全然違うタイプのふたりだからこそ

 それからも、私は毎日小説を書き続けました。

 調子のいい日もあれば、そうでない日もありましたが、とにかく毎日書く。それだけは守り続けました。

 相変わらず執筆量は増えず、目標としている4時間にも届かない日が多かったのですが、それでも毎日2~3時間くらい、最低でも1000文字以上は書くようにしていました。

「ほんとうはもっといろいろと教えてあげたいことがあるのだけど、執筆量が増えないことには先には進めないなぁ」と、あの人からはよく言われていました。

「ごめんなさい。私、書くのが遅くて。それに、1日に書ける量が決まってるみたいなんです」

 私が謝ると、あの人はやさしく声をかけてくれました。

「なぁに、心配することはないさ。その人にはその人なりの進歩のスピードというものがある。前にも言ったと思うけど、君は大木になることのできる逸材いつざいだ。うまく成長すれば、1000万人に1人にだってなれるさ。その代わり成長のスピードは速くはない。それだけのことさ」

 そう言いながらも、あの人の心の声が聞こえてくるようでした。

「もっと速く!もっと速く成長するんだ!そしたら、次のことを教えてあげるから!次も!その次も!そのまた次も!だから、速く成長して!」と。

 口には出さなくても、雰囲気でそれが伝わってきました。

 私はゆっくりと着実に成長していくタイプで、あの人はどんどん先に進んでしまう。ものすごく物覚えがよくて、ひとりで勝手に成長してしまう。その代わりにとんでもなくきっぽい。そういうタイプの人でした。

 そういう意味では私たちは全然違っていて、相性はあまりよくなかったといえるでしょう。でも、心の底でつながり合っていて、お互いがお互いに信頼し尊敬し合っていて。だからこそ関係を続けられたし、お互いの欠点を打ち消し合うことができたともいえるのです。

 私は自分の知らない新しい世界を見せてもらい、自分自身の狭い世界を広げることができました。代わりに、あの人の飽きっぽさを封じることができて、ひとつのことを長く続けさせてあげることができたと思います。

 そういう意味ではベストパートナーだったといえるでしょう。全然違う人生を歩んできた全然違うタイプのふたりだからこそ、手を組んだ時にとんでもなく大きな力を発揮できたのでした。


 世の中には多くの人たちがいます。気の合う人も、そうでない人も。

 そして、大抵の人たちは自分と気の合う人とばかりつき合おうとしてしまいます。でも、全然違うタイプの人だからこそ、お互いに成長できたり欠点を補い合ったりできるのです。

 私は今回の経験を通してそのことを知ることができました。それだけでも、小説を書き始めてよかったなと思うのでした。

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