。

 一応、仲はいいのだが、こういうやり取りは、日常茶飯事だ。

 毎回、繰り返す二人に対して、朧は、あきれていた。


「それで、朧殿、どうするでござるか?何か、策はあるでござるか?」


 陸丸と空蘭のやり取りを見ても、冷静さを忘れず、朧に語りかけるのは、小さな青い海蛇の姿をした妖。

 その海蛇の名は、海親うみちか

 冷静沈着な雄の妖である。

 海蛇ではあるが、なぜか、空を飛べるようだ。

 海親の質問に対して、朧は、笑みを浮かべた。

 何か、策でもあるかのように。


「そりゃあ、もちろん、あるさ」


「なんですかい?朧!」


 やはり、策はあるようだ。

 さすが、柚月の弟と言ったところであろう。

 陸丸達は、期待を膨らませながら、朧に尋ねる。

 どんな策で、あの洞窟に乗り込もうとしているのか、楽しみで仕方がない。

 だが、朧が、提案した策は、予想外であった。


「このまま、突っ込む!」


「ええ!?」


 朧の策は、いたって単純で豪快。

 いや、策と言えるのであろうか。

 堂々と告げた朧に対して、さすがの陸丸達も驚いた様子だった。


「突撃だ!」


 朧は、威勢よく叫んで、駆けだしていく。

 陸丸達も、そんな朧にあきれつつ、後を追うように駆けだしていった。

 


 そのころ、さらわれた妖は、洞窟の奥で、妖達に取り囲まれている。

 そのさらわれた妖とは、幼い化け狸であった。

 化け狸は、体を震わせ、怯えていた。


「人間とつるみやがって。痛い目、みないとわからないようだな」


「うう……誰か……」


 化け狸は、人間と共に暮らしている。

 いわば、共存しているという事だ。

 だが、化け狸をさらった妖達は、人間と共存している事を快く思っていない。

 そのため、妖をさらっては、痛めつけ、人間から引き離そうと試みたのだ。

 この化け狸も、標的にされてしまったのだろう。

 化け狸は、助けを求めていたが、妖達は、化け狸に迫っていく。

 だが、その時であった。


「そこまでだ!」


 またもや、威勢のいい声が響き渡る。

 もちろん、その声の主は、朧だ。

 朧の声を聞いた妖達は、一斉に振り向く。

 朧は、椿の愛刀である紅椿を鞘から抜いた。

 陸丸達も、構えて、威嚇していた。


「行け!陸丸!空蘭!海親!」


 朧に命じられた陸丸達は、一斉に駆けだしていく。

 陸丸、空欄は、妖達と戦いを始める。

 陸丸は、爪で妖を引き裂き、空蘭は、爪で妖をわしづかみにし、吹き飛ばしていく。

 その戦い方は、実に豪快だ。

 豪快過ぎて、妖達も驚くばかりである。

 そんな中、海親は、化け狸に駆け寄った。


「大丈夫でござるか?」


「う、うん……」


 海親は、化け狸をひそかに安全な場所へと連れていく。

 だが、一匹の妖が、海親と化け狸に迫ろうとしている。

 それを、朧は、見逃さなかった。


「させないぞ!」


 朧は、峰打ちで妖を気絶させる。

 彼は、紅椿を発動させることなく、斬りかかることなく、全て峰打ちで、妖達を気絶させた。

 陸丸、空欄も妖達を気絶させ、最後に一匹の妖だけが残っていた。


「な、なんで、妖が人間なんかと……。それに、こいつ……強い…」


 朧と共に行動する陸丸達を見て、さらに、峰内だけで妖達を気絶させていく朧の強さを感じ取り、信じられないと言わんばかりの様子を見せる妖。

 おそらく、朧が、あの妖達を自分の命令に従わせるようにしたに違いない。

 そう思うと、妖は、朧を恐れ始めた。


「お前、何者だ!」


「俺は、聖印一族、鳳城朧だ」


 妖に問われ、朧は、堂々と名乗った。

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