another war  thunder  

CENTURY

第1話 敵の接近

 20XX年 7月 日本 福岡県

 早朝の涼しさはとっくに消え、うだるような暑さに、夏の到来を感じる。

 蜃気楼に包まれた第261航空基地の滑走路。その中を、一人の少年が歩いている。

 年は大体18ぐらいだろうか、随分と若く見える。古臭い飛行服に身を包んだ少年は、駐機場で翼を休める機体の前で立ち止まった。

 「こんな暑さの中、野ざらしとはな。整備兵のやつら仕事を増やすだけってことに気づかねえのか」

 そう呟きながら機体の前で敬礼すると、足早に兵舎へと入っていった。

 兵舎の中は見かけによらず、冷房が効いてて涼しかった。少年は一度立ち止まってほぅと息を吐き、真っ直ぐな廊下を再び歩き始める。

 「中島少尉!」

 ふいに名前を呼ばれ、踏み出しかけていた足に帰還命令を出す。

 振り返ると同じぐらいの年の少年が近づいてきていた。

 「よう黒瀬中尉、お疲れさん」

 「お疲れさーん…じゃねえ! 飛行訓練もさぼってどこほっつき歩いてた!」

 「どこって、ずっと敷地内にいたよ。大体日に2度も飛行訓練なんかやってたら燃料がいくらあっても足りねえ。松根油で飛行機飛ばそうなんて事になったら俺は迷わず敵内で自爆するぜ」 

 「航空機は置いて生身で前線突撃でもしてろ。お前の代わりなんて配り歩くほどいるだろうよ。」

 …信じられないだろうがこれが中尉と少尉のやり取りである。これが戦時中だったら大変な事になっているだろう。

 呆れ顔の中尉の前で人を小馬鹿にするように笑うのは、中島 零 この261航空隊の少尉である。幼くして両親を亡くし、頼る親戚もなく、ボロボロになって街をさまよっているときにこの基地にたどり着いた。

 仲間思いの良い奴だが、総司令にも敬語を使わないという礼儀知らずな場面があり、『261のトラブルメーカー』とも呼ばれている。

 ここまで悪態をつきながら基地から放り出されない理由は、後々明らかになる。

 一方で黒瀬中尉と呼ばれる彼は、黒瀬 陽真 彼もまた18歳で親の七光りでこの基地にいる。

 「前線突撃? 上等だ、3,4人道連れにしてやる」

 「そうかい、せいぜい頑張れ。まあお前なんかゴム銃1発で昇天するだろうがな」

 言い合いは結構毒舌だが、2人の顔は笑っていた。彼等はこの基地内で大親友でもあるのだ。

 「ああ、そういや今日は<奴ら>は出てないんだな?」

 さっきまでの茶番から一転、零は真剣な顔つきで聞いた。

 「まあ、今のとこはな。ただ2,3日前から志賀島上空に生命反応が出てるんだ。油断はできねえ」

 「ったく…面倒ったらありゃしねえよ。何が目的なのか教えてほしいぜ」

 「それがわかったら苦労しねぇがな。分かんねえからこの部隊があるんだろ。日本自衛隊は第三次大戦の対処で忙しいみたいだし、そろそろ核戦争もあるんじゃないかって噂だぜ」

 「何も2つ戦争しなくても…。世界大戦で十分だ」

 「いやどちらかと言ったらこっちの方が低規模で済むんじゃね?」

 「まあな、っと忘れてた。これから部屋の片づけでもしようと思ってたんだった。

 黒瀬中尉、整備兵に伝えておいてくれ。機体を野ざらしにするな、ってな」

 そう言い残すと零は宿舎にむかって消えていった。

 「お前が次の訓練に参加したら考えといてやるよ」

 陽真も去っていく零の背中に呼びかけると、踵を返し去っていった。


 宿舎のベッドに寝転がり、空を見上げつぶやく

 「…デコイか。ホントに嫌な奴らだ」

 デコイ。正体不明の機械生命体。どこからか現れては人を殺し、どこかに消えていく。

 国は5年前から調査を開始したが、分かったことは無い。国民の関心も薄れ始めていたが、つい先月対馬近海に現れ、漁船3隻を沈めたことで急遽戦闘隊を結成した。

 しかし自衛隊の戦闘機は、アメリカと北朝鮮の戦争に巻き込まれ貸し出せる機体は一機も無く、政府は頭を抱えていた。そして強行手段をとったのだ。

 窓の外に止まる濃緑の機体。胴体に描かれた日の丸、黒いエンジンカバー…

 


             零式艦上戦闘機 52型


 太平洋戦争初期、圧倒的な性能で連合国軍を恐怖に陥れたが、それも一瞬の事。段々と米軍機に劣るようになり、末期には特攻に使われた。栄光と悲劇の象徴ともいえる。

 数年前、レイテ湾に沈んでいた機体を引き上げ、レストアされて試験飛行を終えていた機体を買い取り対デコイ用兵器としたのだ。それだけではなく、この基地にいる飛行機はみな平均年齢70歳の老兵である。幸いにも今のところ戦闘は生じていない。

 「あんな老兵をまた戦わせようなんて、まさにブラック戦隊だ」

 言い終わる前に、零は眠気の奇襲を受けまどろんでしまった。
















 ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウ!!!

 警戒サイレンで目が覚めた。ガバリと跳ね起きる。

 同時に陽真が駆け込んできた。

 「急げ少尉! デコイが来やがった!宮崎の日向市上空からこっちに北上してる!

 40分もあればここに来るぞ!」

 「分かってるよすぐ行く! 発動機は?」

 「順次始動中だ、行くぞ!」

 「応!」

 廊下を駆け、滑走路に向かう。

 愛機、ゼロ戦は丁度滑走路の方向を向けられていた。

 「発動機はもう回せるか?」整備兵に問う

 「いつでも行けますよ! 急いで確認を!」

 零はエルロン、ラダー、フラップ等飛行のための装置を確認していく。異常はなさそうだ。コックピットに飛び乗り操縦桿やフットバーを動かす、異常なし。

 「前離れ、スイッチオフ、イナーシャ回せッ!」整備兵に叫ぶ。すぐに慣性起動機が音を立てまわりだした。掠れた音がどんどん高くなる。

 「回転最大… コンタクト!!」

 イナーシャとシャフトをつなぎ、主スイッチを入れる。ガクンと音を立て、シャフトが回る。スロットルレバーを前に動かし、燃料を送る。

 プスン…プッスン… バ、バリバリバリバリッ!!!

 爆音とともに栄エンジンが回りだした。

 「よし来た! 計器類は異常…無しと。カウルフラップ全開」

 エンジンの音は快調、70年前のモノとは思えない。

 ババババッ ボボボボボボボボボボボ…

 重々しいエンジン音が隣から聞こえてきた。陽真のF6Fもエンジンを始動させたのだ。あのF6Fはリバースエンジニアリング機体で実物ではないが、エンジンは正真正銘本物のR-2800エンジンである。

 「戦友と初めての空戦か…」    

 スロットルを開き、滑走路に向かい前進を始める。

 彼らにとって初めての戦争が始まろうとしていた。

    


                      次回二続ク

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