21「叢雲(むらくも)」
21―1
まずい。
今しがた飲み干した紅茶も、この状況も。
ここは小さな村〝ミレマ〟にある唯一のチャットルーム。
室内は活気さがまるで無く、わずかに居座る人達も陰気さが見えるほど沈んだ顔をしている。
クルトはその中で、頭を抱えた。
ここに来た理由…… それは、シオンが計画を続けているのかを確かめる為だった。
訪れた結果、出した答えはシオンの黒。
この土地に入った時から感じた奇妙な陰気。それに加え、村人から聞いた「ここ最近、自ら命を絶つ者が多い」という情報が、否応無しにそう確信させた。
二杯目の紅茶を頼む。
メニューは違えど、やはりまずい。陰気に満ちた空間が、少なからず味覚を鈍らせているのだろう…… クルトは思い、肩をすくめる。
そのまま、テーブルに付し目を閉じる。
広がる映像は、夢ではなく、シンクロ・シティ特有の宇宙的空間。
そこで個人周波数を用い、特定の人物に呼び掛ける。
テレパシーの開始である。
『間違いない。やはりここはあいつに利用されている。前に来た時より明らかに様子がおかしい』
クルトには、唯一信頼のおける本当の仲間が居た。
進化派に疑念を抱いて以来、シオンらに気付かれないよう連絡を取り合っていたワンダラーである。
進化派を解体させる好機と思えば、常にこの協力者とテレパシーを交わし、情報をシャアしていた。
『だがこれはある意味チャンスだ。うまくいけばこの一件を片付けて、シオンに手痛いダメージをくれてやれる』
クルトは最大限の機転を利かせ、一つの計画を立てていた。
だが、自身がそれを行えば、たちまち仲間に感づかれる事は明白。そこで、クルトは協力者に依頼を立てる事で成し遂げようとしたのだ。
『……ありがとう。俺の方ももう少し足掻いてみるよ』
話し合いの末、協力者はそれに合意。
だが、それを行う者は協力者本人ではなく、別に用意した腕の立つ仲間であるという。
クルトは承知し、再度礼をした後テレパシーを終えた。
計画の成功を願いながら、注文していた三杯目の紅茶を流し込む。
陰気に満ちた空気の中で飲む紅茶は、先程よりほんの少し美味しく感じられた――
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