第参話
あの後、僕のお母さんのお仕置きを受けた僕と香奈恵ちゃんは、お尻を撫でながら廊下を歩いています。
「うぅ……おばあちゃん怖い」
「香奈恵ちゃん。僕のお母さんの前では、それ言わないように……」
「でも、おばあちゃんはおばあちゃんなんだけど……」
確かに、香奈恵ちゃんからしたらおばあちゃんなんですよね。どう呼んだら良いんだろう。そう思って前に聞いたけれど、答えてくれませんでしたね。
僕のお母さんも、核心を突かれすぎて言葉が出なかったのでしょうか……?
「むっ? 椿よ、来ておったのか」
「あっ、おじいちゃん」
すると廊下の先から、立派なお鼻と烏の羽を持ってる鞍馬天狗のおじいちゃんが現れました。修験者のようなその格好は、相変わらずです。
他の妖怪さん達も、実はあんまり変化がありません。あのくノ一志望の化け狸の楓ちゃんも、あんまり変わってませんからね。
だからなのか、僕だって多少大人っぽくなったかなってくらいで、大きな見た目の変化はないんですよね。
「丁度良かったわい。誰かに行かそうと思っておったが……待たんか、何故逃げるんじゃ?」
「あわわっ! か、風が……風が逆巻いて逃げられない!」
だって今の流れからして、絶対に何か頼み事をしてくるんでしょう?!
僕は今日は何もなかったから、久々に夕方までのんびりしたかったのに! おじいちゃんの鬼!
「全く……今日は何もなかったんじゃろう? ちょっと見てくるだけじゃい。その代わり香奈恵は儂が面倒を見とるから」
「うぐぐ……」
一瞬、香奈恵ちゃんのお世話からちょっとだけ解放されると思ってしまいました。
だって、あんなお転婆な子なんだもん……色々と手がかかるんです。僕はここ最近ゆっくりと休めてません。
別にそれが嫌ではないけれど、たまには羽を伸ばしたいな~って思うの。
「うぅ……分かりました……」
直ぐに終わらせて、ちょっと買い物にでも行こうかな~なんて考えたら、おじいちゃんの頼み事を聞くのも悪くはないと思ってしまいました。
でもおじいちゃんの頼み事なんだから、絶対に面倒ごとなんだよね。
「なに、ちょいと噂の確認をしに行って欲しいのじゃ」
「噂?」
「うむ。死の幸せロードと言われている場所があっての」
「おじいちゃんおじいちゃん、それ変じゃないですか?」
死の幸せロードって、めちゃくちゃ矛盾してるじゃないですか。何があったのそこ?!
「まぁ、何と言うかの。その道を歩いたものは、死ぬんじゃよ。ある民謡を聴いてな」
「えっ……?」
それって、有名な民謡なのかな? 何でそれで死ぬの? ちょっと……大丈夫なんですか、それ。
「しかも全員頭を潰されたり、体を潰されたりしての……だからどこに行くんじゃ」
「あぁぁ……! 風が……風がぁ!!」
勘弁して下さい、おじいちゃん! それ任務だから、妖怪センターの方に流してよね!!
それと、さっきから逃げようとしているのに、天狗の羽団扇で風を発生させて、それで僕を捕まえないで下さい!
あと、香奈恵ちゃんが一瞬嬉しそうな顔をしたのは気のせいかな?
僕が見てるって気付いて、慌てて不安そうな顔をしたけれど、今のは引っかかるよ……。
―― ―― ――
「うぅ、なんで僕が……」
「まぁまぁ、そう言わずに姉さん~」
あの後、例の場所まで移動した僕は、盛大にため息をつきながらそう言います。だって、お供が化け狸の楓ちゃんなんです。
赤茶色の背中までのポニーテールに、元気いっぱいな表情と活発な雰囲気の良い子なんだけどさ……まだくノ一になろうとしていて、格好が女忍者くノ一の格好をしているんです。
そんなに憧れてるとは思わなかったよ。
「それにしても、楓ちゃんは何で香奈恵ちゃんに見つからなかったの?」
「そりゃもう、変化の術っすよ! てぃ!」
すると、楓ちゃんは両手を胸の前で組み、妖術を発動します。そして煙に包まれると、次の瞬間には楓ちゃんはある像に変化していました。
象さんの像にね……楓ちゃん、ツッコまれたいんですか?
「……ね、姉さん。なんでそんなに憐れむような目をしてるんっすか?」
だって、何にも言えないんだよ楓ちゃん。とりあえず、鏡を取り出して見せるしかないですね。
「…………あ、ぁ……ぁぁぁああ!!」
あっ、鏡を見た瞬間像が真っ赤になって、そのまま煙に包まれて楓ちゃんに戻った。
「な、何でっすか?! ちゃんと狸の銅像に変化したのに! あっ、だから自分の前を通り過ぎるとき、香奈恵ちゃんが嬉しそうな目をしていたんっすね」
見つかってるじゃないですか、それ。しかもそのまま置き去りにして羞恥プレイじゃん。
この通り、楓ちゃんはどこか抜けてるというか、おバカさんなんです。ちょっと不安です。
そんな楓ちゃんを連れて、京都市の市街地にある交差点にやって来ています。
この市街地にはそんな噂は無かったのに、ここ最近起き始めたようなんです。
しかも死者まで出たとなると、おじいちゃんも本腰入れるしかないですよね。
「う~ん。それにしても、夜も昼も関係なしですか……」
「姉さん、何か感じないんですか?」
「残念ながら何にも~」
僕は感知能力が高いので、他の妖怪さん達では気付きにくい妖気を感じたり出来ます。
でも、今回はそんな怪しい妖気は感じられない。色んな妖気は感じるけどね。
ここ最近、市街地にも妖怪さんが出て来るようになったから、至る所に妖気が……その妖怪さんの仕業なら、僕は許しませんからね。
「姉さんの活躍で、人間の街でも多少生活出来るようになりましたね~」
「うん、そしてめちゃくちゃ写真撮られてるの」
昔とは違って、隠れる必要はなくなったんですけど……やっぱりまだ珍しいようで、人間の人達からスマホで写真を撮られまくってます……主に僕ばかりね。
「さすが妖怪アイドルの姉さんっすね~」
「うぅ……なんでこんな事に……雪ちゃんのせいだ……」
妖怪と人間の合いの子、その雪女の半妖雪ちゃんがね、僕をプロデュースしちゃったので、僕は人間と妖怪の両方に、アイドルとして扱われちゃってます。
今僕のファンクラブ会員何人だっけ? もう数えられないです……。
するとその時、突然僕達の耳にあの民謡が聞こえてきました。
『~~~~♪』
「来た!! 楓ちゃん、僕から離れないで!」
「合点っす!」
「僕の尻尾に引っ付く必要もない!」
歌が聞こえてきた瞬間、楓ちゃんに思い切りしがみつかれてビックリしちゃったよ。そこは敏感なんだから、しがみつかないでよ。
そして、そんな事をしている間に歌が進んでるよ。
『~~、~~♪ ~~、~~♪』
どこから聞こえてるの? これ……上? 違います。僕達の近くなのは確かだけど……。
とにかく、僕は必死に辺りを見渡します。
『~~~~、~~♪ ~~、~~♪』
「へっ?」
すると突然目の前に、キャップの付いた帽子を被った大きな男の子の顔と、大きな手が現れ、その両手が僕達を挟むようにして待機していました。
でも次の瞬間……。
「ばぁん! ばぁん!!」
その両手を叩き始めました。しかも、口で叩く音を言ってます!
「っ……あっぶない!! 楓ちゃん、大丈夫?!」
「だ、大丈夫っす!」
楓ちゃんが僕の尻尾に引っ付いていてくれて助かりました。
白狐さんの力を解放して、僕は咄嗟にその場から飛び退き、相手の攻撃を回避しました。
尻尾に楓ちゃんがいたからあんまり移動出来なかったけれど、いきなりぺちゃんこになるのだけは回避しましたよ!
でも、相手の姿はもう無かったです。そして……。
『~~、~~♪』
歌は2番に続いています。
あれが噂の、死の幸せロードの元凶ですね。でも、姿を消されていたら対処が……どうしよう。
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