腐ったくらいが丁度いい
あーたん
夜勤明け、眩しいぞ
「35番のカードのお客様〜」
よし、次でようやく僕の番だ。かれこれ10分は待ったぞ。僕は手の中にある番号札を再度見て順番を確認した。
ここは郵便局の窓口だ。
僕、
なぜどこの出版社も郵便口座なのか、そっちの事情の詳しくないので判らないけれど、僕のメインは銀行なので、少々勝手の違うことが面倒だと心の中でぼやいていた。
窓口に来て番号札を取り、用紙に必要事項の記入を済ませた。待合の椅子に腰掛けて店頭内をぐるりと見渡すと、と言ってもここは小さい郵便局なので、受付窓口は郵送が2つに、振り込みや保険の窓口が2つの所なので、見渡す事も無いのだけど、振り込みなどを取り扱う窓口に視線をやると僕は顔をしかめた。
その窓口にはやたらと綺麗な面構えの男が居た。
どうかあの窓口に当たりませんように。隣のおじさんが待ち構えている窓口に当たりますように.......。
しかめた視線の先にいるのが僕が最も苦手とする、所謂『リア充』と呼ばれるタイプの男だ。外見だけでリア充とは限らないのは判るけど、どう見てもアイツはリア充だろう。
先刻より、あの窓口に呼ばれている女性の大半は、目がハートマークになっている。それに待合の椅子に腰掛けている女性も
ふんっ......。どうせただのヤリチンなんだろ。そう心の中でぼやいた。
僕は人嫌いな所がある。信用するのは自分の家族だけで、最も苦手なのが若い女性とリア充のイケメンだ。
自分でも判っているのだけど、彼らに対する嫉妬や羨望が僕を卑屈にさせ、それらのタイプとは距離を置く様になって居た。なので、彼女イナイ歴25年。親友と呼べる男友達も居ない。
自分でも残念な男だと自覚している。それに、僕の愛読書を知られたらもっと友達が出来なくなると思う。
なので外ではこの件については一切口外しない様にしている。それについて語り合えるのは、僕の大切な妹のみちるだけでいい。
ああ、みちる元気かな......。
僕の転勤の所為で、この春実家から初めて離れた。僕の仕事とみちるの学校の都合でもうひと月も逢えていないし、みちるとの共通の趣味である愛読書について語り合えていない。
それに今までは、みちるが応募者全員サービスの事務手続きをしてくれていたおかげで面倒もなかったのに......と、妹と離れた事にまた恨みがましく思った。
しかし、今回の異動に関しては僕のステップアップに関わるもの
だし、社会人としては仕方のない事だ。
ああ、大切な妹と酒を酌み交わしながら僕らの高尚な趣味について語り合いたい。
僕は順番待ちの傍ら、みちるとの楽しい時間に思いを馳せて惚けていると、危惧していた残念な事が起こった。
–––キンコーン......。
「35番のカードのお客様」
機械の女性が僕を呼ぶ。
僕の手許にある番号札35番は、おじさん窓口では無く、リア充窓口の方からコールが掛かってしまった。
あーあ。なんだってあっちなんだよ......。
三交代の工場勤務で昨夜は夜勤。寝不足もあいまって少しイライラしていた。
なるべく顔に出さない様にしながら気だるく呼ばれた方へ向かい、窓口に置いてあるカルトンの上に振込用紙と丁度の金額のお金を入れた。
「いらっしゃいませ」
そして窓口の彼は男の僕に対しても、眩しさで目が潰れてしまいそうな程の素敵な笑顔を向けやがった。
うわっ、無駄に眩し〜わ。
ネームプレートには
美丈夫を前に劣等感でイラッとした僕は、眩しい滝川と言う彼から目を逸らし、傍にディスプレイされてある季節のデザイン切手を眺めていた。
「お待たせ致しました。水森様」
「あ、はい」
カルトンの上に乗せられた受領書をさっと手に取り、不意に正面に視線を送ると、その滝川と言う男は、僕の顔を不思議そうにじっと見ている。
「ん?」
「あっ、ありがとうございました」
なんだアイツ?。
僕の顔を見つめる彼に、なに見ているんだと訴える様に視線をキツくしてやると、彼は慌てて視線を逸らした。
僕の顔に飯粒でも付いていたか? それともコイツも冷やかし半分か? いずれにせよ僕の顔をまじまじと眺めるんじゃあないよ。
古風に『ふんっ』と言う様な感じで僕はその場を離れた。
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