×35

阪下梨帆

第1話

明け方眼が覚めるとホテルの一室にいた。そんな出だしで始まる話は珍しくない。まあだいたいそんな話は登場する男と女がくっついて終わるのかもしれない。でも妻帯者の俺の場合は焦った。どうか夢であってほしいと頬をつねったがじーんと痛みが自分を追い詰めた。隣にいたのは同じ職場のかなり美人な女だ。なぜ自分がこんな美人と寝れたのか不思議でしかたない。下の娘が生まれてから1度も妻と寝ていない。昔は火遊びもしたが、最近は教員という職業柄俺は真面目になってきたと思っていたがねだが今俺はホテルのベッドの上だ。昨日はたしかに呑みすぎた。呑みすぎて昔の血が騒いだか?相手の女は自分に気があるとも思えないし。なぜこうなったか不思議としか言えない。相手が起きる前に逃げても後で会うし、どうしたものか。今年50の妻帯者の俺にこんな日が来るとは夢にも思ってなかった。向こうも好意はないだろうし。ましてや、この女は教え子でもあった。罪悪感に襲われ一瞬クラっとした。「兼子先生?」いきなり声を掛けられた。驚き、裏返った声で「はい!」と答えた自分がとても恥ずかしいし、情けない。少しの間沈黙してから彼女は「すみません。呑みすぎましたね。」と言った。「いやいや俺こそすまん。川崎さんは昨日のこと覚えてる?」「いえ、全く。まあ使用済みのコレがあるから生殖行為をしたんでしょうね。」と真顔で使い終わった避妊具を指差していうもんだから危うく吹きそうになった。堪えた俺を称えてほしい。理科の先生だからなのか、関係ないのか。よくもまぁこんな美人な彼女から色気のない用語が飛び出したなと思うと同時に裸で正座をして話す彼女を可愛くも思えてきた。職場ではかなりクールな先生なのにと思うとまた笑いがこみ上げてきて笑ってしまった。彼女は不審そうに首を傾げてから自分の姿に気づき少し頬を染め「着替えましょう?」と言った。さっきまで真顔で生殖行為とか言ってた女が今更恥ずかしがるなよと心の中で盛大に突っ込んだ。少し意地悪がしたくなって「嫌だね。」といってみた。すると彼女は頬を膨らませ「断る権限はあなたにはありません。」といった。あぁ、可愛い。これ以上一緒にいたら好きになりそうだからはやくこの場から離れよう、そう思った。



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