第拾壱話 【2】
僕の妖術、影の操でも中々相手を止められない。多少でも動いているんです。
止めるのに精一杯で、肝心の妖気を溜められません。逆にこの状況で、空亡がチャンスだと言わんばかりの顔をしちゃってます。
マズいです。このままだと、空亡が自分の力を取り戻しちゃう……。
「くぅ……!! 何とか、何とかして妖気を……」
「あかかかか!! 限界か? そろそろ限界か?! 後ろの空亡もろとも吹き飛ばしてくれる!」
僕の影の妖術から脱しようと動きながら、物部天獄が叫んできます。
「ほほふ。未熟な妖狐よ、ご苦労じゃった。では、このまま力を返して貰うとしようかの」
そんな物部天獄の叫びなんてものともせず、空亡がゆっくりと物部天獄に近付いている。
止めないと、止めないと……空亡も止めないと。物部天獄も止めないと。僕はどうすれば……。
「ぬがっ?!」
するとその時、空亡の背後から黒い雷の槍が飛んできました。
「……黒狐さん?!」
それは黒狐さんの妖術でした。地面から、空亡の背中に黒雷槍を撃ったのですか?! そして更に、空亡の前方には白狐さんの姿まであります。いつの間に……!
「……嫁が頑張っている中で、我等が補助するだけというのも格好悪いものだ」
「ほほ……そう男気を見せずとも――」
「見せねば男が廃るわ! せや!!」
「おっと……!!」
空亡を前に、白狐さんはそう啖呵を切って攻撃をします。でも白狐さん……あなた達は性別が定まっていないから、男気もなにもないような気がします。今でもたまに、女性になったりしているからね……。
そんな揚げ足を取るような事はしないけど、白狐さんも黒狐さんも、ようやくこの気迫の中で動けるようになったみたい。
「ふむ……2人とも神通力を多少使えるか。厄介じゃの。妾の圧で留めていたが、動けるようになったか」
ただ、白狐さんの攻撃を避けながら、思案するような表情で空亡がそう言っているのを見て、まだまだ余裕そうな感じがします。早く物部天獄を片付けないと、白狐さん黒狐さんでもあっさりとやられちゃうよ。
そして僕は、動きを止めている物部天獄の方を向き、それに対処しようとしたその時――
「かかかか!!!!」
「うぐっ!!」
物部天獄の太い腕が、僕の体に当たり、僕は盛大に吹き飛ばされてしまいました。
どうやら影の妖術を解いたらしく、隙を突かれて攻撃されちゃったよ。流石に空亡を警戒しながらはキツかったです。
「くっ……! 何とかしないと……」
途中で姿勢を立て直したけれど、物部天獄は空中を飛ぶ僕に向かって走ってきます。その大きな体でね……。
完全に僕を標的にしている。空亡を狙うと思ったけれど、何で僕だろう? と思っていたら、白狐さん黒狐さんの方を見て分かりました。
「ほほふ。こんなものか? 妾は力を奪われた状態じゃぞ? 妖気だけの、器みたいなもの。それに対してこのざまかの?」
「白狐さん! 黒狐さん!」
2人が空亡に一瞬でやられていて、黒い妖気のようなものに捕まり、項垂れていました。
「あかかか! あんなものを見たら、もっと力を付けないと勝てそうにない。よこせ! 貴様の神通力!」
物部天獄はそれを見て、先ずは僕の神通力を奪おうとしてきたんだ。でも、お前はあとです! 先ずは白狐さんと黒狐さんを助けないと。
「退いて!!」
「なに……?!」
自分の尻尾で思い切りビンタするようにして叩くと、物部天獄は凄い勢いで吹き飛び、グラウンドに大の字で倒れ込みました。
でも、それを何とかする前に……空亡の方です。
「ほほふ。あの巨体を吹き飛ばすか。来るか?」
「2人を離して下さい!」
「良いのか? 妾に注視していて」
「へっ?」
その後、僕が空亡に向かおうとすると、空亡がそんな事を言ってきました。
何が……と思ったら、僕の背後に大きな影が現れ、直後に背中に凄い衝撃を受けます。
「あぐっ……!!」
そのまま僕は、前方の建物に突っ込んでしまいました。これくらいで倒れることはなくなった僕だけど、建物を壊したのはマズかったです。あとで直すのが大変なんで。
「あかかか!! あれ位で、私を止められると思ったか!」
そして僕の後ろから、物部天獄が叫んできます。確かに、あれで止められたら苦労はしないけれど、捕まった白狐さん黒狐さんを助けようと必死になっちゃってました。
2人はもう大丈夫なのに。何故なら、僕には沢山の仲間がいました。
「ぬっ……! くっ! 小癪な……」
「椿様! お二人は無事です! 物部天獄の方に集中して下さい!」
空亡が空中に逃げていく姿を見て、白狐さん黒狐さんの周りに集まる妖怪さん達に気付きました。
そして、四神の力を持つあの4人が、龍花さん達が白狐さん黒狐さんを助け出してくれていました。しかもその後、空亡に追撃するようにして、金色の矢と銀色の矢が飛んでいきます。
「やれやれ……俺達の行いまで無駄になっていては、立場がないな」
「だから日本中から仲間を集めていたんでしょう? 銀狐」
「お父さん……お母さん……」
あんな強力な妖気の矢を撃てるのは、2人しかいません。僕のお父さんとお母さんが、白狐さんと黒狐さんの横に立っています。
今まで何していたか、連絡はあっても教えてくれなかったけれど、何をしていたかは今分かりました。
2人の背後には、更に沢山の妖狐達が宙に浮き、この場に集まっていました。
もちろんその下には、鞍馬天狗のおじいちゃんの家の妖怪さん達も集まっています。
「椿よ、ここまで良く耐えた! 空亡は我々に――」
「空亡は私と銀狐がやるわ。鞍馬天狗とその他の方は、下の陰陽師4人を……かなり強敵らしいわ」
「ぬっ……そ、そうか。分かったわい」
おじいちゃんが啖呵を切ろうとしたら、お母さんに止められましたね。でもやっぱり、加勢に来てくれたのは嬉しいです。
だけど同時に、不安にも襲われます。皆空亡の禍々しい妖気に心底震えちゃってますよ。このままでは空亡は押さえられないかも……。
それに、陰陽師の4人を相手にしている咲妃ちゃんとトヨちゃん達も、その4人に凄く苦戦しているのが見えています。
さっきから分かってはいたけれど、物部天獄と空亡を相手に、そっちの手助けが出来なかったんです。
「おじいちゃん! それに皆も、咲妃ちゃん達を助けて上げて!」
『了解!』
その僕の言葉に、皆やる気満々になっています。なっているけれど、誰か楓ちゃんを止めて上げて……一緒に加勢に来てくれたみたいだけれど、意気込みすぎて妖術が暴走しているよ……。
スイトンさんも近くにいるから、この危機に修行中の楓ちゃんを連れて来てくれたんでしょうね。
だけど、修行は上手くいっていないご様子……まだしばらくスイトンさんの元にいさせた方が良さそうだね。
「ほほふ。雑魚がわらわらと……物部天獄から力を取り返したいのが、どうやら本気の勝負になりそうじゃのぉ。困ったのぉ。妾はその力の大半を、物部天獄に取られとるのに~」
「下手な芝居ね。この状況でも、あなたは全く動揺していない」
「つまり、椿が物部天獄を倒した時を狙い、その力を取り戻そうという気だったのだろう!」
「ほほふ。だとしたら? お主等が妾を止めてみるか?」
そして空亡の目の前に、僕のお父さんとお母さんが立ち塞がって、本気の気迫を見せています。だけど、空亡は平然としています。
力の大半が取られているのに、何でそんなに余裕でいられるんでしょう? もしかして、何か秘策があるのかも知れません。
「お父さん、お母さん、気を付け――わっ!!」
「椿! あなたの方が気を付けなさい!」
確かに、よそ見をしている場合じゃなかったです。
物部天獄は既に、この辺り一帯に大雨を降らせていて、風も強くさせています。台風が来ているんじゃないかな……時期的にまだ早いのに。
しかも、物部天獄はそんな能力を使っている中でも、僕の姿をしっかりと捉え、攻撃してきます。
僕も本気でいかないと、こいつは倒せません。
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