第壱章 意気自如 ~変わらない椿の意志~

第壱話

 翌朝、僕は肉体疲労にてダウンです。結局昨夜は凄かったので……何がは聞かないで下さい。この調子だと、2人目まで割と早いかも。


 また夜泣きの大変さが……って、香奈恵ちゃんはあんまり夜泣き無かったですね。妖狐だからかなと思っていたけれど、今思えばカナちゃんだったからなんですね。


 それにしても……。


「妲己さん……ちょっとやり過ぎ」


「ごめんなさいね~久々にストレス解消したかったから~」


 だからってアレはないですよ、アレは……。

 白狐さん黒狐さんも女体化した状態のまま、意識失ってますからね。妲己さんは戻ってるけれど、もう男にはならないで下さい。


「それにしても、椿が耐えるなんてね~驚きだわ」


「耐えたというか、白狐さん黒狐さんに鍛えられてたというか……」


 それでもお昼まで立てそうにないです。多分白狐さん黒狐さんは夕方まで……。


「まぁ、香奈恵の世話とかは任せときなさいよ~ヤコとコンもいるし、変な事はしないわよ」


「うっ、ぐ……本当……ですよね?」


 どっちにしても抵抗出来ないし、怪しくてもそうするかしない。

 それに妲己さんは、僕達とは違って逆に何かが回復したのか、肌つやも良くなって元気いっぱいでご機嫌なんです。


「まぁ、私を満足させてくれた礼として、今日一日くらいはあの子の世話をしてあげるわ~」


 そう言って、妲己さんは部屋から出て行きます。スキップしながら……。


 僕はそれを見て、再び意識を落としました。もう、ダメ……妲己さんの夜のお供をしたら、体が壊れるよ。


 ―― ―― ――


 それからお昼になって、ようやく体が動くようになった僕は、妖怪センターへお仕事を受けに行きます。と言っても、今日いきなり行くのではないですけどね。

 依頼を受理して、都合の良い日に調査に行ったり、数日後に仕事をしたりしますね。


 その日にいきなり行く場合もあるけれど、僕は今日は無理そうです。妲己さんのせいでね!


「こんにちは、ヘビスチャンさん」


「おや、椿様。どうもこんにちは……っと、昨日はお盛んでしたか?」


 そして、受付にいるヘビスチャンさんに挨拶をすると、いきなりそんな事を言われました。なんで分かるの? あぁ、僕の表情とか疲れてる様子かな。


「う~妲己さんを手配書に載せて欲しいです……淫妖として」


「はは、彼女は以前の事で処分保留にされてるので、再度手配は時間がかかりますよ。それに被害なんて、今のところあなた様と白狐様黒狐様くらいですからね」


 やっぱりダメですか、分かってましたよ。はい……。


 因みに今のセンターは、以前のセンターと同じ場所にあります。

 あれから何とか復旧して、より強固な場所になりました。京都市役所のある場所。そこの妖界側にです。


 ボロボロに朽ちた外観で、お化けが出て来そうだけど、中は綺麗な内装になってます。

 吹き抜けは変わらずで、その中央では相変わらず達磨百足だるまむかでさんが沢山の腕を伸ばして書類を渡しています。


 百足のように長い体、達磨のような怖い顔。昔はちょっと怖かったけれど、今は大丈夫です。


「おぉ、椿か! 丁度良かったぞ!」


「ぎゃひぃっ!!」


 なんで後ろから?! しかも地面から!! ビックリしましたよ! 変な妖術を使わないで下さい!


「椿様、椿様。これでは『お変わりないですね』としか言えないのですが」


 あっ、しまった……ヘビスチャンさんの頭にしがみついちゃいました。達磨百足さんのせいです。香奈恵ちゃんが居なくて良かった……。


「ふぅ、それで? 丁度良かったって、僕になにか用だったんですか?」


 冷静に冷静に……とりあえずヘビスチャンさんから降りて、いきなり出て来た達磨百足さんにそう返します。


「うむ、どうせ仕事を取りに来たのじゃろう? それなら丁度良いのがあるんじゃ、お主にしか頼めなさそうなものがな」


 因みに、悪い妖怪退治をするための許可証の級はまだ残ってます。僕は一級ですけどね。

 流石に特別な妖気である神妖の妖気が無くなったから、特級は無くなってます。お父さんお母さんは特級だけどね。


 それでも、一級のクラスを持つ妖怪は数が少ないらしくて、結構難しい仕事を任されたりしますね。今度は何でしょう?


 そして僕は、達磨百足さんから渡された書類に目を通します。


「何々? 無実の罪を被ったり、災いが頻繁したりする……って、これって偶々なんじゃって思うけど、まさか?」


「うむ。妖怪じゃろうな……」


 そんな妖怪居たっけ? 妖怪は全国にいますから、いちいちその全てを覚えたりなんて出来ません。

 それ以上に子育てとか、白狐さんや黒狐さんの相手が大変なので。


 う~ん、今日の夜は白狐さんと黒狐さんかな?

 あっ、でも今日は妲己さんにめちゃくちゃにされたから、無しかな? それはそれで寂しいな。


 やっぱり僕は、あんな風にされるよりも、白狐さん黒狐さんに優しくされた方が……。


「椿様、椿様、涎が出てますよ」


「ふにゃぁっ?!」


 しまった! 僕、人前……じゃなくて、妖怪前で何を想像してるの! いけないいけない。


「まぁ、夫婦生活は円満なようで何よりだ」


 首を横に振って雑念を捨てる僕に向かって、達磨百足さんがそう言ってきます。


「とにかく場所は……へっ? 大阪?!」


「そうだ。今回は京都じゃない。大阪、しかも道頓堀じゃ」


 あんな所で妖怪が? 確かに全国にいるし、悪い妖怪だっている。

 でも大阪は大阪で、妖怪センターの支部があるから大丈夫だと思っていたけれど、今回ばかりはそうはいかないのでしょうか?


「向こうのセンターの人達は?」


「当然対処はしてるようだが、改善されないと報告が上がっている。それと、おかしな妖気を感知したとある」


「おかしな妖気……」


 例の黒い妖気でしょうか? だとしたら、確かにこっちで対処した方が良いかも知れません。黒い妖気は今のところ、京都が中心となっています。

 他の所でもチラホラ出ているようですけれど、やっぱり京都が断トツで多いので、対策はこっちがメインでやってます。


「椿様、ご都合の良い日で構いませんので、どうか宜しくお願いします」


「んっ、分かりましたヘビスチャンさん」


 そして僕は、人型をした蛇の妖怪ヘビスチャンさんにそう言って、センターを後にします。


 そうだなぁ、丁度明日は日曜日だし、白狐さん黒狐さんと妲己さん、そして香奈恵ちゃんと一緒に、そこまでお出かけしようかな。

 なんだかんだ、香奈恵ちゃんは京都から外に出てないので、大阪には連れて行きたいですね。


 ただ危なそうなら、白狐さん黒狐さんに頼んで直ぐに帰って貰うけどね。


 そして、センターのある妖界から出て人間界の方戻ると、僕は真っ直ぐ――


「居た、妖狐だ! 倒……」


黒砕槍こくさいそう


「うげっ!」


「がはっ!!」


 ――帰路につきます。


 その前に何人か僕に向かってきたけれど、黒狐さんの妖気を使った妖術で、尻尾を槍みたいに硬くして蹴散らしておきます。


 格好が和服だったので、陰陽師かな? お札持ってたし、多分間違いないですね。

 ちょっと物騒になってきましたね。これは先に陰陽師の団体を何とかするべきかな?


「う~ん、おじいちゃんに報告しておこう」


 すると、さっき倒した人達が体を起こそうとしてきます。しつこいですね。


「くっ……まだ負け」


「影の操、そ~れコチョコチョ」


「ぎゃはははは!! や、やめっ!」


 とりあえず影の妖術で相手の影の腕を操って、脇腹をくすぐっておきます。このまま気絶するまでくすぐっておきましょう。時間かかるけれど、しょうがないです。


「さ~て、帰ったら明日の準備をしておこうかな」


「ぎゃははは!! た、頼む……これ、止め……ひ~ひ~!」


「香奈恵ちゃんの安全も確保しないとだし、いくつか妖具を……」


「おい、聞いてるのか? もう狙わないから、これ止め……ぎゃはははは!」


「うるさいですね、黒槌土塊」


「ぎゃんっ!!」


「ぐはっ!!」


 考え事をしていたけれど、案外うるさかったので、今度は尻尾をハンマーみたいな形にして硬くし、それでその人達の頭を殴って気絶させました。


 さて、静かになったので帰りましょう。そろそろ白狐さん黒狐さんも起きてるだろうしね。

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