第4話 不穏
「なんというかまあ、生徒会長も女子だし、新入生総代も女子だし、この学校は女子が強いのかね。赤城っていう総代の挨拶なんて、聞いててヒヤヒヤしたよ」
教室に向かう廊下で一希は陽奈と智恵美に率直な感想を述べた。
「なんなのあの子!ムカつくね!私がボコボコにしてやろうかな!」
まだ少ししか話したことはないが、勝気な性格だと二人は気づいており、智恵美をなだめようとする。
「まあまあ、言いたい人には言わせておけばいいじゃない。優秀かどうかなんて試験の成績だけではわからないわ。智恵美は智恵美なんだから、気にせず自分のやりたいようにやればいいのよ」
「むぅ〜。当日お腹を壊してなければ私だってAクラスに行けたかもしれないのにぃ〜」
「そのおかげで俺たちは知り合えたんだな。腹痛に感謝だ」
ニコッと笑いかける一希に溜飲を下げた智恵美はそれ以降、不機嫌でなくなった。
「一希がそういうなら、まあ良しとするかあ。別にAクラスにこだわりがあるってわけでもないし」
二人はほっと胸をなでおろし、お互いに目配せをした。思ったことを率直に言う性格に好感を持ちつつ、智恵美なら気兼ねなく友達としてやっていけそうだと一希は思ったようだ。
「なんだか楽しそうね。」
そんな一希の表情を察したのか、智恵美は一樹に問いかける。
「いいや、なんでも」
「ふーん、そう」
二人の気の置けないやり取りに微笑む陽奈の姿がそこにはあった。
そうこう話しているうちに、どうやら教室の前に着いたようだ。教室の表札には1ーFと記されている。一希が扉を開くと教室にいる生徒の視線が集まった。少し緊張しつつも、慣れろと自分に言い聞かせ、所定の席に着く。五十音順の男女交互になった席なので、またしても智恵美、一希、陽奈の順で並んだ。5人×6列の席順で、智恵美が右から二列目の一番前席だ。
席に着くと同時に入ってきた一人の男子生徒を見て智恵美が「げぇっ」と拒絶の声を上げる。教室に入りすぐ近くにいた智恵美にその男子生徒も気づいたのか、近寄って声をかける。
「智恵美じゃん!お前もこのクラスなのかよ!わっはっは!」
「私、人にお前とかこいつとか言う人種大嫌いなんだよね」
智恵美がジト目を向ける。
「わりいわりい!癖なんだから仕方ないだろ」
体格ががっちりした少し老け顔のこの男はいかにも体育会系だ。智恵美は後ろでキョトンとした顔をする一希と陽奈に気づいたのか、説明を加える。
「はあ、仕方ないから紹介するよ。このいかにもバカそうでおっさんくさい男はバカ下ジジ介って言うんだ。」
「ちっげえだろ!べっぴんさんとイケメンくん、俺の名前は南下祐介ってんだ。よろしくな」
智恵美は悪びれる様子もなく、しれっとしている。
「俺の名前は黒間一希だ。よろしく、ジジ介」
「私は蒼本陽奈よ。よろしくね、バカ下さん?」
陽奈は戸惑いながらも一希の悪態に便乗する。
「おいおい、初対面なのに二人していい性格してんな」
困った顔をする祐介だが、一希には一希なりの意見がある。
「俺にはイケメンくんじゃなくて一希って名前があるからな」
ニヤリと一樹が笑う。祐介も納得したようだ。
「ああ、悪かったよ一希。でも初対面だし名前わかんないから仕方なくね?」
「俺、人にイケメンくんとか言う人種大嫌いなんだよね」
先ほどの智恵美の発言に合わせて一希も言い回しを真似る。智恵美と目を合わせ、なー、と共感を示した。
「肝に銘じとくよ・・・んじゃあまあ、陽菜もよろしくな!」
と祐介が言った刹那、他の男子たちからギロリと白い目線を浴びせられる。
「・・・じゃなくて、蒼本」
途端に言い換えた。
「おま・・・じゃなくて蒼本よ、まだ初日のくせしてもう男子どもを味方につけたのか?末恐ろしいな」
「私、あなたのこと少し苦手かもしれないわ」
「でしょでしょ!そうなんだよ、デリカシーって概念がこの男には欠如しているんだよ!」
陽奈と智恵美はこれをきっかけに意気投合した。二人で手を取り合ってきゃっきゃしている姿は実に絵になる。智恵美も可愛さで言うとかなりの上位に入るからだ。男子の視線が釘付けなのも致し方ない。
「はい、みんな席について」
担任と思われる人物が入ってきた途端、一希と陽奈は固まった。
「どうも、今日からみなさんの担任になりました、三宅誠太です。よろしくね」
ことも無げに振る舞い、その後一希と陽奈にウインクを送ってみせる彼に心底身震いした。
(なんで、あいつが?)
「今日は今後のおおまかな流れを確認して終わりだよ。これから先君たちには一日置きに登校してもらう。慣れてきたら月曜から土曜まで授業で日曜が休日になる。3月上旬から君たちを入学させた分、慣れるのが早いほど夏休みは長くなるよ。真面目に授業に取り組むようにね。今後のシラバスや時間割、電子教科書はスタディナビにアップロードしておくから各自ダウンロードしておくように。もし紙媒体の教科書が欲しかったら職員室で求めなさい。次に会うのは明後日だね!じゃあ解散!」
「先生!自己紹介とかはしないんですか?」
一人の女子生徒が問いかける。
「僕は生徒の自主性を重んじるんだ」
キリッと返答する割には、適当だ。
「絶対面倒くさいだけだよ、あれ」
「そうよね」
一希と陽奈が前後ろでヒソヒソ話している内容が聞こえていたのか、
「そこ!私語は慎むように」
と、木城はここぞとばかりに反撃する。
「先生、解散したんじゃなかったんですか?」
智恵美のフォローに二人は目を輝かせる。智恵美が敬語を使ったことにも驚いたが、それよりもフォローのインパクトが強かったようだ。
「コホン、細かいことは気にしないように」
結局、自己紹介をしてから解散になった。一希と陽奈の自己紹介の時の男女の温度差がそれぞれすごかったという。
智恵美と祐介にまた明後日、と別れを告げ、二人は職員室前に来ていた。
「やあ、よくきたね、待ってたよ。ここで話すのもなんだから空き教室にでも行こうか」
職員室に入ると待ち構えていた木城がすぐさま立ち上がり、二人に移動を促した。
「なんで教師やってるんだよ。てか知ってたなら言えよ・・・」
「いやあ、ごめんごめん。君たちの驚く顔を見たかったんだ。おかげで面白いものを見させてもらったよ」
「はあ、まったくこの人という人は・・・。私たちはこれからここでは先生と呼ばなくてはなりませんね」
「呼びたくねえ・・・」
木城はいつも通りニコニコしながら二人に対応している。
「まあ、今日は急いでるから今度また詳しく事情を聞かせてくれよ」
「ん?何か用事かい?」
「はい。今日は風都くんの誕生日なのでケーキを買って行こうかと思いまして」
「一体誰だい?」
一瞬、空気がシンとする。
「誰って、俺の弟だよ。言ったことなかったか?」
「君たちとは長い付き合いのつもりだったんだけどね。失念していたのかもしれない。まあ、そのような事情があるなら早く行ってあげるといい」
木城の言葉に違和感を覚えつつ、一希と陽奈は教室を後にした。
その後、二人はケーキとプレゼントを買い、恐らくはもう帰ってきているであろう風都と春音の待つ家へと急ぐのだった。
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