22-3

 カニールガーデン最上階。

 このフロアにある部屋は、すべてリリのためにある。そのため普段はフロア丸ごと封鎖状態。利用するものはほとんどいない。

 だが今、廊下を歩く音がする。

 固めの靴底故か、それとも人がいないためか、やけに響く。


「どこに行く?」


 声も当然、大きく反響する。

 自分の声の大きさに驚きつつも、クルトはさらに靴音に対し威勢を放つ。


「いや、お前の行き先は解ってるんだ!」


 遠退く靴音を、一層の怒声で掻き消した。

 残響が止んだ時、再び靴音が。だが、それも程なく止まる。


「もはや貴様には関係のないことだ」


 代わりに来る、冷たさを纏ったシオンの声。 クルトは度胸を高める。

 シオンが何かをしでかす前に止める。そのために。


 遠目ではあるが、目が合った。

 対等なる対峙の時。足は、自然に前へと勇む。

 だが、クルトはそれ以上何もすることが出来なかった。

 なぜならば…… シオンはもうここには居ないからである。

 ジョウントタグですぐにその場を去ったのだ。


(くそ!)


 行き先はミレマに決まっている…… それを知りながら、咎められなかったもどかしさ、後ろめたい感情に、自虐心がわき上がる。


(今は、協力者の後ろ盾に頼るしかないか)


 そう言い聞かせ、自身を正当化させるが、やはり問答は絶えず苦悩は続く。

 本当になにもする事が無いのか…… 否。

 顔を上げ、進み出す。一目散にリリの部屋へと。



「シオンは今ミレマに向かったはずなんだ。一度でいい。あいつのオーラを調べてみてくれないか?」


 リリに会うなり、破竹の勢いで獅子吼する。


「またシオンの悪口ですか? いい加減にしないと怒りますよ」


 寝起きを起こされた上、聞きたくないであろうシオンの話だ。不機嫌なのも無理はない。

 しかし不愉快なのはクルトも同じ。

 負けじと強気に勇み寄る。


「調べるのが嫌なら…… ヤーニを俺に貸してくれないか?」


 さすがのリリも、虚をつかれたらしい。返答に困り、目を白黒させている。

 好機とばかりにクルトは懇願を続けた。


「え、な…… ずいぶん強引ですね。わかりましたよ、ヤーニに言っておきます」


 結果、見事に許可を得ることができた。

 よし、と心の中で歓声を上げ、クルトはリリに一礼をした――

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