罵り顧問・専属女王様 +豚計画!? 集まれ豚共!

にのい・しち

女王様。ちょっといいかな?

 とある広告代理店。


「君、この前も同じミスをしていたねぇ」


 僕の上司は、呆れている様子だった。


 とは言っても、1週間かけて仕上げた仕事で、しかも、課長が最初の案じゃダメだとか、やはり最初の案て行こうとか、作業させてはやり直しを繰り返してやっと終わった仕事なのに……。


 ウチの会社は、世間に、あまり社員達の仕事ぶりを見せられない。


 なぜなら、月に300時間も働かせる過酷な労働環境だからだ。


 週末返上は当たり前、2徹3徹は日常茶飯事。


 しかし最近、厚生労働省が提案した、抜本的働き方改革案により、それは改善された。


「君、こんな仕事も、まともに……」


 課長は自分が発する言葉の危険性に気付き、僕の後ろに目を向け、誰かを探す。


「あぁ~……女王様。ちょっといいかな?」


 女王様と呼ばれた女性は、会社の制服を着て、眼鏡をかけた、ごくごく普通のOL。


 目鼻立ちは整っているものの、別段、美人という訳ではなく、地味な印象の女性だ。


 だが、身体は細く、胸から過下半身にかけて、くびれたアウトラインが、綺麗な湾曲アールを描いており、太ももから足先までは、見舞うほどの美しく伸びた足だ。


 それなりに着飾れば、化けそうな素養を感じる。


 課長は一言、「頼みます」と言うと、彼女は、眼鏡に両手を添えた後、顔から外した。


 そして、こちらに向ける目が、女豹のように鋭く尖る。


「君、頼むよ。頼りにしてるんだから」


「あんた……こんな仕事もまともに出来ないのぉ? とんだ豚野郎ねぇ」


 女王様は、まるで課長の言葉を通訳するように、言葉を重ねる。


 な、何だ? 背筋がゾクゾクする。


 僕の胸のあたりから、下半身にかけて、血液が脈打つように流れ、全身が火照る。


 女王様の言葉は、吐息が漏れだし、独特の色気を醸し出す。


 彼女の言葉に、僕は興奮を隠せない。


 女性の声が、ここまで心地よく鼓膜に反響し、脳内を震わせ、エクスタシーを増大させるとは……。


 しかも女王様の言葉には、母性愛にも似た、不思議な暖かみが伝わって来る。


 それだけではない、彼女の鋭い目は、僕の心のウチを見透かしているように思えてくる。 


 そう、興奮した僕は、目の前の女王様に対して、よからぬ妄想を膨らませていた。


 その妄想を、見透かすような目つきだ。


 何という辱め。


 話は続く。


「まぁ、ミスは誰でもあるから、仕方がない」


「こんな、低脳なミスをするのは、あんたくらいだよ。あんたの知能は豚以下。いえ……ウジ虫以下よ」


「僕もね、また君に、仕事を任せたいと思っているよ」


「ウジ虫に出来る仕事なんて、身体についた、と~ても汚いアカを、むしゃぶるくらいだけど。しょうがないから、3日寝ないでやり直すなら、仕事を任せてもいいわよ」


「どうだろう。やり直してもらうけど、出来るかな?」


「ほら、言いなさい。『僕のようなウジ虫に、やり直させて下さい』って、言ってごらん!」


 乱暴な言葉に、課長は一旦話を止め、見直しを計る。


「女王様。さすがに、そこは普通でお願いします」


「黙れ、ハゲェェエエエえええ江江ええエエヱヱヱヱ!」


 女王様が狂ったように叫ぶ。

 社内にこだまする狂気の叫びに、社内は戦慄し、この場にいる社員は仕事の手を止め、皆、課長のデスクへくぎ付けになっていた。


 僕よりも偉いポストの人間を、女王様は、当たり前のように上から見下す。


 いくら何でも、部下達の目の前で、女にバカにされたら、黙ってられないだろうと思ったが、当の課長は……


「はい…………すみません」


 素直に謝る。


 心なしか、課長の口元が緩み、嬉しそうに見えた。


 僕は、ここぞとばかりに、話に割って入る。


「課長!」


「ど、どうした?」


 僕は決めた。


「僕のようなウジ虫に、やり直させて下さい!」


 課長は面を食らうが、華やかに顔を照らし喜ぶ。


「そ、そうか! 頼むぞ!」


「はい!」


 企業に導入された、女王様叱責制度のおかげで、僕達、若手社員は、社内のパワハラを心地いいとさえ感じる。


 間違いない。


 僕らの世の中は、良い方向に歩んでいる。


 今はそれを、肌で感じる。


 後ろで、一部始終を見ていた、庶務課の女性が呟く。


「バカじゃないの」


                    ブヒおわり

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