拝啓、アノニマス。

顔も声もないひとに手紙を書くために

僕はいまペンを握り締めている

そこにある感情の意味は知らない

特に問題があるわけでもないのだし

それでいいのだとなぜか納得している

ただただ届くことを願うばかりだ


無粋なのかもしれないけれども

確かにどこかにいる誰かのもとへと

この文が少しでも響けばと願う

それがなにをもたらすのか

まったくわかりもしないままだけれど

最初からなにもない僕にはお似あいだ


あすはきっと雨になると思う

長い長い雨になり

なにもかもが流されてしまえばいいのに

その流れになんとなく便乗して

遠い誰かのもとへ漂ってゆくのなら

僕は間違いなくそれを選ぶのだろう


無知で無能でどうしようもない僕にでも

救いの手が差し伸べられるというなら

僕はたぶんその手は掴まない

縋ったら弱くなってしまうだろうから

閑寂という絶望を噛み締めながら

僕自身の手と足で生きたいだけなのだ


綴ることはただそれだけのはずなのに

なぜか涙が溢れそうになってしまう

強くはなれないけれど

ずっと遥かなどこかにいる貴方に

少しだけの念をこぼしては壊し

その断片を送りつけるだけだろうから

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