亡命。
冷え切ったこころを暖めてほしくて
あすへ逃げるための切符を準備していた
ひとに生まれてしまった業という奴を
望みもしないうちに絶えず貪り続けて
気がついたら逃げ場を失っていたから
「どこに行けばいい?」そっと問いかけた
笑い者になることに躊躇いはないけれど
この胸に空いた穴はふさがらなくて
ぽっかりとその部分だけが暗闇に染まり
たまに吐瀉物が吐きだされていた
穴を埋めるための手術を施してみても
傷口が爛れるだけで治りはしなかった
逃げたいのに逃げられない焦燥感から
ひとり配給の列に並んで米を求めた
長い長い列の先にようやく手にした米は
空腹も胸の穴も繋ぐことしかできず
すぐに干からびて機能を失っては
もういっぺん配給に並べと急き立ててくる
乞食に成り果てた僕を過去が嘲笑う
「逃げたいのではなかったのか?」
まったくその通りで異論はないけれども
その足が見つからないからこうしている
選ぶ勇気がなかったといい換えられそうで
やはり僕を誰しもが嘲笑うばかりだった
まだ見ぬあすという絶望に亡命するため
僕は配給で得た米を売り払って
ただ一枚だけの切符をようやく手にした
記されている行き先の名前は「あす」
不器用で情けなくてどうしようもない
ひとりぼっちの逃亡の始まりを報せていた
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