東京モンスター。

だいぶ昔の僕は東京という街に憧れては

都会の空気を知りたがったけれども

いまになって思えばあの街は魔物だと

気がつかされたような思いに囚われたのだ

それ自体が東京の持つ見えない魔力という

不都合すぎる真実には目を瞑ったままで


あの街へ去った友は二度と還ってこないと

こころのどこかで小さな声が告げていた

幼いころに見せていたあどけない笑顔も

東京の喧騒に飲まれて餌食になったのだと

自身も都会のひとの波に呑み込まれて

徹底的にグダグダにされた僕は知っている


胸の中には警報機があったはずだけれども

いつからか故障して動かなくなったのか

こころが壊れ死んでゆく時も鳴らなかった

その時に悲鳴のひとつでも上げてくれれば

友と僕に降りかかった悲劇は避けられたと

本当にいまさらになって思っているのだ


コンクリートとひとの往来に砕かれては

そびえ立つ摩天楼とくすんだ空の真下で

少しずつ東京の胃袋に呑まれ始めていた

頭の中が取り返しがつかないレベルに壊れ

もう昔のようには二度と戻れないのだと

何者にもなれなくなった僕は気づかされた


こんな擦り切れたこころを抱えたままで

友も僕も東京という魔物の中で生きるのだ

そのために生まれたわけではないけれど

すっかり魔物の毒に犯されたこころでは

それだけ考えるのがやっとでしかなかった

軋んだ思いとともに東京は僕を喰らうのだ

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