26「揺れる水面」
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《ミ( ∵)彡{占術、文字化け解析ならそぼろにお任せ》
ワイスのチャットルーム。
その中にある一際異彩を放つチャット文字は、当然人の目を引いていた。
ザックと共にワイスに戻ってからの一週間…… ラーソは毎日このような占術活動をし、人の注目を集めていた。
その甲斐あってか〝そぼろ〟ことラーソ・ボローニの名は街中の噂となっていた。
「そぼろさんほど見事な占術師はそうそういないよ」
今日もまた、占術を受けた者が感謝を送る。
ラーソは、自分の占術にだいぶ自信を付けていた。
感謝の言葉と明るい笑顔が、何物にも代え難い報酬に思え、ミレマでの争いや、シオンから聞いたワンダラーの事実を忘れさせてくれる。
変わらない毎日。流れゆく一週間。
これまでを思うと、不気味なほどの平和。
このままでいいと、ラーソは思う。
が、やはり思い出してしまう。
(全てのワンダラーは旧文明の時から行動してきた存在…… アセンションに向けてな。進化と供に忘れただけで、貴様もそうだったはずだ)
忘れて良いはずのシオンの言葉。
今を生きる自分は、過去のそれとは別人だ、そう思っても、腑に落ちず、気を落とす自分に気付く。
「あの……」
平穏と混乱が行き交う中、一つの事件がここワイスのチャットルームで巻き起こる。
「なんでしょう?」
ラーソは、呼び声を受け振り返る。
そこには、両手を後ろに組み、下を向く少女の姿があった。
なにかを言いたそうにしつつも、言い出せないでいるその少女を気遣い、口調を優しく呼びかける。
すると、少女は気が楽になったのか後ろ手にした両手を突き出し大声をあげた。
「この子を…… 助けてやって下さい!」
突然のお願いだった。
ラーソは目を丸くし、たじろいだ。
少女の両手の上…… そこには、小さい体を震わせる蝙蝠の姿があった。
変わらぬ日々と、変わらぬ悩みに身を任せる中、訪ねてきた一つの事件。
ラーソにとってそれは、大切な思い出となる事になる――
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